見出し画像

だんどりとフリキリ/ゲームシナリオカフェ

9杯目:だんどりとフリキリ

 ゲームシナリオは、「はじめての説明」が多い娯楽です。物語が進めば、新しいマップ、新しい人々、新しい装備、新しい事件、新しい現象などなど……「新しいもの」が次々と現れます。

 ユーザーさんは、それら「新しい要素」を、自分で見て、判断して、自分でプレイしていかねばなりません。なのでゲームシナリオは、新しい要素が、どんなものなのか?を、ユーザーさんにテンポよく、わかりやすく紹介する必要があるのです。

 「新しい要素をテンポよく見せる」というのは、どういうことなのか?ここが、難しいのですよね。「要素をセリフで言わせればいいじゃん」みたいになっちゃう。力持ちの主人公なら、「オレ、力持ちなんだよね!」でいいじゃん!、みたいなことですね。

 ですがゲームは、優れた体感型娯楽なのです。感じ取れるゲームというフィールドを選びながら、設定を口で言えばいいだろうなんて、そんなのもったいないです。ゲームづくりを選んだのなら、体感させたいですよね!

 感じ取らせるには、どうすればいいのか?
 今回は、例題をつかいながら、説明していこうと思います。

例題1、主人公の特徴を感じさせる

 以下は、「日常の中で、実は主人公がたいへんな力持ちであること」を、さっと見せておきたい……というシーンでした。使った要素は、「主人公」「ジャムの瓶」「開いたジャムの瓶」の3つ。しかし、これではダメだと却下されてしまいました。どこがおかしいでしょうか?

(例題1のシナリオ)
・主人公、ジャムの瓶、表示。
・主人公「ちょっと硬いな…ふん!」
・開いたジャムの瓶、表示。

 お時間ある方、例題チャレンジしてみてくださいね。
(こちらは、twitterで実際に募集していました)

例題1の解説、特別な設定のありやなしや

(例題1が没になった理由)
 例題1のシナリオが没になったのは、ジャムの瓶が開くのが「普通のこと」に見えるからです。「硬い」とセリフで言っても、「ふつうの人間では開かないほど硬い」とは感じられません。ですので、「ジャムの瓶が開けられたから、力持ち」というふうには、伝わらないのです。

 例えばこれが、「岩に刺さった聖剣」となっても同じです。
 「岩に刺さって数百年の剣」が、出てきたとしても。それが伝わらないうちに、主人公がやって来て、すぱっと抜いてしまうのならば。「そういうものかな?」と思ってしまうのです。

 「このジャム瓶はすごく硬くて、まず開かない」とか、「この剣はガッチリ埋まってるから、まず抜けない」など、「特別な設定があるなら、前もって伝えておく」ということに着目して。先程の例題を、噛み砕いてみましょう。

例題2、主人公の特徴を3つの要素プラスαで感じさせよ

(例題2)
 主人公が力持ちであることを、以下の3つの要素を使って、シンプルなシーンにせよ。ひとつだけなら、要素を追加していいものとする。

要素1……「主人公」
要素2……「ジャムの瓶」
要素3……「開いたジャムの瓶」
追加要素……任意。

 これは、ふたつの解答があります。お時間ある方、チャレンジしてみてください。

例題2の解答、追加要素でキワダタセル

(解答2−1)
 ひとつめは、追加要素として「キャラ」を足す形。わかりやすく、「筋肉キャラ」としますね。

・筋肉キャラ、ジャムの瓶、表示。
・筋肉キャラ「ふんぬぬぬ…」
・主人公、表示。
・主人公「貸せよ、ふん!」
・開いたジャムの瓶、表示。
・筋肉キャラ「おおー」
(解答2−2)
 もうひとつは、追加要素として「粉砕されたジャムの瓶」を足す形。

・主人公、ジャムの瓶、表示。
・主人公「ちょっと硬いな…ふん!」
・粉砕されたジャムの瓶、表示。
・主人公「また、やっちまった…」

 セリフや、細かい見せ方は違っても、だいたいはこのどちらかになると思います。

 解答2−1が、「ふつうの人より力のある、みごとな筋肉の持ち主でも、瓶が開かないこと」を見せる、だんどりタイプです。解答2−2が、「瓶の開け方がふつうじゃないこと」を見せる、フリキリタイプです。

 どちらも、「ふつうの人」「ふつうの開け方」を使って、「ふつうじゃない」を際立たせています。「ふつうの開け方」は、みなさんが日常で目にするアクションなので、説明をはしょれています。

 だいたいのケースでは、解答2−1の「ふつうの人」を使って見せる「だんどりタイプ」が好まれます。

 解答2−2の「ふつうの開け方」をユーザーさんが知ってる前提で見せる、「ふつうじゃない開け方」「フリキリタイプ」だと、この世界の人ならジャムの瓶を粉砕できる可能性も残してしまうからです。

まとめ

 まとめます。「力持ち」をシンプルに表現する手段として、「硬いジャムの瓶を開ける」というアイデアを思いついたとき。そのまま描けば、「ジャムの瓶を開けただけ」になってしまいます。その場合、「硬くて開かない」という段取りを先にやるか、「開き方が異常」と振り切ると伝わりやすいです。


ヒント


ヒント1)
 伝えたい要素を一文で表す。
 例「岩に刺さって抜けない聖剣を、主人公が抜いたので、勇者とわかる」

ヒント2)
 「〜なので」の前がどんな特殊な状況なのか、一文で表す。
 例「聖剣が岩から抜けない状況」。

ヒント3)
 その特殊な状況をシーンに起こす。
 例「様々な剣士が挑むが、聖剣はビクともしなかった」

もうひとつヒント

 もうひとつヒントです。伝えたいことが主人公の要素ではなく、「相手の要素」の場合。

ヒント4)
 伝えたい要素を一文で。
 例「話せない子が、主人公にはしゃべった」

ヒント5)
 主人公が来る前が、どんな特殊な状況なのか一文で。
 「なにがあっても口を開かない子」

ヒント6)
 特殊な状況である、「なにがあっても口を開かない」をシーンに起こす。
 「モンスターに襲われてるのに悲鳴をあげなかった」

 以上です。
 「それより前の状態=特殊な状況」が伝えられていれば、「変化が起きたときの感動」は、確保できるのです。

 いろいろな事情から、どうしてもシナリオに必要な表現を削られてしまい、「ここはわりきって説明台詞にしてください!」と言われてしまうこともあります。ですが、せっかくゲームで作るって決めたのだから。なるべく遊んでくださるユーザーのみなさんに、自然と感じ取ってもらう方向で、作っていきたいですよね。

 これからもゲームならではの、自分で感じとれる作品がたくさん、作られますように。

いただいたサポートは、今後の創作活動のために大切に使わせていただきます。