本との新しい付き合い方~書籍編集者が考える「聴く読書」
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本との新しい付き合い方~書籍編集者が考える「聴く読書」

翔泳社の福祉の本

知人にとても風変わりな人がいます。

自分よりずいぶん年下で妹のような彼女は、スマホもテレビも持っていません。唯一の連絡方法は、外出先のWifii環境下でPCを開いた時だけという限定的なもの。

バックに入れている紙の地図と方位磁石が、Google Mapの代わりです!
「遅れる」の一報が入れられない彼女との待ち合わせは、こちらのほうが緊張します。

一人暮らしのワンルームはさらにビックリで、ビジネスホテルにあるような正方形の小さなサイズの冷蔵庫(冷凍庫はなし)で三食自炊をして、リビングに照明はなく、玄関の電球だけで生活しているのだとか!(目を悪くしないか心配……)。

そんな彼女の趣味は純文学を読むこと。昔の文学作品の世界を体現したいから、このような不便な生活スタイルを貫いているというわけなのです。

読書について改めて考えた

「昔は本をよく読んでいたのに、最近になって読む本の数が減った」というのは、多くの人が抱える悩みのようです。

本の編集が仕事である自分も状況は同じで「この先どんどん読書から遠ざかっていくのではないか?」という焦りや不安が、さらに「読書」を遠ざけてしまっているくらい深刻です。ちなみに、ここでいう読書というのは、仕事の資料や困りごとを解決するためのものではなく、純粋に「楽しむための本読み」のこと。

先の彼女の話に戻ると、はじめてその暮らし方を聞いた時は驚きのあまり「自分が同じような生活をしてみたらどうなるか?」という妄想が1か月間ぐらい頭から離れず、気になってしかたがありませんでした。

シンプルで無駄なものを削ぎ落した(削ぎ落しすぎ?)暮らしに、憧れやうらやましさを感じ、潜在的に自分の中にあった「暮らしの中心に読書を置きたい」という願望が一気に掘り起こされてしまったみたいです。

「めっちゃ」禁止

読書に浸りたいもう一つの理由が、明治~昭和初期の文学作品に使われているような、ゆったりとした美しい日本語を読んだり、聴いたり、そして自分でも使えるようになりたいという気持ちもありました。

なぜなら「めっちゃ美味しい!」「めっちゃ感動した!」「めっちゃキレイ!」など、ついつい使ってしまう「めっちゃ」の使用頻度の高さが気になっていたからです。「『めっちゃ』を使わずにどう表現するか?」は、簡単そうで意外と難しい問いです。

たどり着いたのがオーディオブック

いざ純文学を読みたいと思っても、どんどん読書から遠ざかっている生活を変えることは難しいことでした。読みたい本はたくさんあるのに、自分の生活の中に文学が入り込む余白がないのです。

かといって、彼女のようにインターネットを断捨離して、月明りで生活するようなみやびやかな暮らしももちろん無理。というわけでたどり着いたのが、Amazonのオーディオブック「Audible(オーディブル)」。これなら移動中や身支度中に「ながら聴き」ができるし、倍速にだってできます。

もちろん、おいしいコーヒーを入れて、ゆったりソファーに座って、紙の本を開くというのは理想ですが、「あれも読みたい! これも読みたい!」という欲望を叶えるには目をつぶるしかありません。

その時の気分に合わせて「聴き分ける」

手始めとして、川端康成の『雪国』をランニングしながら聴いてみました。人に言うと笑われるのですが、文学に餓えていた身には走りながらでも十分に堪能できました。

そうこうしているうちにAudibleの定額聴き放題制が始まり、さすがAmazon! 作品数も一気に増えて急に本の選択肢が広がりました。

今は、ランニング中は村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』を聴いています。例えば、主人公の岡田亨が水の枯れた古井戸に降りてしばらく過ごすというシーンでは、ランニング中の脚の痛みや孤独感と、物語の主人公が自分の内面と対峙する姿がシンクロして、なかなか調子よく走れます!

また仕事を開始する前は、モチベーションや集中力が高まるように自己啓発系の本を聴いています。「読む」より「聴く」ほうが主体性が薄れるせいか、繰り返し聴いても飽きづらいので、忘れたころに繰り返し聴けるのがいいなと思っています。

じゃあ文学作品はというと、リラックスしたり気持ちを落ち着けたりしたい時に聴くので、入浴中や寝る前(スリープ機能が便利)に聴くようにしています。一度、三國志を読破ならず聴破しようとしましたが、登場人物が多くて耳で聴くだけでは一人ひとりの名前が覚えられず断念したことがあります。漢字文化圏の人は漢字から意味を読み取っていることも多いんだなと、気づかされた一件でした。

オーディオブックの可能性

オーディオブックは、使いこなすうちにさらにいろいろな利点が見えてくると思いますが、歳をとって活字を読むのがつらい高齢者や、視覚障害がある方にはうってつけだといえます。

プロのナレーターが吹き込むため、制作コストが高くなりがちなど乗り越えるハードルはあるようですが、現状の紙書籍をもとにオーディオブックを作るのとは逆に、オーディオブックを主に出版企画を考えてみるのも面白いなと思っています。

また、書き手がナレーションをしているオーディオブックや、歌舞伎役者が主人公の小説では実際の歌舞伎役者さんが吹き込んでいるオーディオブックなどはすごくリアリティを感じるので、これからの高齢社会を考えても電子書籍以上に普及しそうな予感がします。

近い将来「紙」「電子」「オーディオ」と使い分けができるようになり、本がもっと身近な存在になると嬉しいですね。

(編集部 倉橋)

倉橋の編集担当書籍を紹介

これだけは知っておきたい双極性障害 躁・うつに早めに気づき再発を防ぐ! 第2版(著者:加藤忠史)


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