「観る将」が観た第80期順位戦B級1組 藤井二冠3回戦
6月13日に順位戦B級1組3回戦、藤井聡太王位・棋聖と屋敷伸之九段の対局が行われました。B級1組3回戦の一斉対局は6月17日に予定されていますが、棋聖戦第二局の移動日と重なるため前倒しされたようです。
藤井二冠は2回戦で稲葉八段に敗れて順位戦連勝記録が22で途絶えてしまいましたが、来期A級入りを目指して残りの対局で着実に勝ち星を積み上げて欲しいと期待しています。屋敷九段は、藤井二冠に破られるまでタイトル挑戦・タイトル獲得・タイトル防衛の最年少記録保持者でした。挑戦と獲得については更新されてしまいましたが、残るタイトル防衛の最年少記録も今期の棋聖戦で更新されるのか注目されています。
両者はこれまで2回の対局があり、いずれも藤井二冠が勝っています。本局はあらかじめ屋敷九段の先手と決まっており、どのような作戦で臨むのかが注目されましたが、相掛かりの将棋となりました。序盤からお互いに少考を重ね、じっくりした立ち上がりになっています。
先に飛先の歩を交換した藤井二冠は飛車を四段目に引き、7筋に寄って縦歩取りを狙った千日手含みの手順で相手の動きを牽制します。2度目の△7四飛に対して、屋敷九段は角交換して千日手を回避します。屋敷九段は3筋の歩を交換して手持ちにしてから自陣の整備に戻り、ジリジリした駒組みが続きます。夕休まで48手進みましたが、AIの評価値は藤井二冠の55%とほぼ互角、残り時間も両者2時間30分程度で並んでいます。
夕休明けも両者間合いを計る手が続きましたが、20時頃ついに藤井二冠が6筋から仕掛けます。桂交換の後、藤井二冠は飛車取りに角を打ち馬を作ります。屋敷九段も3筋から反発しますが、AIの評価値は藤井二冠の68%と徐々に傾いてきました。藤井二冠は前後に体を揺らして考えています。
藤井二冠はじっと△6五馬と寄って、馬取りをかわします。屋敷九段はここまで微動だにせず考えていましたが、この手は読みになかったようで藤井二冠が席を外すと少し俯いたように見えます。屋敷九段は苦しげな表情で相手の金頭を歩で叩き、藤井二冠は自然に△3三同金と応じます。22時を過ぎ、両者とも残り時間は約1時間となりました。
屋敷九段は時折斜め上に視線をやり、▲5五桂と攻めを継続します。ABEMA解説陣は銀を引く手が自然と解説していましたが、藤井二冠はこのタイミングで△7五桂と反撃します。AI評価値は藤井二冠の82%と大きく傾きましたが、1手間違えれば逆転しそうな難解な終盤戦となり藤井二冠は1手1手慎重に少考を重ねます。
屋敷九段が▲7二角と飛金両取りに打つと、藤井二冠は残り時間42分から22分を使って△6六桂と打ち詰めろを掛けます。更に飛車を成り込み王手角取りから△7二竜と相手の角を奪い、藤井陣は安泰になったように見えました。
しかし屋敷九段は1分将棋となりながら連続王手で迫り、力強い手つきで詰めろを掛けて下駄を預けます。ABEMAのAIは先手玉の詰みを示していますが、解説陣は詰み筋を発見できません。藤井二冠もすぐには着手せず、緊迫した時間が流れます。藤井二冠は2分弱の考慮で読み切ったか、△4五銀と王手した手つきには落ち着きが感じられます。屋敷九段はしばらく指し続けましたが、0時40分頃130手目を見て投了となりました。
本局は相掛かりの持久戦となり、AI評価値を見る限り、徐々にリードを拡げた藤井二冠が押し切る快勝に見えました。しかし内容的には最終盤まで紙一重の攻防が続き、どちらが勝ってもおかしくない激闘だったと思います。最後は20手以上の長手数の即詰みとなりましたが、歩以外の持ち駒を全て使い切る詰将棋のように美しい手順でした。深夜まで長時間の対局で疲労困憊の中、詰みを見逃さなかった藤井二冠と、ギリギリの勝負に持ち込んだ屋敷九段の二人に拍手を贈りたいと思います。
この結果、藤井二冠は2勝1敗、屋敷九段は1勝2敗となりました。B級1組の戦いはまだまだ始まったばかりですので、両者とも昇級に向け白星を重ねて欲しいと思います。
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