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描きたいものは欠損させる/ゲームシナリオカフェ

1杯目:描きたいものは欠損させる

ゲームシナリオで描きたいものは、あえて欠損させる。

 描きたいからこそ、損なわせていく――そういうシナリオの書き方があります。例えば、「友情」がテーマの場合。友を奪い、裏切らせ、友を失わせます。そうすることで、「友がいた時間」「友を求める心」「友だからこそ許せない気持ち」などなど、様々な角度で、友人との関係を描けるのです。

 物語はいつも、大切なものを失ってからはじまる。あるいは、加速するのですね。

 「テーマ=描きたいものを、あえて欠損させる」――これと、似て非なる形で。「大切なものを奪えば、先に進みたくなる=動機づけ」という考え方があります。

 テーマと動機――これは、とても良く似ているので、ごちゃまぜに指示されることもあります。ですが、ゲームシナリオを設計する際、とくにバトルがあるRPGでは、このふたつを混ぜてしまうと、物語がゲームにあわなくなってしまう場合もあります。ですので、テーマと動機付けの違いを、「友テーマ」「友動機」を例にして、解説したいと思います。以下、詳細です。


1、描きたいものをあえて欠損させ、「テーマ」とする場合

 例えば、テーマを友情とすれば。各キャラ劇では、「友が居ること/居ないことによる、友とのそれぞれの関係性」を取り扱えるようになります。

 裏切りを描けば、「何故裏切った!?」と混乱し、手助けしてくれれば、「まさか…助けてくれたのか?」と希望を抱く。冒険の中で変わりゆく関係性を様々に描くことで、主人公の感情を揺さぶり、ユーザーさんの心まで巻き込むことが狙えるのです。

 この場合、友との関係は、(幼馴染)→(ライバル)→(裏切り)→(実は……)などなど、様々に変化させられます。テーマというのは、様々な角度から取り扱えます。自由度が高いのが特徴です。

、大切なものを欠損させ、それを「先に進む動機づけ」とする場合

 友情を動機づけにする。そのために、友を奪う形です。「友を奪えば、探しに行きたくなるはず」「取り戻したくなるはず」という考え方が、これにあたりますね。もっとわかりやすく言い換えると……「主人公=ユーザーさんを動かすため、友を奪った」ということになります。

 主人公=ユーザーさんを動かすのが目的なので、「奪われた友」との関係は、そこで固定化されることがほとんどです。幼馴染でライバルだった友が奪われた場合、その友は、救出するまでは(多少の心のゆらぎがあったとしても)基本的には、幼馴染でライバルだったという性質を強く持ち続けます。なぜかというと、友が奪われた先の敵陣営で、大きく心変わりしたり、活躍したりすると、主人公の「友を助けなければ!」という動機が、余計なお世話だったり、ワガママに見えたりして、薄れてしまうためです。

 ここ、もう少しわかりやすく、噛み砕いてみますね。
 例えば、ゲームスタート時は大切だと思っていた友が、奪われた先で心変わりした場合で考えてみます。

 主人公もユーザーさんも、最初は「大切な友を奪われたから、取り戻しに行く」と思っていますよね。それで途中まで追いかけてって、旅を進めて。どこかで、「友は奪われたのではなく、自ら出ていったのだ!」と判明した場合。

 「友を取り戻す」「友の真意を聞きに行く」「友は裏切り者だった!」「本当に友に構い続ける必要があるのか?」「それでも友と決着をつけるためオレは戦う!」……のように。主人公の目的が、友のためのだけにコロコロと変わってしまうことになるのです。
 友ひとりに一方的に振り回される関係だと、主人公の物語には、あまり感じられなくなるでしょう。

 「友の裏切り」を主人公の魅力を損なうことなく、描きたい場合。「世界を救う」「誰かを助ける」など、別な目的を立てておくのが有効です。主人公は、その目的への道中で、友の裏切りにあうようにします。こうすると、主人公には「世界を救うため」という「目的達成の軸」が備わるため、友との関係に振り回されすぎず、主人公の物語も描いていけるようになるのです。

 話を戻しまして。
 「友の奪還」を目的として旅をはじめると、「友はさらわれっぱなしの状態」となり、その内面も「主人公が、救出・奪還に値すると思える友のまま」に固定されやすいのですね。

 ここで、1と2の見分け方。
 友を返しても話を続けられるのが、テーマとして友を奪った形。友を返してしまうと、他の動機を立てねばならなくなるのが、動機付けとして友を奪った形です。

 1の方が、関係を豊かに描け、自由度が高いです。
 2の方が、キャラの関係性や性質は、固定化しやすいです。

まとめ

 「テーマのための欠損」と「動機づけのための欠損」、このふたつは、キャラ設定やあらすじは、とても似ています。でもそれを見分け、分けて考えていかないと、期待ほど内容が掘り下げられなかったり、動機づけを失ったりしてしまうのです。

ヒント

ヒント1
「旅の始まりたる動機づけ」と、「旅の終わりたるテーマの昇華」。
このふたつを、一緒くたにしないこと。

ヒント2
動機づけは、基本最後まで同じ形で引っ張るもの。
入口と出口が、そこそこ一致するもの。

ヒント3
テーマは、基本最後まで様々に揺れ動くもの。
動機づけたる目的を求める道中で、自由に描いていけるもの。

「答えはひとつ」と、「答えはとりどり」です。


 以上です。これが比較的わかりやすい、シンプルな形になるかと思います。もっと複雑なものを取り扱える方もいらっしゃいますので、すべてがこの形ではありません。
 なんのために友を奪ったのか?テーマと動機づけをわけて、楽しい冒険が展開できますように。

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