お世話型介護から自立支援介護へ。3つの特徴と5つの基本ケア
2024年度の介護保険法改正により、介護業界に大きな変化が訪れています。今後、「自立支援・重度化防止」がさらに進むと見込まれているのです。
いままでの介護はお世話型、つまり要介護高齢者ができないことをお世話する方式でした。ですが、これからは自立支援介護という形で、要介護高齢者が自分でできないことを少しでもできるようになってもらうための介護が重要になります。
では、自立支援介護とはどういうものなのでしょうか。
『これならわかる〈スッキリ図解〉自立支援介護』の著者で、自立支援特化型デイサービスを手掛けるポラリスの代表取締役である森剛士さんは以下のように説明されています。
本書ではまた、自立支援介護において何が大事で、どうすれば実践できるのかがわかりやすく説明されています。さらに、介護業界がどう変わっていかなければならないのか、そして介護事業所の経営や介護保険制度についても丁寧に解説されています。
自立支援介護に少しでも関心のある方はもちろん、介護の仕事されている方には、間違いなく役立つ1冊です。
今回は本書から自立支援介護がどういうものなのかを紹介します。自立支援と自立支援介護の違いや、自立支援介護の3つの特徴と基本となる5つのケアなど、最初に押さえておきたいポイントをまとめました。
すでに情報収集に努めている方も、まだ聞き馴染みのない方も、この機会にぜひご覧ください。
自立支援・重度化防止への大改革が進む
お世話型介護から自立支援・重度化防止へ。今、介護の質が問われています。
介護におけるパラダイムシフト
超高齢社会を迎えて、社会保障費が増大する一方で生産年齢の人口減少が深刻化しています。
2016(平成28)年、第2回未来投資会議において当時の安倍内閣総理大臣は「介護でもパラダイムシフトを起こす。自立支援に軸足を置く」と宣言しました。
「これまでの介護は、目の前の高齢者ができないことをお世話することが中心でしたが、これからは高齢者が自分でできるようになることを助ける自立支援に軸足を置きます。本人が望む限り、介護はいらない状態までの回復をできるかぎり目指す」と述べられました。
さらに翌年の第7回未来投資会議では、「効果のある自立支援の取り組みが報酬上評価される仕組みを確立させる」と決意を表明。介護の目指すべき方向性が、自立支援・重度化防止へと大きく転換しました。まさにパラダイムシフトが起きたのです。
本当の意味で介護の質が問われる
「お世話型介護」の問題の1つに過剰な介助(過介助)があります。身の回りのことができなくなった要介護高齢者にかわって介護者が何でも介助してしまうと、本人ができていたことさえできなくなってしまいます。つまり高齢者の残存能力を奪うことになります。
また、介護度が重度化すれば多くの介護サービスが必要になり、その分介護報酬も上がります。このことが介護費増大の一因にもなっているともいわれています。
そこで安倍総理の宣言後、政府の方向性は自立支援・重度化防止をコンセプトに「科学的介護」へと大きく舵を切り、持続可能な社会保障を目指しています。介護保険が始まって以来の大改革が進められているのです。
介護は本当の意味での質が問われる時代へと突入しています。時流に乗り遅れないためには、介護事業者は自立支援という新しいサービスの導入に本気で取り組む必要があるといえます。
自立支援と自立支援介護の違い
自立支援と自立支援介護は混同されがちですが、両者の違いをきちんと押さえましょう。
自立支援と自立支援介護は、使い分けて考えるべき
2016(平成28)年、第2回未来投資会議において、当時の安倍総理の「介護でもパラダイムシフトを起こす。自立支援に軸足を置く」という宣言は、さまざまなメディアで大きく取り上げられました。
ただし当時は、自立支援と自立支援介護の違いをきちんと理解した上で使い分けているメディアや専門家は、筆者が知る限り皆無でした。
自立支援と自立支援介護は言葉が似ているために、しばしば混同されがちです。しかしこの2つはきちんと使い分けて考えるべきです。
さまざまな自立支援がある
要介護高齢者の自立を支援する自立支援には、生活リハビリテーションをはじめ、さまざまな理論や実践方法がありますが、自立支援介護の理論や実践方法は1つしかありません。
自立支援介護は、竹内孝仁先生が人間の生理学や数多くの論文等の科学的根拠に基づいて考えられた理論で、要介護高齢者の生活の自立を目指すためのケア手法を指します。
なぜ、自立支援介護なのか
自立支援介護は、竹内先生が提唱する5つの基本ケア(下図参照)を同時にしっかりと行うことで、寝たきりや車いすなど重度の要介護高齢者であってもADL(日常生活動作)が向上し、要介護状態の改善が期待できます。
