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「観る将」が観た第5期清麗戦第一局

7月12日に第5期大成建設杯清麗戦五番勝負第一局が、東京のホテルニューオータニで行われました。早くも通算3期となった里見香奈清麗に挑むのは、女流棋界のタイトルを分け合う好敵手西山朋佳女流三冠です。両者は昨年度、実に5つのタイトル戦で顔を合わせましたが、今年度はこれが最初の番勝負となります。9月に開幕する白玲戦七番勝負でも対戦が決まっており、2人の熱い戦いの火蓋が切って落とされます。

里見清麗は前期五番勝負で、加藤(桃)清麗(当時)に3連勝して奪還を果たしました。今年度は8勝1敗と好調で、女流王位戦五番勝負で伊藤女流三段(当時)に敗れたのが唯一の黒星です。西山女流三冠は今期予選では再挑戦トーナメントを勝ち上がり、本戦挑決では加藤(桃)女流三段(当時)を破って自身初の清麗挑戦を決めました。今年度は15勝0敗と絶好調で、昨年度から続く連勝は18(歴代3位)まで伸びています。両者の対戦成績は、里見清麗の26勝24敗と拮抗しています。

前日に行われた開幕式で、里見清麗は「明日から番勝負が始まりますが、自分の力を精一杯出しきれるように頑張っていきたいと思っております」、西山女流三冠は「番勝負は持ち時間が4時間と、少し長くなります。それに見合った指し手を重ねていけるように頑張ります」と決意表明しています。


里見清麗は中飛車から向かい飛車

挑戦者の西山女流三冠が白地に青い花柄の華やかな着物と薄黄色の袴で入室し、里見清麗は白と薄紫の花をあしらった落ち着いた雰囲気の着物と紫色の袴で入室します。振り駒で先手となった里見清麗が中飛車に振り角道を開けると、西山女流三冠はすぐに角を交換します。里見清麗が飛車で取って向かい飛車に構えると、西山女流三冠も向かい飛車に振って相振り飛車の将棋となります。

バランス重視の陣形

里見清麗が先に飛先の歩を交換して浮き飛車に構えると、西山女流三冠も飛先の歩を交換して下段に引きます。里見清麗は29分の熟考で▲5八金上と、3筋の自玉とは一路隔てて5-6筋に2枚の金を並べてバランス重視の陣形を敷きます。西山女流三冠が7筋に銀を上がって矢倉を組むと、里見清麗は飛車を下段に引きます。

下段飛車の横利き

西山女流三冠が40分の長考で銀を8筋に繰り出すと、里見清麗も6筋に銀を繰り出して桂頭を守ります。西山女流三冠が4筋の金を玉の脇に上がって下段飛車の横利きを通すと、里見清麗は4筋の歩を突きます。西山女流三冠が次の44手目を考慮中に昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は里見清麗が2時間40分、西山女流三冠が2時間22分となっています。

4筋を巡る攻防

昼休が明けると、西山女流三冠は4筋の歩を狙って△3五銀と出ます。里見清麗が30分の熟考でじっと1筋の歩を突くと、西山女流三冠は4筋の歩を突いて力を溜めます。里見清麗は▲5五銀と出て4筋の守りを補強しますが、西山女流三冠は4筋の歩をぶつけて仕掛けます。里見清麗は3筋の歩を突き捨てて銀を呼び込み、▲3七歩と打って銀を2筋に追います。西山女流三冠は2筋に歩を合わせて△3五銀と戻しますが、里見清麗は▲4四歩と伸ばして拠点を作ります。

飛車の援軍

西山女流三冠が再び2筋の歩を合わせて飛車で取ると、里見清麗は受けずに飛車を4筋に回して攻撃態勢を作ります。西山女流三冠が22分考えて残り1時間を切り△4五歩と受けると、里見清麗は27分の熟考で2筋を歩で受けます。西山女流三冠は△2四飛と引きますが、里見清麗が24分考えて残り40分を切り▲5七角と間接的に飛車を睨むと、三度みたび2筋の歩を合わせて飛車で取り、5筋の銀を支える歩を狙います。

角切りの攻勢

里見清麗は▲3五角と銀を食いちぎり、▲4三銀と王手で打ち込み金と交換し、後手陣を崩してから歩で飛車を追います。飛車で5筋の歩を取ると持ち駒の金で捕獲されてしまうので、西山女流三冠は△2四飛と引くしかありませんが、里見清麗は▲4四金と王手で追撃します。西山女流三冠は5筋に玉を引いてかわし、里見清麗が▲3三金と桂を取ると、更に6筋に早逃げします。形勢は里見清麗に傾いてきたようです。

里見清麗の竜

里見清麗が▲4五飛と走ると、西山女流三冠は飛頭に歩を打って銀で取らせてから、玉を7筋に逃がします。里見清麗は▲3五銀と引いて飛車に当て、西山女流三冠が飛車を5筋にかわすと、▲4二飛成と竜を作ります。里見清麗が▲8五歩と銀頭を叩くと、西山女流三冠は△4一歩と竜頭を叩きます。

飛車を見捨てての反撃

取ると竜金両取りがあるので、里見清麗は▲5一竜と潜りますが、西山女流三冠は△5九銀と金取りに打って攻め合います。里見清麗が▲5七歩と竜取りに打つと、西山女流三冠は△6八銀成と金を剥がし、1分将棋に突入すると更に金取りに△5九角と打って詰めろを掛けます。里見清麗は▲3九銀と引いて自玉の退路を作り、西山女流三冠が飛車を見捨てて△6八角成と金を取って馬を作ると、歩で飛車を取ります。

鮮やかな即詰み

西山女流三冠は△3五馬と銀を取りますが、里見清麗は▲6五桂打の王手から後手玉に攻め掛かります。西山女流三冠は玉を8筋に引いてかわすと、里見清麗は▲8四歩と銀を取って詰めろを掛けます。西山女流三冠は秒読みに追われて玉を9筋に早逃げしますが、後手玉には即詰みが生じており、里見清麗が▲8三歩成と王手を掛けると投了を告げました。

まとめ

本局は里見清麗が中飛車に構えましたが、西山女流三冠が角交換すると相向かい飛車の将棋となりました。里見清麗は玉と金の間に一路設けてバランスを取る工夫を見せ、後手の飛車の捌きを封じました。里見清麗が玉と金の間から飛車の利きを通し、角を切って攻め込むと、西山女流三冠は玉を早逃げして凌ぎました。西山女流三冠は飛車を犠牲に先手陣の金銀3枚を剥がしましたが、里見清麗は竜を作って先手玉に迫り、鮮やかな即詰みに討ち取りました。
終局後、先勝した里見清麗は「引き続き力を出しきれるように頑張りたいと思います」、連勝が止まった西山女流三冠は「すぐに来ると思うので、今回の反省を生かせたらと思います」と話しました。2人による十二番勝負は始まったばかりであり、次局以降も熱戦を期待したいと思います。

大成建設杯清麗戦は大成建設が主催しています。棋譜は下記サイトをご確認ください。


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