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設定の伝え方/ゲームシナリオカフェ

4杯目:設定の伝え方

 ゲームには、たくさんの情報があります。「この世界は、こういう状況だ(設定系情報)」とか、「次は、どこそこへ行け!(指示系情報)」など。これらの情報を適切なタイミングで、ユーザーさんに伝えて、気持ちよく遊んでもらうのも、ゲームシナリオライターの役目のひとつです。

 今回はたくさんある情報の中でも、シナリオと関わりの深い「設定」について。前半はコンシューマゲーム(家庭用ゲーム)の、後半はソーシャルゲーム(スマホゲーム)のことを、お話していきます。

1)セリフは、セッテイならず

 設定 …… 魔王との戦いが始まって、数十年の時が経っている世界

 例えば、この設定を伝えたいとします。まずはこの設定を台詞で言わせてみましょう。

 「魔王と戦いはじめて、もう数十年になりましたね!」

 どうでしょう?設定を台詞にすると、「そう思え」と言われているように感じてしまいますよね。これではユーザーさんの負担になってしまいます。

 設定は、台詞にならないのです。むき身の設定を、そのまましゃべるのではなく、話を聞くうち、「もしかして、こういうことかな?」と自然と思い至るよう、加工しなければなりません。

設定をどのように加工するのか?

 設定は、噛み砕くことで「そう思え!」という圧をとることができます。先ほどの例、「魔王との戦いが始まって、数十年の時が経っている世界」を噛み砕いてみましょう。

 魔王との戦いが数十年つづく世界では、どんな事が起きている?

 数十年も戦いが続いているなら……

 ・成人男性(女性も)の多くは、戦いに駆り出されているかもしれない
 ・残されたのは、子供とお年寄りに偏るかもしれない
 ・帰ってこない者も、大勢いるかもしれない
 ・町の要塞化も、進んでいるかもしれない

 このように、長びく戦の影響を考えてみます。その上で、例えばこんな加工ができます。

 ・町の外を見つめるように、おばあちゃんキャラを配置
 ・ユーザーさんが話しかけると聞ける台詞を以下の順でセット
    ・「恋人を待ってるんです」
    ・「帰ってきたら一番に、おかえりなさいって言いたくて」

 「こんな年配のご婦人が恋愛を?」と思っても。「帰ってきたら一番に……」と続くことで。「もしかして、長いこと帰ってないのでは?」と、感じとることができるでしょう。
 何十年も前に、戦地に向かっただろう青年の姿を。それを見送る、若かりし日のおばあちゃんの姿を、思い浮かべられるのではないでしょうか?

 設定は、「その設定がもたらす影」に着目し、噛み砕くことで、「当事者たちの声と姿」に加工できます。その世界に生きている人の生の声にできれば、自然に世界が伝えられるのです。

 コンシューマのRPGだと指導は、ここで終わりでなのですが。もし、作っているのがソーシャルゲームであるなら、ここからです。

 次の項目から、「ソシャゲにおける設定の伝え方」について、コンシューマゲームと比較して、考えていきたいと思います。


2)情報が出せる場所

 ソーシャルゲームでの設定の伝え方を考える前に、「情報を出せる場所」を整理します。わかりやすく、コンシューマをベースに見ていきますね。

・コンシューマゲームの情報出しについて

 コンシューマだと、以下のような「情報出しの場所」があります。

1)イベント中の会話
2)MAP配置された町人との会話
3)ゲーム内図鑑など

・ソーシャルゲームの情報出しについて

 次に、ソーシャルゲームの「情報出しの場所」を考えてみます。さきほどのコンシューマでの項目の有無としては、以下のようになります。

1)イベント中の会話      ……有
2)MAP配置された町人との会話 ……無、もしくは薄い
3)ゲーム内図鑑など      ……有

 ソーシャルだと、項目の2の「MAP配置された町人との会話」が弱くなります。これは、マップ移動が自動になることが多いためです。

 つまりコンシューマで、MAP配置の町人との会話が担ってきた情報出しが、ソシャゲでは抜け落ちてしまうのです。

3)興味を持ってか、押しかけか

 ソシャゲでは、ユーザーさんの操作ではマップを歩けない……歩けるけど、スマホ画面では見せにくい、ということは。「気になるものを見つけて、自分からアクションする」が、しにくいということです。

