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宝石泥棒編の作り方/ゲームシナリオカフェ

6杯目:宝石泥棒編の作り方


 わたしのゲームシナリオライターとしての特徴のひとつが、「世界が主役のゲームづくり」です。「ユーザーさんがプレイすることで変わっていく世界」、これを中心に考えています。

 今回は、「主役は、ユーザーさんの活動と、それによって変わりゆく世界である」という視点から、ゲームシナリオの作り方についてお話していきます。


1、「どんな気持ちで挑むのか?」という状況デザイン

 ゲームシナリオを新しく考えるとき。わたしは「キャラ」より先に、「状況」を考えていきます。

 状況がどうあれば、ユーザーさんがこれからの戦いに、意味を見いだせるか? 焦る、苛立つ、ワクワクする等など……どのような気持ちを背負って、そのマップを攻略するのが楽しんでもらえそうか?
 こうしたところから、状況のデザインをします。

 RPGでシナリオを書くことが多いので、バトルに特化した考えですね。世界の変化=状況が先であって、キャラはそのあとです。

 ここからは、1995年からこれまでの開発人生の中で、わたしが自分の手で隅々まで作りきることができた、聖剣伝説 LEGEND OF MANA(レジェンド オブ マナ)の「宝石泥棒編(珠魅編)」を例に、どんな手順でシナリオを考えていったのか?書き出してみようと思います。

2、はじまりは特殊な状況から

 宝石泥棒編(珠魅編)で、はじめに考えたのは、「たったひとりの犠牲により、大勢の命がまかなわれている」という「状況」でした。

 アセルス編の妖魔たちよりも踏み込んで、わたしのやりたいように、新しい種族を生み出してよいとのお達しがあったので。種族そのものではなく、種族をとりまく「特殊な状況」から、イメージしていきました。


3、状況が求める役割がある

 「たったひとりの犠牲により、大勢の命がまかなわれている状況」というのは、「ひとりに支えられている社会」と言い換えることができます。そうした困難な「状況」がまずあって。次に、その状況で現れてくる「役目」を考えていきました。

 ・大勢の命を救うため、犠牲となり続ける役
 ・犠牲を利用してでも、大勢を守ろうとする役
 ・そうした困難を知りながらも、犠牲に頼らぬ方法を探し求める役
 ・犠牲となる役に、遠くから想いを寄せる役

……等などです。

 この時点で「キャラ」はまだ、「状況からくる役目」だけの、おぼろげな存在です。年齢も、性別も、具体的には決めずにおきます。
 なんとなく、この役なら女性がいいかも?そこが女性になるなら、こちらは男性がおさまりいいかも?等の勘は働いても、固定化はしません。


4、時を進めて見守る

 状況からくる「役目のキャラたち」をざっと切り出して、配置してみます。そして、十年、二十年……ファンタジーものだと、百年とか、千年とか、その世界の時間を進めてみるのです。

 「状況からくる役目を背負ったそれぞれ存在」が、その世界で、何年、何十年、何百年と過ごしていくことで。「当初の状況」は、良くも悪くも、変わっていくはずですよね?


5、世界を切り出していく

 これで、「役目を背負ったキャラ」と、「そのキャラの行動が刻まれた世界」。「事件が起きている社会」と、「その事件を起こしたキャラ」が、同時にできあがってきます。

 時間をどんどん進めていくことで、ゲームシナリオの土壌となる舞台の歴史が、段階的に整ってくるのです。

 「この段階の、どこをゲームとして切り出すのか?」は、そのゲームの規模や、性質にも寄りますが、わたしは、三〜四段階めくらいを目安としています。

 これは、新人のシナリオライターさんに続きもののお話を書いてもらって、「1、2話を捨てて、3話めを新1話として書いてみて!」ってするのと同じ理由です。

 事件はもう、とっくに起きてる。悪役や世界の事情の方が、先へ先へと動いていて。主人公は、だいぶあとから現れて、彼らを、なりふり構わず、全力で追いかけていくのです。

 段階的な世界の様子ができあがって。そこからやっと、キャラの設計へと入っていきます。状況を背負い、その状況に対して、こう判断する、こう抗ってみせると、様々なアクションしたあとのキャラたちなので。「こうした事情があるから、このキャラはこうなってるんだ!」が、どのキャラにも自然とまとわせられます。

 「人間は、状況に応じてアクションを起こす」「そのアクションでまた、世界は(人々も)変わってしまう」という、状況設計が要です。

 もし、こうした状況設定を飛ばしてしまうと……
 「このキャラはこんな重い設定があって、だから深くなるはずで……」と、家族が殺されたり、恋人がさらわれたりしがちです。

 人間関係を壊すような設定は、衝撃的です。動機づけも強く、一定の魅力がありますよね。でも、「さあ、ゲームで遊ぶぞー!」って感じと、ちょっと乖離してしまうのが、もったいないかな?と感じています。
 主要キャラを毎回、過去からの怨恨と復讐で立たせていくのも、幅を狭めてしまうものです。
 ゲームなのですから、もっと、ずっと、自由でいいはずですよね。



まとめ

 まとめます。キャラより先に、状況を作る。

 キャラ優先だけでゲームシナリオを設計すると、家族や恋人が奪われる等、事件が「身近な人間関係の不幸」に偏り、世界が狭くなってしまう。

 そこを回避するため、先に「広い世界を、段階的にデザイン」していく。意識を、特定のキャラではなく、「世界の状況変化」へと向けること。

 具体的には、困難な状況、特殊な状況に何人か役目を背負ったキャラを配置、彼ら彼女らがどのように動くのか?、数年〜数百年単位で考える。

 面白そうな年代をゲームとして切り出し、シナリオとして作り込む。


ヒント

 ざっくり、この流れです。

 1、問題がある「特殊な状況」を決める
 2、その状況からくる「役目」を洗い出す
 3、「時間」を進め、役目を持つ人々が動くのを見守る
 4、役目を持つ人々がもたらした「状況変化」をチェックする
 5、「変化後の世界」は、あとから来た「主人公の目」にどう映るのか?


 以上です。

 わたしは、ゲームシナリオを引き受ける際は、「世界観の設計からお任せください」と伝えています。世界やキャラのことは、絵の魅力がとても大きいです。そのため、絵が先に作られて、シナリオはあとづけになることもあります。ですが、まず、中身があってからと思うのです。

 その世界を旅して、わかること。
 そのキャラの隣に居て、同じ風に吹かれて、そうして感じとること。
 そういうのを、大切に作りたいですね。


 珠魅たちのお話もできてよかったです。人間ではない誰かと出会って。ユーザーさんの心を連れ出し、わかっているのか、いないのか、不安定なまま一緒に旅して……そんな、切なさのとけこんだ、ふたりで見た世界づくり。また、してみたいですね。


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