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障害を持つ方を支援するための法律、「障害者総合支援法」の拡充された対象者とサービスについて

障害や難病を持つ方への支援を目的とする障害者総合支援法をご存知でしょうか。正式名称は「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」といいます。

2012年に障害者自立支援法の改正法として制定され、2018年には自立生活援助などのサービス新設や対象疾病の拡大が行なわれました。障害があっても安心して社会で生活し続けられるようにと意図され、就労支援も盛り込まれています。

当事者やその家族の方にとって、障害者総合支援法の内容をしっかり理解しておくことは各種のサービスを受けるために欠かせません。また、福祉の現場で働く方にとっても、満足してもらえるケアを行なうために不可欠の知識です。

翔泳社ではこの障害者総合支援法を分かりやすく解説する本として『これならわかる〈スッキリ図解〉障害者総合支援法 第2版』を2018年1月に発売しました。

本書の刊行からやや時間が経っており、同法の課題も指摘されていますが、それでもまずは全体像を掴み、細部を知るには役立つ1冊です。

今回は本書から「第1章 障害者総合支援法ってなに?」の一部を抜粋して紹介します。障害者総合支援法の概要、対象者について、そして拡充されたサービスのいくつかを知っていただければと思います。

以下、『これならわかる〈スッキリ図解〉障害者総合支援法 第2版』から「第1章 障害者総合支援法ってなに?」の一部を抜粋します。掲載にあたって編集しています。

障害者総合支援法って?

障害者総合支援法とは

障害者総合支援法は、正しくは「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」といいます。これは障害者自立支援法の改正法として平成24年に成立した、障害者に対する福祉サービスなどを規定した法律です。

法の目的は、地域社会で健常者と障害者が分け隔てなく生活できるようにしようとしたとき、必要となる各種サービス等を充実させることです。障害者の日常生活や社会生活を総合的に支援することを目的としています。

そのため、特定の障害について規定するのではなく、身体、知的、精神のいわゆる三障害のほか、発達障害や難病も対象となっています。また、誰もが地域で自分の望む生活をすることができるよう、各種施設や医療機関から地域に戻るための支援システムなども組み込まれています。

個人に合ったオーダーメードの支援を受けることができる

障害者総合支援法では、障害者それぞれの生活のしづらさに合わせてサービスが展開できるよう、障害支援区分を創設し、在宅・通所・入所サービスを組み合わせ、個人個人の状況に合った、オーダーメードの支援を受けることができるようになっています。

また、障害者総合支援法は、単に障害者のサービスを規定しているだけではありません。市町村や都道府県に対して責務を与え、障害者が地域で生活しやすい社会にするため必要となる計画を作成させることも盛り込まれています。

しかしながら、平成30年4月、障害者総合支援法として最初の改正を迎えましたが、まだまだ問題点は改善しきれていないのが現状です。当事者や各関係団体など、多方面からの様々な声を拾い上げ、よりよい法律へと、社会全体で作り上げていく姿勢が大切といえるでしょう。

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「障害者」ってだれのこと?

「障害」の範囲は広がり続けている!

障害者といわれて皆さんが想像するのは、身体障害者と知的障害者ではないでしょうか。これに、精神障害者を加えて「三障害」と呼ばれることが多くあります。

しかし、1980年代頃から認知され始めた自閉症や注意欠陥性多動性障害などの発達障害、また脳に損傷を受けたことによる高次脳機能障害など、障害の範囲はどんどん広くなっています。身体障害者についても、その範囲は拡大を続けており、近年では透析が必要な腎臓疾患や、AIDSなどの免疫機能障害なども身体障害として認められるようになりました。

難病も障害に

障害者に対する制度は様々ありますが、どの制度もそれぞれ即した「障害者」の定義に当てはまらなければ、利用することはできません。実際に、以前では、日常生活に大きな課題を抱える病気を持っていても「障害者」とは認められず支援を受けることができない人たちが大勢いました。

そのようななか、平成25年の改正によって障害の定義が広がり、難病と関節リウマチの患者に対して、障害福祉サービスが提供できるようになりました。しかし、このときは新たな難病対策の結論が得られていないため、対象となる疾患は130疾患に限定されていました。その後、平成26年に対象疾患の要件が取りまとめられ、対象疾患の拡大が図られました。

総合支援法でいう「難病」とは、難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)が示す基準のうちの2点「発病の機構が明らかでない」「患者数が人口の0.1%程度に達しない」を要件としないこととしており(つまり、難病法より対象が広い)、平成29年4月より358疾患が対象となっています。今後も研究が進むにつれ、対象疾患が増える可能性があります。

