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瞬間湯沸かし器と感情ラリー/ゲームシナリオカフェ

8杯目:瞬間湯沸かし器と感情ラリー

 「ぎゃあああ、毛虫いいい!」とか、「限定キャラだ!うおおおお!」とか。そういう、好きなものやキライなもので、感情のままに暴走して。他の登場人物たちが振り回されていくドタバタ劇をみて、「なんか変だな……?」と、感じることはありませんか?

 今日は、そんな「変だな?」を紐解くお話です。


1、暴走スイッチ

 以下は、よくあるキャラクター設定の一文です。

・虫/高所/宿題や仕事が、苦手
・甘いもの/可愛いもの/推しグッズに、目がない

 こういう特徴をキャラにもたせたら。いつの間にかその設定が、「暴走スイッチ」みたいに利用されていることがあります。

 好きなものやキライなものの登場で、暴走スイッチが入っては、感情が爆発して、まわりを巻き込んで……という感じです。

 楽しげなシーンにしたい、全員をからませたい等、狙いはあるのかもしれません。そうした、「スキキライ設定で暴走スイッチオンしてのドタバタ劇」は、わかりやすいものです。シナリオのチェックでも通りやすいでしょう。

 ですが、「わかりやすい」ということは、「書きやすい」でもあります。それに寄りかかった群像劇ばかりになれば、小物がでた時点で、「どうせ、この虫のおもちゃに驚いて、虫嫌いなヒロインが暴走して、大魔法うちまくってパニックになるんだよな」「そのくだり、何回見たかな?」と、なっていきます。


2、瞬間湯沸かし器

 「暴走スイッチ」とはまた別に。その場の反射だけでやりくりしていくという書き方があります。

 いま傷ついた、いま泣いた、いま誤解とわかった、いま笑った、いま好意を持った、いま甘えた……というような。「即反応だけ」で進行していく書き方です。

 こちらも、感情豊かなキャラにしたい、裏表なく気持ちを表すキャラにしたい等の狙いがあるのかもしれません。そのキャラに着目した、キャラシナリオのような区切りの中では、あえて用いられることもあります。

 ですが、「その場の反応に頼ったキャラ立て」をしてしまうと。すぐに感情があふれてしまう。心の奥に入っていくことがなく、反射的にその場で吐き出してしまっていて、「瞬間湯沸かし器のような性格だな」という印象を持たれることもあるのです。


3、感情ラリー

 周りもそろって、即反応してしまうキャラばかり――ということもあります。いま酷いことが起きた、いま僕ら全員が怒った、いま全員で仇を討った、いま感謝された、いま僕ら全員、達成感を得た……というような、展開で。ずっと今、今、今……と、いまの感情と、その処理だけで続いていく書き方。キャラの反応だけでまわしていく、感情ラリー状態です。

 「酷いことに即怒る」「不安になれば即泣く」というような、「こうならば、即こう」という決め打ちは、絞ってやる分には効果的です。例えば、何年も追いかけてきた仇と、ついに対決!というシーンなら、仲間のみんなが怒っていても、おかしくはないでしょう。

 ですが、そういった特別なシーンではない場所で。全員が一種類の感情での即反応を続けてしまうと。人間として、不安定に見えてしまうのです。

 そこにいるメンバーの全員が、同じ反応、同じトーンである必要はありません。状況を理解する者がいれば、しない者がいてもいいですし、立場によって考え方が変わったり、互いの価値観の差を知り、悩んだり、ぶつかったりするのも、見応えのあるシーンとして組み立てられます。


4、持ち越すもの

 人間は、暴走したり、即反応したりという、強い感情だけで、できているわけではありません。持ち帰って考える、愛想笑いでごまかす、傍観を決める、知らんぷりして流す、あとで気になって調べてしまう……等など。その場では、大きく感情を出さず、流していく。そういう方法があります。

 「時間をまたいだ反応」あるいは、「時間経過によって熟成/侵食されていく反応」です。そして、「このキャラは必ず、この一種類の反応しかしない」というわけでもないのです。

 暴走スイッチや、瞬間湯沸かし器や、感情ラリーは、わかりやすいものです。でも、シナリオの盛り上げ方が、それしかないのでは、いつも同じテンションになってしまいます。様々なキャラを任されているのに、それはもったいないことです。

 普段は余裕があるキャラが感情的になるから、気になるのです。いつもならそれぞれの損得で動く勝手なキャラたちが、その時ばかりは心をひとつに行動するから、魅力が増すのです。

 その、にぎやかだったり、盛り上がったりする特別なシーンを支えていくのが、「普段のその人たち」「いつもの自分たち」です。その「普通さ」を丁寧にみせていけるかどうかです。

 ここはお話を作れるかどうか?の見極めポイントでもあります。ゲームシナリオが書けるひとは、「その場で処理」だけでは、話を進めません。書ききる腕があるので、その場で処理しきれない「持ち越すものの処理」を嫌わないのです。


5、まとめ

 まとめます。感情をあふれさせ、それを処理することで話をまわしていくのは、やりやすいです。ですが、喜怒哀楽の感情を、抱いたその場で処理していくと。キャラは感情に振りまわされがちな、浅く、幼い人物にもみえてしまいます。その場で処理できないものが、そのキャラの深みや味わい、物語を先へと向かわす勢いになります。

 誰かの感情とその処理を中心に、話をまわすのが続いてしまいそうなときは。(その場にいる人物によるものではない)状況とその変化を中心に据え、その状況とキャラの性質とをかけ合わせ、それぞれの言動を引き出すよう、描いてみてください。


6、ヒント

ヒント1)
 物語の着地点は、状況の変化(改善、改悪含む)とする。その状況は、その場にいる人物によるものばかりにはしない。

ヒント2)
 「誰かの気の済む=感情処理」だけを、着地点としない。キャラではなく、状況に向かっていくように、話を展開する。

ヒント3)
 「状況変化=世界の話」と、「感情処理=キャラの話」は、重なるときもあれば、ズレるときもある。状況はひとまず変化させて、感情は持ち越してもかまわないくらいの気持ちで。

 以上です。「瞬間湯沸かし器と感情ラリーについて」でした。

 特定のキャラの感情に振りまわされる、そういう書き方もあります。ですが、シナリオを設計する側に立つならば、違うアプローチもできますよ!と、引き出しを多めに用意しておきたいですよね。

 群像劇やキャラの描き方の一助になれば幸いです。

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