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転んで骨折し寝たきりになる場合も……高齢者の転倒を防ぐ歩き方と「杖」の使い方

高齢になり身体機能が低下すると、ちょっとした段差でつまずいたり、バランスを崩して転倒してしまうことがあります。若いときはちょっとした擦り傷で済むかもしれませんが、筋肉や骨が弱っていると、骨折することも少なくありません。

また、骨折が治るのにも時間がかかりますし、リハビリを怠ると機能が回復せず、長時間歩けなくなる、寝たきりになるなど、転倒から連鎖的に不自由な生活へと至ってしまいます。

当事者の方、あるいは高齢者の介護やサポートをしている方にとって、自分の力で歩けることがどれほど大切なことかは言うまでもないと思います。ただ、筋力や心肺機能を保つために運動する必要があると分かっていても、効果を実感したり継続したりするのが難しい場合もあるはず。

また、外出自粛の生活が長引いた結果、活動量が減った高齢者の筋力が低下し、要介護状態になってしまうことも心配されています。

転ばないようにするには、運動で筋力を保つ、杖を使って安全に歩くといった方法があります。こうした歩き方や杖の使い方を紹介した本が『100歳まで元気でいるための歩き方&杖の使い方』です。

翔泳社の通販サイトSEshopではPDF版を販売しています。

本書は理学療法士で多くの方のリハビリ指導を行なっている西野英行さんが、健康に長生きするための体を作る方法、さらにそれを補助する杖の使い方について解説しています。

高齢になるとなぜ転倒しやすくなるのか、正しい歩き方、転倒しないためのトレーニング、そして周囲の人ができることまで、1冊で転倒リスクに対する向き合い方が分かるようになっています。

介護士の方などがこうした知識を持っていることで、よりよいサポートができるのではないでしょうか。今回は本書から「1章 こんなに怖い! 高齢者の転倒」を抜粋して紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

以下、『100歳まで元気でいるための歩き方&杖の使い方』(翔泳社)から「1章 こんなに怖い! 高齢者の転倒」を抜粋します。掲載にあたって一部を編集しています。

なぜ、「高齢者の転倒は怖い」のか?

【転倒・骨折から「要支援・要介護」に?】

長寿国として知られる日本。厚生労働省が発表した平成28年の日本人の平均寿命でも、男性が80.98歳、女性が87.14歳と過去最高を記録しました。

ただし、寿命には「健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)」というもう一つの尺度があります。

平均寿命と健康寿命の差分は、健康上の問題により日常生活に制限が生じる期間、つまり介護や医療的ケアが必要となる期間です。ちなみに、平成22
年の時点で、男性は約9年、女性は約13年の差がありました。この期間が長くなるか、短くなるかは、生活の質の維持はもちろん、医療や介護にかかる経済的負担にも関係する重要な問題です。

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加齢にともなう身体機能の衰えは、誰もが避けられません。とはいえ、日常生活の基本的な動作を自身で行うのが困難になり「要支援」や「要介護」の状態となることは、できるだけ避けたい、先延ばしにしたい人がほとんどではないでしょうか。

では、どのようなことをきっかけに、私たちは介護が必要な状態となるのでしょう。

次の表は、介護が必要となった主な原因(上位3位)を要介護度別に見たものです。

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脳血管疾患や認知症が目立ちますが、「骨折・転倒」も主要な原因であることがわかります。また、転倒した高齢者(60歳以上)の3分の2は何かしらのケガを負っています(「高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査結果」平成22年度/内閣府)。

多くは打撲やすり傷などですが、骨折に至った人も約1割います。そして、注目すべきは骨折した部位です。高齢者が転倒により骨折する場合、その約25%は大腿骨頸部骨折か大腿骨転子部骨折であるといわれます。

大腿骨頸部・転子部とも太ももの付け根部分にあり、ここを骨折すると、歩行能力が回復するまでに相当の時間を要します。また、治療の過程で寝たきりになってしまうケースも珍しくありません。

骨折というと、交通事故や高所からの転落など、大きな事故によるものをイメージされるかもしれません。しかし、大腿骨頸部・大転子部骨折の約7割は歩行中や立った姿勢からの転倒によって起きています。

急な動きをしてバランスを崩し転倒、ちょっとした段差に足を取られて転倒……など日常的な動作の中で転倒が起き、骨折にまで至るケースが少なくないと想像できます。

【ケガが治っても、起きられない? 歩けない?】

もし、転んで足の骨を折ってしまったとしても、骨折部位の治療やケアを行えば元通りに生活できるはず、と思われるかもしれません。しかし、高齢に
なると話はそう簡単ではありません。

たとえば足の骨を折ると、部位にもよりますが、以前と同様に足が使えるようになるまで、最低でも2~3か月はかかります。当然、その間は日常生活
でも十分に足を使えません。

