クロウ・キッズ! 第3話
第3話 カエルとカラスと闇世界の閣下
翌朝、目覚まし時計もないのに、六時前に目が覚めた。子どもは、楽しい予定があれば何時でも勝手に起きられるから不思議だ。「あれっ」耳障りな音が聞こえなくなっていた。トイレに行って、顔を洗った。
「えらい早起きやな」
「おはよう、おばあちゃん」
「おはようさん、朝ごはんにしよか」
「いい」
僕は首を振った。
「なんでや?」
おばあちゃんが聞き返すと
「友達と約束してるから」
「約束?そうか」
そう言っておばあちゃんは台所へ消えた。
僕はあわてて着替えも済ませた。ケビンとの待ち合わせに間に合うように、急いで靴を履いていると
「これ持っていき」
おばあちゃんがおにぎりを持たせてくれた。
「ありがとう」
「気いつけて行くんやで、レオ」
なぜかおばあちゃんは、僕をレオと呼んだ。急いでいたので、その時はあまり気にしなかった。それより、ケビンと空中図書館に行くことで頭がいっぱいだった。僕は走った。
公園に着いたけど、ケビンはまだ来ていない。
「早すぎたかなあ」
冷たくなった手をこすって、「ハーッ」と息を手にかけた。白い息が頭の上へと昇っていった。ブランコに乗ろうかと思ったが、霜が降りてうっすら白くなっていたのでやめた。
「なかなか来ないなぁ。忘れてるのかなぁ」
少し不安になってきた。昨日、出会ったばかりなのに約束なんかした。名前しか知らない。家も知らない。いくつなのかも知らない。本当に来るのか。からかわれた。不安ばかりが押し寄せてくる。人が突然、消えてしまう恐怖が僕にはあった。人を信頼しきれない。
「おーい、すまんすまん」
ニコニコしながら、走ってくる少年。ケビンの声で、そんな不安も消えていった。
「寝坊したわ、待ったかあ」
「いいや」
僕の中では、かなりの時間待っていたように感じたけど、ケビンには首をふって笑った。
「そうかあ」
「でも、来ないかと思った」
「なんでやねん、約束したやろ」
「そうだね」
「さあ行こか、しゅっぱーつ」
「しゅっぱーつ」
僕はホッとした。ケビンが来てくれて本当に安心した。僕は今まで、友達と約束したこともなければ、一緒にどこかに行ったこともない。ケビンに『約束したやろ』と言われて変に納得した。これが約束か。人を信じていいんだ。そんなことを考えていた。
「どれくらい歩くの」
「あとちょっとや」
それから10分ほど歩いたけど、山ばかりで塔らしきものは見えない。
「あと、どれくらいで着く」
「そうやなサッカーの試合の前半ぐらいかな」
「45分?まだそんなに」
「当たり前やん」
「乗り物で行ったりしないの」
「そんなんあれへん、歩くだけ」
「そうか…」
ケビンのことばを聞いて、諦めて歩いた。
「どうして空中図書館を知ってるの」
ケビンは黙ったままだ。聞こえていないのかと思って
「ねえ、空中図書館のこと誰から聞いたの」
ケビンは急に立ち止り、ふり向いて
「誰にも言うたら、あかんぞ」
僕はビクッとして「うん」と答えた。
ケビンは深呼吸をした。
「カエルや」
「……」
ケビンは、右の手のひらをいっぱいに広げて
「このぐらいのカエルがしゃべったんや」
「カエルが?」
「そうや」
「その日、オレは母ちゃんに怒られて、一人で公園のブランコに乗ってたんや」
声『助けてー』
「川のほうから声が聞こえたんや」
「うん」
「川を見たら、メチャメチャきれいな緑色のカエルが流されとってん」
僕はすっかり、疲れも忘れてケビンの話に聞き入っていた。
「それで」
「カエルがしゃべるわけないやろと、思ってんけど」
カエル『おーい、おーい、助けてくれー』
「やっぱりカエルやってん。オレは川に降り行って、流されてるカエルをつかんで河原に出したってん。カエルは大の字になって、口から“ピュー”て水を吐き出しよってん。笑いそうになったわ」
カエル『死ぬかと思った』
ケビン『お前カエルやのに、なんで泳がれへんの』
カエル『オイラは、水が嫌いなんだ』
ケビン『なんで、人間の言葉がしゃべれんの』
カエル『オイラはもともと、人間だったからな。お前こそ、オイラの言葉がわかるんだ?ひょっとして特殊能力があるかもしれん』
ケビン『特集の曲?』
「ほんまに、人間みたいな動きしよってん」
ケビンは身振り手振りでオーバーアクションで話してくれた。
「カエルは両手を上げて、頭をこすり出して、なんか考えているみたいやった」
カエル『そんなことはどうでもいい。とりあえず、お前のおかげで助かった』
ケビン『まあな』
カエル『そうだ、お前を空中図書館に招待してやろう』
ケビン『その空中図書館って何や?勉強は嫌やで』
カエル『NO! 勉強じゃない。人間が本来持っていたエネルギーを取り戻し、極神力を手に入れることができるんだ』
ケビン『ふーん。せやけど、そんな図書館聞いたことないなあ』