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地域で生活をし続けるためのサービスが創設された

地域で生活するには自信がない

2018年4月の法改正によって、新たなサービスが追加されることになりました。その1つが自立生活援助です。

障害者総合支援法(以下、総合支援法)では、安心して地域生活ができるように様々な制度、サービスが準備されていますが、それでも医療機関や施設から地域へ移されることに戸惑ってしまう方は少なくありません。

施設や病院のスタッフから見て「この人なら十分生活できる」と判断して「地域に出てみないかい?」と声をかけても、なかなか頷いてくれない。また、当初の力になったとしても、少し経つと「やっぱり、本当に生活ができるのだろうか」と自信を持てず、結果として、医療機関や施設など本人にとって「安心」「安全」な場所での生活を続けてしまうことが多いのが実情です。

安心して生活を続けていくためのサービス

保護された環境から外に出る、ということは、はたから見れば「社会復帰の第一歩」と素晴らしいことのように見えるでしょう。しかし、当の本人たちからすれば、長期にわたって医療機関や施設での生活を続けてきたことによって、そこでの生活に慣れてしまっています。また、長期間の入院、入所生活によって、社会制度や地域は大きく変わっていることがほとんどです。

自分の知っている「社会」と違う社会に飛び出すということは、とても勇気のいることで、単純に生活できる能力があるから、社会のなかで生活できるわけではありません。また、逆に外に出たいと思っているものの、生活能力が多少低く、そのせいで一人暮らしは無理だと外での生活をあきらめている人も少なくありません。

今回創設される自立生活援助は、そのような人たちが安心して地域生活を続けることができるよう設定されたものなのです。

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職場に定着できるよう支援するサービスが創設された

働いてはみたものの……

総合支援法では、就労に向けた支援サービスが設定されており、利用者それぞれの状況によって施設内での作業を中心にしたものや、就職支援を中心にしたものがあります。これまで多くの人が就労支援を受け、一般企業などに就職していきました。

しかし、その一方で問題視されているのが、いわゆる「出戻り」です。「一度就職したものの、企業の業務についていけない」「日常生活のリズムが狂ってしまって仕事に行けなくなってしまった」など、一度は就労支援を受けて外に出たものの、また施設に戻ってきてしまうのです。

もちろん就労移行支援事業所なども就職してからの生活の変化等も加味して事業所内での支援を行っていますし、退所後の支援も行っています。しかし、少ない人員で施設を動かしているなか、今いる施設の利用者の支援を行いながら増え続ける退所者への支援を、一定期間だけならまだしも、ずっとし続けるということは現実的に困難です。

主に「生活面」をフォロー

就労に必要な技能自体は、就労移行支援などで訓練してきているわけですし、就職した業種によって必要な能力は異なります。新たに必要となる技術は、企業ごとでのOJT(職場内教育)などによって訓練していただければいいのですが、生活習慣まではそういうわけにはいきません。

そこで、今回の就労定着支援は、就労に必要な技能についての支援ではなく、主に就労に伴って出てきた生活面の問題をフォローするために創設されました。具体的には「慣れない仕事で疲れてしまって遅刻や欠勤が増えた」「薬を飲み忘れるようになってしまった」「多くのお金が手元に来るようになり、計画的にお金が使えなくなってしまった」など、働き続けるための生活習慣を働きながら身につけてもらう支援といえます。

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居宅を訪問して児童発達支援を行うサービスが創設された

外出が困難な障害児のためのサービス

障害児の支援として、以前の児童福祉法改正において児童福祉施設の改編が行われ、それまで障害種別ごとに分かれていた支援が一元化されました。通所施設としては、中核的な役割を果たす「児童発達支援センター」と身近に利用できる「児童発達支援」が置かれ、様々な支援活動が行われるようになりました。その他にも、放課後等デイサービスなどの施設整備も行われました。

しかし、これらはいずれも通所型の施設です。重度の障害を持ち、自宅から外に出ることができない障害児は、居宅介護サービス以外のサービスを受けることが実質できない状態になっていました。そこで、日常生活における基本的な動作の指導、知識技能の付与、生活能力の向上のために必要な訓練な
ど、発達を促すための支援を自宅で受けることができるよう設定されたのが「居宅訪問型児童発達支援」です。

重度障害児の発達支援の機会確保

居宅訪問型児童発達支援は、もともとあった児童発達支援で行われているサービスを自宅でも受けることができるよう設定したサービスです。そのため、実施内容については、児童発達支援施設と同様のものとなっています。

今まで居宅で受けることができていたサービスは、あくまでも生活するうえで必要な介護だけであり、児童それぞれの状態にあった専門的な支援は、ほとんど受けることができない状態にありました。介護はあくまでも介護であり、児童の抱えている課題を克服することを目的にはしていません。

この制度改正によって、重度障害児であっても発達を促す支援を受ける機会を得ることができるようになり、重度障害児が社会参加することができるようになるための支援体制がようやく整ってきたといえるでしょう。

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