見出し画像

キャラの描き方について/ゲームシナリオカフェ

5杯目:キャラの描き方について

 あるゲームでキャラシナリオの設計をしていたとき。ほかの開発者さんたちと、わたしと、意見があわなかったことがありました。ピンポイントなのですが、天才変人キャラの描き方についてです。

 今回は、そんなお話。「キャラの描き方について」。

1、天才変人キャラは、書物をどう扱うか?

 天才変人キャラを、新たに生み出すとして。みなさんだったら、どちらの描き方にしますか?

 天才変人キャラは書物を……

 ・大切に扱う
 ・無造作に扱う

 こちらは、twitterでアンケートを取りました。twitterでは、286名の方にご投票いただき、大切に扱う52,1%、無造作に扱う47,9%となりました。やや大切に扱うが多いですが、大きな差はでませんでした。

 前者は、「変人とはいえ、天才キャラなのだから、書物から知識を得るだろう」「だから、書物はたいせつに扱う」というもの。

 後者は、「変人や天才という属性だけで、書物の扱いが同一にはならないのではないか?」「キャラによっては、書物にも、大切さにも、こだわらないのではないか?」というもの。

 実際の開発では、開発者さんの意見は、みなさん前者。わたしひとりが後者でした。それで、意見交換の時間を設けました。わたしがそこで話したのは、とある優秀な学生さんの話です。

2、天才から見た天才の話

 子供の頃から神童とうたわれた、とある学生さんのお話です。学生さんには、お世話になっていた天才先生がおりました。天才の目から見た、天才の話ですね。

 ある日、研究室で。その先生が、新しい本を手にしているのを見ました。天才とはいえ、知識を絶やさないのだなーとか、勉強熱心なのだなーとか、思いますよね。と、おもむろに先生が真新しいその本を、バリバリーッと。背表紙から。いったそうです。半分に。

 しないですよね、普通。こういうことは。
 それで、「なにしてるんですか?」と学生さんが聞くと、その先生は。「だって片方に入れると、偏るじゃん」と言って、真っ二つに引き裂いた本を、白衣の右ポケットと、白衣の左ポケットにそれぞれ入れたんです。「バランスだよ」と。

 この話をして、開発の方も納得してくださって。そして、「今作の天才変人キャラについては、書物を乱暴に扱う可能性あり」という、「キャラの描き方」が通りました。描き方の枠を、広げたんですね。

 「天才だから」というだけで、「では、そのキャラの言動は、これこれになります」と決まることはありません。

 パターン化はわかりやすいですが、その反面、誰が書いても同じ反応になり、bot化しやすくもあります。ユーザーさんにとっても、「またこのタイプ……」と、新鮮味が薄くなってしまいます。

 現実の人間は、もっと複雑です。生まれ持った気質や、育った環境、現在の体調や、マイブーム等など……色んな面から、選ぶ言葉や、行動、「大切にするそのやり方」が、異なっていきます。

 前述の天才先生も、本を軽んじて手荒く扱ってるのではなく、いつでも手元において読みたいから、持ち運びに便利な形にしているんですね。


3、そのキャラはどこから来るのか?

 キャラを新たに生み出すとき。以下のような方法があると思います。

 ・1)自分をベースに描く方法
 ・2)他作品のキャラを参考に描く方法
 ・3)現実を生きる人々の姿から描く方法

 順に見ていきますね。

1)自分をベースに描く

 これは、一番やりやすい方法です。

 メリットは、自分のことを書いているわけですので、迷いがありません。一定の納得があります。

 デメリットは、どんなキャラも自分の延長でしかないという点です。個人として、考えられる限界があります。自分が思いつかないものは描けず、思いつきやすい方へとキャラが偏ります。

2)他作品のキャラを参考に描く

 これを自分から選ぶ人は、あまりいないと思います。どちらかというと、「ヒット作のキャラを(バレないように/丸かぶりでいいので)真似しろ!」という指示が、降りてきてしまう感じですよね。

 メリットは、既に存在する作品を参考にすることで、完成形が見えやすい点です。複数人で作るとき、「系統としては、こっち系のキャラでいこう」というように、ごく初期段階の足場とするのは悪くないでしょう。

 デメリットは、オリジナル要素が薄くなることです。また、参考にしたキャラの影響が強い場合、盗作の疑いを向けられます。

 補足して――
 「選択しないものを決める」という使い方があります。「この系統のキャラは、弊社にも、他社にも既にいるので、ここは避けよう!」という足場の取り方です。こちらは、問題を回避するために有効です。


3)現実を生きる人々の姿から描く

 人々に取材をし、自分の力でキャラを組み上げていく方法です。

 メリットは、その安全性と、抜群のオリジナル性です。また、一度自分にとりこんだキャラクターや人間性は、参考資料として、何度でも参照することができます。「あの人なら、ああ言いそうだよなー」というやつですね。
 これは心の中に、何人もの仲間がいるような心強さになるでしょう。

 デメリットは、とにかく時間がかかることです。そして取材を続ければわかることですが、好きな人の話ばかり聞いていては、やはりキャラが偏ってしまうのですね。なので、自分にとっては悪い人物だとわかっているタイプの、その毒を飲む瞬間がどこかできます。

4、神さまは枠を決めない

 わたしは、「3、現実を生きる人々の姿」を使っています。その際、相手の方を、そのままキャラとして書き起こすのではなく。Aさんの豪快エピソードと、Bさんのこどもの頃のやんちゃエピソードを足して、色濃く……ということをしています。

 大変ではあるのですが、やはり「あのキャラを真似しろ!」と言われるのが、悔しいのですよね。ゲームを手にとって遊んでくださってるユーザーさんに、あのキャラも見たことある、このシチュエーションも知ってる……なんて思わせてしまうのは。

 深海で、見たこともないヘンテコな姿の生物が見つかったり、宇宙に水が存在するかもという話が出てくるたび。「まだ、なんか作れるだろう」「まだ、出会ってない誰かが、何かが、隠れてるだろう」って思います。ものづくりの神さまは、きっとキャラの枠なんて、決めてないんじゃないかなって感じるのです。

 少し寄り道します。この記事を書きながら、お話を聞かせてくださった人々のことを、懐かしく思いだしました。

 わたしが過去、描き出してきた愛すべき天才たち……「シスタークエストシリーズ」のルシアス陛下とレネ神父、「エルクローネのアトリエ」のクレメンス先生、「よるのないくに」の有角教授、「禍つヴァールハイト」のイグナーツ隊長やファウスト博士……もし、彼らに共通するところがあるなら。きっと、わたしがお話をうかがってきた、リアルの天才先生たちの面影が、かすかに漂っているのでしょう。

 この世界には、まだたくさんの、リアルの、愛すべき天才や奇才たちがいます。真面目な人や、カワイイ人、要領が悪い人や、ちょっとダメな人だって……そのすべての人が、「人間というもの」を教えてくれます。一人ひとりが、愛しい存在で、たいせつな先生です。

 わたしたちはこれからも、たくさんの人々と出会うでしょう。出会いの数だけ、キャラの魅力は広がっていくはずです。
 彼ら、彼女らとの出会いをきっかけに。ゲームキャラの描き方の幅が、うんと広がって。ユーザーさんの、新しい仲間や友だち、師匠や良きライバルと、なっていきますように。


いただいたサポートは、今後の創作活動のために大切に使わせていただきます。