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「観る将」が観た第63期王位戦第二局

7月13-14日、お~いお茶杯第63期王位戦七番勝負第二局が、札幌市定山渓温泉の「ぬくもりの宿ふる川」で行われました。第一局を落とした藤井聡太王位がタイスコアに戻すのか、挑戦者の豊島将之九段が連勝してリードを拡げるのか、注目の一局となりました。前日のインタビューで、藤井王位が「しっかり考えて良い内容にしていければ」と語ると、豊島九段も「自分らしい積極的な将棋を指して熱戦にできれば」と語っています。


戦型は角換わり

豊島九段が白の着物に若草色の羽織で入室し、ほとんど同時に藤井王位が薄い水色の着物に藤色の羽織で入室します。定刻になると、藤井王位はいつも通りお茶を口にしてから飛先の歩を突き、豊島九段も飛先の歩を突きます。藤井王位が角換わりに誘導し、相腰掛け銀の将棋になりました。藤井王位が入城してから▲4五桂と跳ねて仕掛けると、豊島九段は△2二銀と引いて受けます。

挑戦者が早くも大長考

藤井王位は3筋と1筋の歩を突き捨ててから2筋の歩もぶつけますが、豊島九段は手抜いて桂取りに△4四歩と伸ばします。藤井王位が7筋の歩も突き捨ててから▲1五香と走って歩を補充すると、豊島九段は2時間を超える長考に沈み、次の54手目を考慮中に昼休となりました。早くも激しい局面に突入していますが、AIの評価値はほぼ互角です。各8時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王位が7時間35分、豊島九段が5時間25分となっています。

王位の長考返し

豊島九段が昼休を挟む175分の大長考で△1五同香と取ると、藤井王位はすぐに桂取りに▲7四歩と打ちます。豊島九段が構わず飛車に当てて△1八香成と飛び込むと、AIの評価値が藤井王位の70%と傾きます。藤井王位はお茶を口にして棋譜用紙を確認し、99分の長考で飛車取りに構わず▲7三歩成と踏み込みます。豊島九段が△7三同金と応じると、藤井王位は更に116分考えて、そのまま次の59手目を封じました。AIの評価値は藤井王位の72%、残り時間は藤井王位が4時間0分、豊島九段が4時間33分とほとんど並んでいます。

飛車を見捨てての強襲

藤井王位の封じ手は、王手銀取りに▲4三桂と攻め続ける手でした。豊島九段が△5二玉と逃げると、藤井王位は銀桂交換して▲2三歩成と"と金"を作って金に当てます。豊島九段が49分考えて飛車を取ると、藤井王位は取れる金を取らずに▲7四歩と金頭を叩きます。豊島九段は金を引いてかわしますが、藤井王位は▲7三銀と追撃し金銀交換して2枚目の"と金"を作ります。

難解な局面

豊島九段は取られそうだった金で"と金"を1枚とりますが、藤井王位は46分の熟考で飛車取りに▲7二角と打ちます。次の72手目を豊島九段が39分考えたところで昼休となりました。後手陣は崩されてAIの評価値も藤井王位の75%と傾いていますが、駒割りは飛香と金の交換で後手の駒得となっており、先手は歩切れなので難しい状況が続いています。両者とも慎重に時間を使い、残り時間は藤井王位が2時間47分、豊島九段が2時間22分となっています。

辛抱の凌ぎ

豊島九段は昼休を挟む59分の長考で△7一飛とかわしますが、藤井王位は王手飛車取りに▲6二金と打ち飛車を取ります。豊島九段は26手前に突いた歩でようやく△4五歩と桂を取り払いますが、藤井王位は▲6二飛と打って後手玉の逃げ道を狭めます。豊島九段は△3一玉と早逃げしますが、持ち駒のない藤井王位は▲6三"と"と寄って、じわじわと後手玉を追い詰めます。豊島九段は飛車取りに△5一銀と打って飛車の横利きをずらしてから△7六歩と先手陣に迫り、銀を取らせる代わりに△2二玉と逃げます。

待望の反撃

藤井王位が▲7六銀と歩を取ると、残り時間が1時間を切った豊島九段は銀取りに△8四桂と打ちます。藤井王位は▲7七歩と銀を支えますが、豊島九段は銀桂交換してから△7七歩と金頭を叩きます。豊島九段の渾身の反撃に、藤井王位は慎重に35分考えて▲7七同桂と取り、残り時間が1時間を切りました。豊島九段が再度△8四桂と打つと、藤井王位は▲6七銀と引いて凌ぎます。

慎重な寄せ

豊島九段は△6九飛と打ち込んで攻めをつなぎますが、藤井王位は▲2五桂と打って再び後手玉に攻め掛かります。豊島九段は残り3分まで考えて△2四金と上がりますが、藤井王位は一手一手慎重に時間を使って▲2三歩~▲2一竜と王手で追います。豊島九段は微動だにせず逆転への道を探りましたが、ついに1分将棋となり秒読みの声を53秒まで聞くと、次の手を指さずに投了を告げました。

まとめ

本局は藤井王位の仕掛けから3筋の歩の突き捨てに、同歩と応じて自らの研究局面に誘導したのは豊島九段でした。しかし藤井王位は更に1筋の歩も突き捨て、香を犠牲にむしり取った歩で桂を取りに行く工夫を魅せ、結果的に研究の深さで上回ったのは藤井王位の方だったようです。封じ手の辺りでは既に失敗と感じていた豊島九段は辛抱を重ねて反撃に転じましたが、慎重に時間を使って対処した藤井王位の前に届きませんでした。
本シリーズはお互いに先手番で快勝して1勝1敗のタイスコアとなりました。第三局は1週間後に予定されていますので、白熱した好局を期待したいと思います。

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