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「観る将」が観た第81期順位戦A級 藤井竜王8回戦

2月1日に順位戦A級8回戦の一斉対局があり、藤井聡太竜王(王位・叡王・王将・棋聖)は永瀬拓矢王座との対局となりました。藤井竜王は6勝1敗で単独トップに立っていますが、3人が2敗で追う状況となっており、1敗を維持したまま名人挑戦権を獲得したいところです。永瀬王座は4勝3敗と苦しい状況ですが、本局に勝てばプレーオフ進出の可能性を残す重要な一局になっています。

藤井竜王のデビュー直後から練習パートナーとして切磋琢磨してきたことで知られる両者ですが、これまでの対戦成績は藤井竜王の11勝4敗となっています。今年度は棋聖戦五番勝負で顔を合わせ、藤井棋聖が3勝1敗で永瀬挑戦者を退けています。


戦型は角換わり相腰掛け銀

先手の永瀬王座が両者得意の角換わりに誘導し、藤井竜王は受けて立ち相腰掛け銀の将棋となります。藤井竜王が飛車を四段目に浮くと、永瀬王座は3筋の歩を突き捨ててから1筋の歩をぶつけます。藤井竜王は早くも長考に沈み、次の38手目を50分以上考えたところで昼休となりました。各6時間の持ち時間の内、残り時間は藤井竜王が4時間23分、永瀬王座は5時間57分と1時間半以上の差が付いています。

永瀬王座の研究手順

藤井竜王は昼休を挟む58分の長考で同歩と応じます。永瀬王座が銀取りに▲4五桂と跳ねると、藤井竜王は△3四銀とかわします。永瀬王座は2筋の歩もぶつけますが、藤井竜王は構わず4筋の歩を伸ばして桂を取りにいきます。永瀬王座は2筋の歩を取り込み、藤井竜王が金で取ると、桂頭を歩で叩きます。

飛車と金桂の2枚替え

藤井竜王が歩の連打で飛車を吊り上げると、永瀬王座はわずか3分の考慮で飛車を見捨てて、桂を取って"と金"を作ります。藤井竜王が飛車を取ると、永瀬王座は▲2四歩と金頭を叩きます。金をかわすと先手の攻めが加速するので「自信がない展開」と感じた藤井竜王は55分長考し、金を諦めて△2七歩成と"と金"を作ります。ここまで均衡が保たれていたAIの評価値は、飛車と金桂の2枚替えが確定した永瀬王座の56%とわずかに傾きます。

永瀬王座の連続長考

まだ15時を回ったところですが早くも終盤戦に差し掛かり、研究を外れたと思われる永瀬王座は83分の長考で金を取り2枚目の"と金"を作ります。藤井竜王が"と金"を3筋に寄せて銀に当てると、永瀬王座は更に58分考えて銀を5筋に上がってかわします。藤井竜王が次の58手目を考慮中に夕休となりました。残り時間は藤井竜王が2時間16分、永瀬王座は2時間56分と一時は2時間以上付いていた差が縮まっています。

永瀬王座の要塞

藤井竜王が夕休を挟む31分の考慮で△4九飛と打ち込むと、永瀬王座は▲3三"と"と王手銀取りに寄り、"と金"で銀を取ります。藤井竜王がここで4筋の桂を取ると、永瀬王座は49分の熟考で▲5九金打と飛車に当て、駒得を活かして金銀5枚の要塞を築きます。ついに残り時間は逆転しましたが、AIの評価値は永瀬王座の65%と傾いています。

藤井竜王の勝負手

かなり苦しいと感じていたであろう藤井竜王が41分考えて、取れる香を取らずに△3九飛成と先手玉近くに竜を作る勝負手を放つと、永瀬王座は残り時間が1時間を切り、"と金"を4筋に寄せて銀に当てます。藤井竜王は攻防に△2五角と打ち、永瀬王座が▲2六歩と打って催促すると、△5八角成と金を食いちぎり△4八"と"と攻め掛かります。

永瀬王座の2枚角

永瀬王座が▲5五桂と攻め掛かると、藤井竜王は45分考えて残り時間が35分となり、6筋に玉を引いて早逃げします。永瀬王座は残り15分まで考えて▲2五角と攻防に打ち、藤井竜王が桂で合い駒すると、もう1枚の角を▲4二角と打って後手玉に迫ります。藤井竜王は残り8分まで考え、秒読みの中"と金"で金を剥がしてから4筋の歩を取り込みます。

残り時間の切迫

永瀬王座が▲5三"と"と入って金に当てると、藤井竜王は△5五銀と桂を食いちぎります。永瀬王座も秒読みとなり、残り7分まで考えて銀で取りますが、藤井竜王は4筋の歩を成り捨ててから△4五金と詰めろを掛けます。永瀬王座は▲6二"と"から王手を続けて▲5四銀打と王手金取りで後手の金を取って詰めろを逃れます。

1分将棋に突入

藤井竜王が銀取りに△6三桂と打つと、永瀬王座は▲5六玉と上がって銀に紐を付けます。1分将棋に突入した藤井竜王は△4八竜と引いて詰めろを掛けますが、永瀬王座は▲5八金と投入して竜を追い、自玉を安全にしてから▲5二角成と後手玉に迫ります。藤井竜王がやむなく△6二金と打って守ると、永瀬王座は△5一角成と2枚目の馬を作り、馬を1枚取らせる代わりに△8四馬と飛車を取ります。

鉄壁の受け

藤井竜王は△5五桂と銀を取りつつ自玉の退路を作り、頓死筋を秘めた技を繰り出しますが、永瀬王座は▲4八金打と竜に当てて手堅く守ります。藤井竜王は竜をかわすしかありませんが、永瀬王座は▲7四馬から寄せに入ります。藤井竜王はがっくりとうなだれながら数手指し続けましたが、じわじわと自玉を包囲されると投了を告げました。

まとめ

本局は永瀬王座が研究の深さを活かして飛車と金桂の2枚替えで優勢の局面を築きました。藤井竜王は攻め合いに勝負を託しましたが、永瀬王座は駒得を活かして的確に受けながら後手玉をじわじわと追い詰め勝ち切りました。
藤井竜王は敗れて6勝2敗となり、広瀬八段と並びました。両者とも最終局に勝てば、竜王戦七番勝負を戦った2人によるプレーオフとなります。3月に予定されている最終一斉対局で、どのようなドラマが待っているのか、楽しみにしたいと思います。

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