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女の子はこう笑うというbot化/ゲームシナリオカフェ

2杯目:女の子はこう笑うというbot化

 ゲームシナリオで。「女の子はこう笑う」とか「こういうことを言う」だけで台詞を組むと、キャラってbot化してしまうんですよね。
 今回は、bot化しないキャラの描き方について。


1)強烈エピソードの作った感

 そのキャラを生き生きと描くために。まず気をつけるのが、強烈エピソードです。

 「凄まじく嫌なこと」と、「度を越して好きなこと」。
 このふたつを設定すれば、一見して、キャラの出来あがりにみえますよね。嫌なことと、好きなことを、判断材料に。言われたこと、起きたことに対して、そのキャラの反応を書いていくことができそうです。
 でも、それだけで大丈夫でしょうか?

 例えば、家族や恋人を、コイツに奪われたとか。はじめて人間として扱ってもらったのが、この人だったとか……そういう、「強烈エピソード」だけでキャラを作ると。そのキャラの言動のベースが、トラウマや溺愛、崇拝など、極端なものに偏って、情緒不安定に見えてしまうのです。

 昔の事件と、過去の人間関係ばかりで、これまでの経歴や、今の暮らしが見えてこないのですね。

 刺激の強いものの方が、「作った感」はあるかもしれません。ですが、そのキャラの過去がどうあれ、今の暮らしというものは、そこに直結したものではないはずです。

 日常あってのドラマですから。スイッチが入ったところばかりじゃなくて、「いつものその子」を描けるように。

2)人は、公式では表せない

 次に気をつけるのが、「このキャラは、こういうときは、(必ず)こういう反応をする」という反応の決め打ちです。

 人間は、そこそこ複雑な生き物ですので、昨日まで好きだったものが、さしたる理由もなく、嫌いになったりします。普段はラフな言葉遣いの人でも、居合わせるメンバーや状況によっては、丁寧に話すこともあります。
 「こういうときは、これしかしない」というような、公式めいたものが立てにくいんですね。

 例えば、キャラ設定に。「お気に入りの定食屋さんがあり、足繁く通っている」と、書いてあったとしても。「今日は、君の食べたいものにあわせるよ」とか。「部長からのお土産ドーナツ食べ過ぎちゃったから、お昼は珈琲だけでいいかな?」とかって、あると思いませんか?

 キャラの言動は、状況と共に変わっていきます。定食屋さんの常連客である……という設定があっても。お昼休みの前に、新人さんが配属になったと耳にしたら。「じゃあ、その新人さんの好みを聞いて、あいそうなお店に案内してあげようかな?」と、考えたり。「静かで話しやすいお店の方が、ゆっくりできそうかな?」と、気をまわしたり。そういうのが、人間らしい反応です。

3)暮らしが気分を作っていく

 人間には、「状況を読もうとする心の動き」があります。そして、「(事実とはズレているかもしれないけれど)自分は、その状況をこう読んだ」という読み方を持ちます。その読みが走っていって、その人は、「じゃあ、こうしようかな」と気分を変えていくのです。

 (事実は違うかもしれないが)自分が感じとったことで、気分が変わる――これが重要です。

 ここが、設定に乗ってこない部分なのですね。
 設定には、ある程度の傾向を書くことはできます。ですが、これから起きるすべての物事に対して、どう対応していくのが正解なのか?を、書き出したら、膨大な量になってしまうのです。

 「気分」は、まわりの影響を受けて、お天気のように変わります。そのシーンに来るまでに、どんなことがあって、どんなふうに活動してきたのか?描きたいキャラがいるなら、「その子の暮らしのこと」を、気にかけてあげてください。

 キャラの暮らしを考えるきっかけに、現実をベースに考えてみましょう。ちょっと嫌なことがあったとして。あなたなら、どのように気分を変えますか?

 上司にイヤミを言われたけれど、寝て起きたら、どうでもよくなってたとか。友だちとランチしたら、吹き飛んじゃった……などなど。そんな感じ、ありますよね。

 これから描こうとしているキャラたちも同じです。誰に語るようなものでもない、なんでもない日常を途切れなく続けて。そのキャラは、暮らしているはずです。そこでは、強烈エピソードの影響は、あったとしても、(次第に)薄れていくんですね。

 ちょっと脱線します。
 「いや、そこはやっぱり薄れないのでは?」と、疑問に感じた方のために。

 時間経過を考えてみてください。
 これ、何時間あいた?何年経った?まだ、同じテンションでキレてるの?諦めたり、割り切ったり、飲み込んだりして、とりあえず今を生きよう!って、ならなかったの?まわりの人だって、ずっと放っては、おかなかったんじゃないの?って。

 過去、どんなに強烈な体験があったとしても。その状況が継続していない限り。人の気分は移ろい、良くも悪くも、変わってしまいます。古傷が完全に癒えなくても、その痛みにさいなまれるだけ……というキャラ立てしか、できないわけではありません。