 こちらも、比べていきますね。

・コンシューマでのキャラ/アイテムとの出会い

(マップ配置された、佇まいのあるキャラ/アイテムが視界に入る)
   ↓
(ユーザーさんが興味を持つ)
   ↓
(ユーザーさんの操作で話しかける/調べる)
   ↓
(情報を得る)

・ソーシャルでのキャラ/アイテムとの出会い

(バトル終了や特定マップに入る等で、急にキャラ/アイテムが現れる)
   ↓
(キャラが話しかけてくる/仲間が、そのキャラ/アイテムに話しに行く)
   ↓
(情報を得る)

 このようになります。
 「誰がアクションしたのか?」という部分が違うのです。コンシューマでは、主人公=ユーザーさんが動きますが、ソーシャルではキャラか仲間が(やや強引に)動きます。

 ソシャゲの場合、重要なイベント関係者は、向こうから押しかけてくるか、こっちの仲間が押しかけていく形が多いです。結果、全体として主人公=ユーザーさんは置いていかれ、「こう思え」という圧が感じられるのです。


4)おさらい、マップ系情報出しが担うもの

 ここで、あらためて。ソーシャルゲームでは抜け落ちてしまう、「MAP配置の町人との会話」の特徴を整理します。

コンシューマでの町人との会話の特徴

  ・ユーザーさんがその町人を見つけて話しかける(会いに行った感)
  ・町人は複数人配置できる(さまざまな思想が同時展開する)
  ・話す言葉は少なくできる(情緒を保てる)
  ・会話でなくてよい(ひとりごとを立ち聞きするなど)
  ・佇んでいる場所がある(場所情報がのってくる)

 コンシューマでの町人との会話は、ただの会話という形にとどまらないことがわかると思います。

 特に、「複数人配置できるメリット」は強いです。これにより、戦地へ向かった家族を思う台詞、魔王憎しの台詞、勝ち目のない戦を続ける政府への不満などなど……いくつもの思想が同時に展開できるのです。

 比べて、ソーシャルゲームでの会話は基本的には、「主人公がなにかやってるところに、割って入ってくるキャラ」という、見せ方に偏ります。「見てください!」とか、「こんな酷いことがあるなんて……」とか、「ぎゃおおおおおん!(モンスターの雄叫び)」とか。「向こうから話しかけてくる」=「考えや要求を持ってる」というベクトルを帯びやすいのです。

 そして、割って入ったり、押しかけに行ったりする人数は絞られます。つまり、展開できる思考の数も絞られてしまうのです。

まとめ

 まとめます。ソーシャルゲームでは、「MAPに配置された町人やアイテム」というものが十分に持てず、そこでの情報出しがあてにできない可能性があります。そのことを踏まえて、「設定を伝える工夫」が必要です。

ヒント

ヒント1
当事者の佇まいが減る穴埋めとして。一般の人の側に立ち、「人々の暮らしを総括して、とやかく言う者」を、はじめから組み込むといいです。

 例)政治家、活動家、記者など

ヒント2
複数人の町人が出せず、同時に複数の思想が見せられない穴埋めとして。「大人数で話し合う場」を、あらかじめ用意しておくといいです。

 例)会議、相談、雑談の場など


 以上です。前半のコンシューマのお話はともかく。ソーシャルゲームで、「コンシューマと比べて設定出しの場所は、だいぶ減ってしまう」「減った分、どう見せる?」なんて……議題にあがること、なかったのではないでしょうか?

 設定をどう伝えるか?――ここに取り組むだけでも。自然とその世界に入っていけるような、味わいのある作品にできると思うのです。
 楽しいゲームが作られるきっかけになれば、幸いです。


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