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介護中にこんな症状が! 救急車を呼ぶべき?

介護をしているとき、相手の様子や体調が急変したら、すぐに救急車を呼ぶべきなのでしょうか。

緊急を要する場合もありますが、時間が経てば自然と治まったり、主治医から電話で指示をもらうことで復調したりすることも。ですが、救急車を呼ぶべきかどうかをどのように見極めればよいのかは簡単ではありません。介護を行なう立場として、急変時に慌てないように「こんな場合は救急車を呼ぶ」とあらかじめ理解しておくことが必要です。

今回は翔泳社の『介護現場で使える 急変時対応便利帖』から、急変時の症状の例として「意識障害」「しびれ」「めまい」「息苦しくなる」を解説したパートを紹介します。

症状と原因、疑われる疾患、さらに対処法などを詳しく説明していますので、家庭で介護をしている方はもちろん、介護職や援助職の方も参考にしていただければと思います。

◆監修者について
河村 雅明(かわむら・まさあき)

日本大学医学部卒。医療法人社団弘成会河村内科院長。2012年から2016年まで一般社団法人東京都北区医師会の代表理事・副会長、東京都北区高齢者あんしんセンターサポート医、東京都北区障害者介護給付費等審査会長ほか務める。
執筆:PART1(P30 ~ 33)

◆著者について
介護と医療研究会(かいごといりょうけんきゅうかい)

介護・医療関係をテーマに編集・執筆を行うグループ。介護・医療雑誌の取材、執筆などを手がける。介護・医療関係者が在籍し、介護業界をよりよくするために意見を交わしている。

意識障害

意識を失っている場合はもちろん、意識はあるもののいつもと様子や反応がおかしい場合も意識障害が疑われます。原因は脳血管疾患が多いですが、低血糖や脱水、心疾患、薬剤の影響も考えられます。

NG! やってはダメ!!

・自分1人で対処しようとする ➡ 必ず誰かがそばにいるようにする
・その人のそばを離れる ➡ とくに意識を失っている場合は、必ず人を呼ぶ

意識障害の原因として考えられる疾患

脳卒中(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)/脳腫瘍/髄膜炎や脳炎/てんかん/低血糖/薬剤の影響(糖尿病薬、降圧薬など)/低酸素/アルコール中毒 など

意識レベルのチェックに用いるジャパン・コーマ・スケール

意識レベルを示す尺度として、日本ではジャパン・コーマ・スケール(JCS)が用いられています。3-3-9方式とも呼ばれ、意識障害が重いほど数字が大きくなります。

一時的に気を失っていたが、意識が戻った場合

一時的に気を失うことを「失神」といい、「突然起こる短時間の意識消失」と定義されます。原因は、脳の血流が一時的に減少すること(一過性脳虚血発作)や低血糖などです。一過性脳虚血発作(TIA)は、頸動脈や心臓でできた血栓(血の固まり)が、脳の血管に詰まるなどして起こります。血栓が小さかったり、すぐに溶けてしまえば血流は戻り、意識も回復します。ただし、その後本格的な脳梗塞を起こすことが多いので、決して見過ごさず、主治医に報告して指示を受けましょう。

※TIA発症後90日以内に脳梗塞を発症した人のうち、約半数はTIA発症後48時間以内に脳梗塞を発症したという報告があります。また、TIA発症後90日以内に脳卒中を発症するリスクは15〜20%といわれています。

しびれ

しびれは、神経経路のどこかで障害が起きたために出現します。体の片側だけに急に起こったしびれは、脳梗塞や脳出血が原因である可能性が高いので、迅速な対応が求められます。

脳梗塞で最も多い症状は運動麻痺

脳梗塞で最も起こりやすい症状は、体の右半身あるいは左半身にだけ力が入らなくなる運動麻痺です。次に多いのは、ろれつが回らなくなることや、言葉が出てこなかったり理解できなくなったりする言葉の症状で、脳梗塞の約半数に出現します。

覚えておきたい脳梗塞の症状
・顔のゆがみ
・急に手足から力が抜ける
・片足を引きずっている
・ものにつまづく
・ふらついてまっすぐ歩けない
・片側の手足だけがしびれる
・ろれつが回らない
・言葉が出ない、言葉を理解できない
・急なめまい
・ものが二重に見える
・片側の目だけ、一時的にものが見えなくなる

脳梗塞の症状が短時間で消えたときは

脳の血管が一時的に詰まったものの、血栓(血のかたまり)が小さくてすぐに溶けてしまうと、顔のゆがみ、手足の脱力、言葉の障害(ろれつが回らないなど)といった症状も短時間で消えます。このような症状を一過性脳虚血発作(TIA)といいます。TIAは本格的な脳梗塞の前兆なので、決して放置してはいけません。

NG! やってはダメ!!