 時間経過による、忘却や飽き、受け入れての諦めや覚悟――薄まりがあります。だからまた、薄れた過去に関係したアイテムや人物が目の前に現れたとき、激しい感情が蘇ることもあるのですね。

4)見えない時間を組み込む

 「キャラの気分を変える(作る)時間経過」について。シナリオの書き方に注意があります。

 シナリオでは、気分が変わっていく工程のすべてを、「こう言われて、このように思ったのですが、途中こんなことがあったので、気分が落ち着いて、今はこう判断し、このように行動しました」とは、書かないです。

 前述の例で言うと、寝て起きたらどうでも良くなっていたとか。友だちとランチしたら、気が晴れたとか。その、「寝てるところ」や、「ランチしてるところ」を、シナリオでべったり中継する必要はないのです。

 どこかで時間をつまみます。
 飛び石を渡るように、ユーザーのみなさんには、見せないでおく時間を持ちます。時間を飛ばしたあとの次のシーンでは、別な気持ちを、あるいは同じ感情の延長であっても、勢いや印象が違うようにします。

 この、「見えないところでの気分の変わり方」が、キャラの魅力になっていきます。

 「見えないところで、気分が変わっちゃっていいの?」と思うかもしれませんので、ここも具体的にイメージしていきますね。

 「あんなことがあったのに、ケロっとしてるなあ」とか。「あれだけ面倒がってたのに、飲み込むのか」とか。「あんなに怒ってたのに、この冷静さは……」とか。
 そのキャラの気分が、前のシーンと変わって見えた場合。「なにかあったの?」「どういう風の吹き回し?」など、ちょっと聞いてみたくなりませんか?

 それで、気になって聞いてみたとして。「過ぎたことは過ぎたことだよ」とか、「今回は飲むが。手伝うのはこれがさいごだ」など、そのキャラに返答させることで。「このキャラは、こういう考えのやつなんだ!」となり。「危なっかしいなあ」とか「頼もしいなあ」とかって、感じますよね。

 「見えない時間」があることで、まわりの人がツッコみやすくなるのです。ゲームシナリオは、「見えているところだけ」で書いてるわけではありません。「見えない部分」でも、描いているのですね。

 「そのキャラと知り合いになれるかどうか?」です。そこができれば、そのキャラを友だちのことを話すみたいに、描くことができるでしょう。

 キャラ表に忠実な反応を示しているかどうかを、取り締まるのではなく。公式もどきを積み上げて、キャラをbot化するのではなく。それらは傾向のひとつとして、心に留めつつも。そのキャラを、生きている人間として扱ってみてください。

 「こういう子がいるかも知れない」という気持ちで、そのキャラに接していけば、血肉を与え、理性を通わせ、魂を吹き込んでいくことはできるのです。

まとめ

まとめ1
条件下での言動を決め打ちすると、キャラはbot化してしまう。
「こう言えば、ああ言う」という公式もどきだけではキャラは描けない。

まとめ2
描かれないシーンの前後に、流れる時を意識する。
キャラはその間、気が紛れたり、クールダウンしたりで、良くも悪くも心を作ってる。

まとめ3
そのキャラが知り合いだったらと考え、その日常をイメージする。
強烈エピソードがあったとしても、それだけを考え、日々を過ごしているわけではない。過去は過去として、「今」という時間を、楽しく、やるせなく、忙しく、タフに、生かしてあげるように。

ヒント

ヒント1
そのシーンを、そのキャラの気分が良い時、悪い時、2パターン作る。
「絶好調と、風邪気味」

ヒント2
描かれないシーンに、ささやかな事件を置いてみる。
「出かけにカミさんとやりあってさー」

ヒント3
描きたいと思うキャラと、半日ほど付き合ってみる。自分たちがどんな会話をしてるか、想像してみる。
「もし、このキャラがうちの部に配属になったら……
 社内案内して、仕事教えて、それからランチ連れてってる?かな?」

 以上、bot化しないキャラの描き方についてでした。

 ゲーム開発は、変更が多いものです。キャラの設定についても、簡単に変わってしまうことがあります。なので、設定に入れ込むのではなくて。「このキャラは、ユーザーさんにどう感じさせていきたいのか?」「なんのために生み出したのか?」という部分。その効果に向けた設計の一環として、キャラを捉えて下さい。
 その上で、書き手である自分自身は、「友人として」接する感じです。

 ゲームのキャラって、遊んでくださるユーザーさんの人間関係になっていくんですよね。お友だちやライバル、喧嘩ばかりのバディ。ちょっと面倒な上司や、世話の焼ける新人、憧れの先輩などなど……。

 これから生み出されるキャラたちが、遊んでくださるユーザーさんと、よい関係を育めますように。そして、作り手のみなさんとも、友だちになれますように。

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