人間は最大筋力(その人が重い物を持てる最大の力)の20%未満の活動しかしていないと、筋力の低下が起こりやすいといわれます。安静臥床(横になり安静にした状態)のままでいると、1日で約1〜2%、1週間で10〜15%の筋力が落ち、3~5週間もすると約50%に低下するという報告があります。

また、足首や膝、足の指の関節なども、動かさずにいると固くなり、どんどん動きにくい体になってしまいます。これは骨折などのケガに限らず、病気で長期間安静にしていた場合なども同様です。

さらに、歩行は筋力だけでなく心肺機能の維持・向上にもつながる全身運動なので、歩けなくなるということは、そうした効果も得られず、体がどんどん弱ってしまうということでもあります。

こうしたケガや病気そのもの以外に生じる障害を、「二次障害」と呼びます。ケガの治療や病気療養では、二次障害のリスクを減らすことや、二次障害から回復することもまた重要です。

旧来の医療では、病後は安静状態を維持することが大切とされていました。足の骨が折れたら、安静にしていたほうが、骨が変形してくっつく恐れもな
いですし、医学的にも管理しやすくなります。

しかし、人間の体はすべての器官がほかの部位と連携して活動しています。安静を過剰に続けると、ケガや病気をした部位は完治しても、それ以外の部位が弱ってしまい、結局、体を思うように動かせないということになります。

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【寝たきりになると、認知機能も低下?】

二次障害は、筋力低下や関節の可動域の低下だけではありません。「体を動かしにくいから活動量が減る→さらに体が弱くなり、動けなくなる→寝たきりの状態になる……」という負の連鎖に陥ると、心臓が血液を送り出す力も弱くなりますし、精神神経系にも影響が出てきます。

寝たきりになって、日中の活動量が減ると脳への刺激も少なくなるので、認知機能が低下し、時間や場所などを把握する感覚も低下してしまいます。

つまずいて転ぶ──誰にでも起こりうることですが、高齢者の転倒や骨折は、その後の暮らしを大きく変えてしまう可能性があることも知っていただき
たいと思います。

【健康維持は自分のためだけではない】

大事なポイントは、もう一つあります。将来、介護が必要な状態になったら、その人が日常的に行ってきた動作は、家族や介護スタッフなどに手伝ってもらうことになるでしょう。

たとえば、足腰が弱く、一人では歩けないという人でも、立つことが可能なら、ベッドから車椅子への乗り移り(移乗動作)を自分でできることが多いです。介助が必要な場合も、一瞬でも本人の足の力で体重を支えられたら、介助する人はかなり楽になります。

たとえわずかでも残存する能力があり、それを活かすことができれば、介護の負担は軽減されます。健康管理や体力維持は、本人の生活の質を保つだけでなく、家族の負担軽減にもつながっているのです。

【転ばないためには、まず「知る」こと】

では、転ばないために、どのようなことに気をつければよいのでしょう?

筆者が普段リハビリテーション(以下、リハビリ)で接している患者さんの多くは、自身の健康にとても気をつけていらっしゃいます。食事内容に注意したり、運動を習慣づけていたり、いわゆる生活習慣病の予防に熱心な人はとても多いです。

しかし、「転倒・骨折」への危機意識は、まだ高まっていない印象を受けます。「転ばないために、何か気をつけていますか?」と聞いても、「足を鍛える」「段差に注意する」という答え以外はほとんど返ってきません。

ウォーキングなど、「歩くこと」が健康によいことは広く認知されていますが、それと同じくらい「転倒予防」の知識も普及する必要があると感じています。健康のために意欲的に歩いたとしても、転倒リスクの高い歩き方であれば危険ですから。

また、「転倒・骨折」に対する意識は、転倒の経験によっても違いがあるようです。高齢者が大腿骨頸部を骨折すると、骨が癒合・固定されるまでに最低でも3か月ほどかかります。

その間、患者さんは体力を落とさないように、痛みの残る足で歩いたり、筋力トレーニングをしたりします。本人の体力や運動歴などにもよりますが、このリハビリはかなり大変なものです。

そのため、転倒して辛いリハビリを経験した人の中には、「二度とこんな思いをするものか」と、転ぶことに対して危機意識が高くなる人も多いです。

滑りにくく、安定して歩ける靴を履いたり、つまずく原因となるすり足を解消するトレーニングをしたり。一方で、転ぶことへの恐怖心から出歩かなくなり、活動量の減少でますます転倒リスクの高い状態になってしまう人もいらっしゃいます。

また、転んだ経験がない人だと、生活習慣病などのリスクと比べて転倒リスクを重大にとらえていない傾向も見受けられます。しかし、転んでからでは
遅いのです。

まずは、「転倒・骨折」が高齢者の生活に与える影響の大きさを知って、自身の歩き方をチェックしてみてほしいと思います。そして、転倒リスクのある状態なら、転ばない体づくりや、転ばない歩き方を、日々のトレーニングで身につけていきましょう。


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