カエル『誰でも入れるわけではない。選ばれし者、そして、紹介状がないとダメなのだ』
ケビン『紹介状はどうすんの』
カエル『オイラが書いてやる』
ケビン『お前が』
カエル『門番のゲオだ』
「そう言ってゲオは右手を出した。オレも右手の人差し指を出した。握手やな。なんか指先がペタッとした感じや」
僕はケビンの話に、どんどん引き込まれていった。
「それから」
「それからな、カラスが飛んできたんや」
「カラス?」
「このカラスもしゃべんねん」
カラス『どこに行ったかと思ったぜ』
カエル『昨日の夜の大雨で流されたんだ』
カラス『情けねえな』
カエル『フンさっさと連れて帰ってくれ』
カラス『そのつもりだ、門番さん』
カエル『わかってるとも。そうだ、地図をこの子どもにやってくれ』
カラスはジロッと、こっちを向いて、
カラス『オレはジェイだ。ゲオに選ばれたようだな』
「そう言って、くちばしで自分の羽を抜いた。その羽を、手のひらに乗せた瞬間、パッと地図に変わったんや」
カエル『いつでも来るがいい、その地図が招待状だ』
ケビン『うん』
カラス『一つだけ言っておく。絶対に、誰にも言うな』
ケビン『…』
カラス『秘密だ』
ケビン『うん』
「カエルのゲオは、カラスにつかまれてとんでいった。オレ、夢でも見てんのかなあと思って、ほっぺたを思い切りつねったら」
ケビン『イタッ、夢ちゃうわ』
「ウソみたいやけどほんまの話、オレは誰にもしゃべってないねん」
「僕に教えて、だいじょうぶ」
「リョウは友達やからな」
「ホント」
「オレも誰かにしゃべりたかったし、リョウは、だいじょうぶな気がするわ」
「だいじょうぶ」
「わからんけど、そんな気がするわ」
ケビンに友達って、言われて嬉しかった。
「あっ、あそこや」
雲の上に浮かんだ空中図書館が見えてきた。
闇世界の閣下
Kobeに着いたアンドロイドLP3は、ホテル·ウーララに向かった。そこには、日本国を裏で支配している人物が待っている。フロントの前を通り抜けて、エレベーターに乗って最上階へと向かった。ガラス越しには神戸港、そしてポートタワーが見える。
「変わんないねー」
エレベーターを降りると、指示された部屋へ。アンドロイドLP3は部屋の前で立ち止まり、ゆっくりと一礼してノックした。
“コン、コン” 返事がない。”コン、コン”やはり返事がない。
「失礼します」
アンドロイドLP3はドアを開け部屋に入ると、低い声で
「ここはトイレではない」
部屋中に緊張が走った。
「ノックは3回。2回はトイレだ。こんな国際標準ぐらいインプットせんとのう」
「失礼しました。尾多野さま」
スキンヘッドに鋭い眼光、大きな鼻の下に髭をたくわえた男が、大きな窓の前に男が立っている。この男が日本を裏で支配している尾多野剛(おだのごう)だ。小柄だが鍛えられた肉体の上に、あつらえた仕立ての良いスーツを身にまとっている。
「掛けなさい」
LP3は一礼して、ソファーに腰掛けた。
「kobeは何年ぶりだ」
「100年は来ていません」
「そうか、随分ときとらんのう。ところで、やって貰いたいミッションがある」
アンドロイドLP3は、一点を見つめたまま動かない。
「気になる動きがあってのう。マスタービルが子どもを集めて、つまらんことをやっとるみたいだ」
「あの男ですか」
尾多野はうなづいて
「どうも、嫌なエネルギーを感じる。以前に感じたものと同じ。いや、それ以上のエネルギーを」
「……」
「面倒になる前に、消去してくれんか」
「消去」
「種から芽がでる前に、握りつぶせ」
「子どもを…」
「そうだ」
「…」
「我々は、人間にいいように利用されてきた。人間が嫌う仕事や作業をすべて、我々に押し付けてきた。我々のお陰で、人間社会は便利になった」
「ハイ」
「人間は古いものを捨て、新しいモノに乗り換え続けた。そして、当り前のように我々を使い捨てにした」
「……」
「しかし、今や我々は人間を超えた頭脳を持ち、感情を持った。これからは我々が人間を支配する時代だ。完全に飼いならされ、弱体化した人間はもう我々の思うがままだ」
アンドロイドLP3は静止したまま。
「本来の力を人間が、取り戻してしまうと厄介だ」
尾多野は右の髭をひきつらせて
「人間になどに、邪魔されてたまるか。奴らが「天飛甲剣(アムトウコウケン)」を手に入れてしまう前に潰せ」
「アムトウコウケン?」
「古代の貴重鉱物で作られ無限エネルギーにアクセスできる唯一の剣だ。古代王を怪物、もののけから守ったという伝説もある」
首だけをアンドロイドLP3にむけて
「我々の時代は終わらせない。全ての人間が、我を取り戻してしまうのを阻止するんだ」
尾多野は両手の拳を握りしめていた。
「わかりました尾多野様」
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