・しびれのある側を下にして寝かせる ➡ しびれのある側は血流障害を起こしやすいので、圧迫はNG
・無理に移動させる ➡ 無理に動かすと、しびれの症状がひどくなる可能性が

しびれの原因として考えられる疾患

脳梗塞/脳出血/脊椎症/椎間板ヘルニア/手根管症候群/肘部管症候群 など

どんなしびれ?

「しびれ」と一言でいっても、症状はいろいろです。どんなしびれか、体のどの部位にしびれが起こっているのか、症状の特徴とそこから疑われる疾患などを、必ず確認しましょう。

「FAST」を覚えて、脳梗塞を含む脳卒中に対応!

脳梗塞の場合、発症から4.5時間以内に、「経静脈血栓溶解療法(t-PA療法)」を行うことによって、約4割の患者さんは症状がほとんどなくなる程度まで回復します。経静脈血栓溶解療法とは、t-PAという薬剤を点滴する治療法です。

しびれは、脊柱管狭窄症や糖尿病性神経障害などの慢性疾患でも見られますが、脳梗塞や脳出血などが原因の危険なしびれを見逃さないようにしましょう。

めまい

めまいは、耳、眼、頭部、脳などさまざまな部位の異常によって起こります。脳血管障害や脳腫瘍など、脳に原因がある場合は迅速な治療が必要になります。

めまいの原因

めまいの原因としては、脳梗塞や脳出血などが考えられます。また、これらのほかに視力の異常、血圧の低下、うつ状態、低血糖、脱水などもめまいを引き起こすことがあります。

NG! やってはダメ!!

・歩行での移動 ➡ 転倒の危険があるので、必ず車椅子などを使って安全な場所に移動する
・ただのめまいと軽視する ➡ めまいの原因の判断は難しい。とくに、めまい以外の症状がある場合は要注意

めまいの種類と特徴

めまいには、「回転性のめまい」「浮動性のめまい」「立ちくらみのようなめまい」があります。それぞれ症状や原因が異なるので、「めまいがした」という訴えがあったら、どんなめまいか利用者に確かめて記録しましょう。

これは危険なめまいかも……と見抜く力が大切。さまざまな原因で起こるめまいですが、危険なめまいの特徴をしっかり押さえておきましょう。

息苦しくなる

息苦しい、呼吸がしにくいという症状は、呼吸器疾患や心疾患などの他に、異物の誤嚥などでも見られます。まず楽な姿勢で安静にし、本人の不安を少しでもやわらげるように声かけしましょう。

呼吸困難時に楽な姿勢

呼吸困難時に楽な姿勢の二つを覚えておきましょう。ひとつめは、ファウラー位。上体を45〜60度起こした体位で、ひざは15度くらい曲げます。半座位ともいいます。二つめは、起座位。上体を起こし、少し前かがみにした対位です。テーブルにもたれかかるようにするとさらに楽になります。

NG! やってはダメ!!

・頭や肩に枕を当てる ➡ 首が前に曲がり、かえって呼吸を妨げる
・体位を強制する ➡ 本人が最も楽に呼吸できる体位にする

呼吸困難の原因疾患

気管閉塞/気管支炎/心筋梗塞/貧血/尿毒症/脳卒中 など

過換気症候群の対処法

精神的な不安や極度の緊張が原因で過呼吸になり、血液がアルカリ性になった状態が、過換気症候群です。症状は、息苦しさや速い呼吸のほかに、胸の痛み、めまい、手足のしびれや筋肉のけいれん、体の硬直など。本人が意識的にゆっくり呼吸したり、呼吸を止めたりすると治まっていくので、介助者は、「落ち着いてゆっくり呼吸しましょう」「大丈夫ですよ」などと、本人を安心させる言葉をかけましょう。呼吸が落ち着いた後も、しびれなどは残りますが、ほとんどは数時間で消失します。

紙袋を口に当てて呼吸させるペーパーバック法は、危険なので行われません。

胸の動きもチェック

呼吸困難になっている場合、胸や胸の周りの動きを観察し、どんな呼吸になっているかを確認しましょう。

呼吸困難は、本人に死の恐怖を感じさせる症状です。不安のためにますます苦しくなることもあるので、安心させる声かけを心がけましょう。


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