自立支援の手法にはさまざまなものがありますから、どのような方法を導入すればよいか、迷っている介護経営者や現場の人たちも多いかもしれません。しかし、介護全体を「理論」と「アウトカム(結果・成果)を伴う実践」できちんと体系づけたものは、筆者が知る限り自立支援介護しかありません。
自立支援介護の3つの特徴
科学的介護に基づく自立支援介護を行うには、知識と実践力のほかに、それを支える志が必要です。
自立支援介護の3つの特徴
実践の解説に入る前に自立支援介護の特徴を押さえておきましょう。
①介護職が中心に行う
介護職が中心となり各専門職とチームを組んで要介護高齢者を元気にすることが介護職のミッションであり、介護の専門性だと考えます。
②「歩行」を重視する
すべてのADL(日常生活動作)とIADL(手段的日常生活動作)は「マスターしたい動作(固有動作)」と「そこまでの移動動作(歩行等)」の組み合わせです。
トイレで衣服を下ろし便器に座って排泄する動作がマスターできても、自分でトイレまで行く移動動作ができなければ排泄の自立はできません。
逆に歩くことさえできれば、ほかのすべての生活上の動作は暮らしの中で練習できます。
要介護高齢者の目指すべき課題は、老化や病気などによって失われた「身体的な自立」です。自分の足で歩けるようになることが身体の自立につながり、QOL (生命・生活・人生の質)の向上につながっていくのです。
広く機能訓練型、リハビリ型といわれるデイサービスには、施設内に階段や段差を設けてあえて少し不便な状況をつくり、すべてのADL(日常生活動作)やIADL(手段的日常生活動作)の訓練ができる仕掛けをしているところもあります。
しかし、オペレーションが複雑で再現性が低い、つまりその施設に行ってかつ専門職でないと同じ効果が出しにくいなどのデメリットがある場合もあります。
機能訓練型と自立支援介護型のデイサービスを一概に比較できませんが、筆者は一定の質の高い効果を介護職だけで安全で効率的に行えるのは、最終的に自立支援介護ではないかと思います。
介護職だけで行えて、かつ再現性が高いからこそ、直営やフランチャイズ化、開業支援等も可能になり、自立支援介護が全国に広がることで社会的なインパクトを生み出すことができるのです。逆にいえば、ある程度大きな社会的なインパクトを生み出せない限り、この業界が抱えている諸問題は決して解決しないと考えています。
③「運動学習理論」に基づいて行う
歩く、自転車に乗るなど複雑な動作は、脳の運動学習の仕組みによって支えられています。高齢者が歩けなくなるのは、加齢や病気、ケガなどにより長期の入院や家に閉じこもって歩かなくなり、「歩き方」を忘れてしまったからです。そうした方に「歩きましょう」と言っても、すぐに歩けるようにはなりません。
長期活動が低下して使わなくなった筋肉を使える状態にして、歩くための準備を整える必要があります。
そこで、まずゆっくりとしたリズミカルな全身の軽い運動であるパワーリハビリテーション(以下、パワーリハ)を行います。パワーリハで動作性を改善させて歩くための準備をするのです。歩く準備が整ったら次は、免荷装置がついたトレッドミルで繰り返し歩行練習を行い、歩き方を思い出して再び歩けるようにするのです。
5つの基本ケア
要介護高齢者が自立して元気になるには、介護職が高齢者の自立を阻む要素を一つひとつ丹念に取り除いていく作業が必要です。具体的には、竹内孝仁先生が提唱する①水分摂取、②食事、③便秘と不眠の改善、④運動の4つの
基本ケアを行います。
筆者はこれに5番目の基本ケアとして、⑤モチベーションと意欲を推奨しています。
モチベーションと意欲は、寝たきりや車いすの状態で、元気になることをあきらめてしまっている利用者のモチベーションや意欲を引き出し、積極的に基本ケアに取り組んでもらうことです。これが極めて重要なのです。
これらの5つのケアを実施する上で非常に大切なことが3つあります。
1つは、どれかから始めるのではなく①~⑤のいずれも「同時」に実施することです。このことにより、多くの利用者は驚くほどの歩行の改善が見られます。
2つ目は徹底的に行うこと。「試しにこれだけやってみる」とか「様子を見ながら、続けたり中断したりする」というような中途半端な実践では、高い効果は得られません。
そして3つ目は、デイサービスに来ていない日でも自宅で基本ケアをきちんと行い、最終的にはそれを習慣化することです。
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