⚽ボールが迷子だから/紅茶に角砂糖
03:⚽ボールが迷子だから
「ありがとう」とか、「助かってるよ」とか。
特別な相手だからこそ言ってほしい言葉って、ありますよね。
でも、ぜんぜん言ってくれなくて。「自分がダメなのかな?」なんて不安になったり、「もっと頑張ろう!」って無理してしまったり。そういうことを繰り返すうち、相手に期待しなくなって、関係が悪くなって……
そんな経験ありませんか?
言葉が返ってこないことで、追い込んだり、追い込まれたりしないように。「言葉を待つスタイル」ではなく、「言葉をもらいに行く」というスタイルもあります。今日は、そんなお話です。
1、なんにも言ってくれない問題
例えば、リモートで。おうちで仕事をしている恋人に。「そろそろ休憩した方がいいかも」と思って、珈琲をいれたりしますよね。それで、「珈琲いれましたよ」と持っていったとき。返ってくる言葉が、「ああ」とか「うん」だけだったら、ちょっとがっかりしませんか?
一度だけなら間が悪かったと思えることも、繰り返しそうなると、「ありがとうの一言もないなんて……」と、落ち込んでしまったり。「いらないことだったのかな?」と、悲しくなってしまったり。「言ってほしい言葉があるのに、言ってもらえない状態」ばかりでは、さみしいものです。
これは、誰かが悪いという話ではありません。言葉が返らない/返せないことでのすれ違いなんて、誰にでもあることです。そういうときに、くよくよしないためのお話なので、安心して読み進めてください。
さっそく問題を解きほぐしていきますね!
2、シチェーションを分析する
まず、状況を見ていきます。中心となっている台詞は、「言ってほしい言葉があるのに、言ってもらえなかった」です。
この台詞から、2つのことがわかります。
わかることその1)
・「言ってほしい言葉がある」→話者が期待を持っていたこと(過去)
わかることその2)
・「言ってもらえなかった」 →その期待が叶えられていないこと(現在)
ポイントは、話し手である話者の期待が、現在に至るまで叶えられていないという点です。同じ状態のままで、ある程度の時間が過ぎているということです。
角度を変えて、さらに踏み込んでいきましょう。
3、キャラ設定を推理する
次に、この話者がどんな人なのか?を考えていきます。
状況や、登場人物を知っていくことで、何が起きているのか掴みやすくなります。起きていることが理解できれば、対処法も見えてきます。
「言ってほしい言葉があったのに、言ってもらえなかった」というこの台詞。いったいどんな主人公キャラだったら、スッと言いそうでしょうか?
主人公はこんな人かも?
「主人公は、言ってほしい言葉があった」
「しかし、言ってもらえなかった」
→ この主人公は、そうした不満を漏らしていない可能性がある。
→ もし漏らしていたら、状況の改善や、悪化もあるはずなので。
こんな風に、主人公の人となりを考えました。
ポイントは、「不満を漏らしていない可能性」です。
例えば、「ここは、ありがとうって言ってほしいな」なんて、その場で気持ちを伝える主人公だった場合。相手がその台詞を聞いてもまだ、言葉を返さなかったら……「要らないことだったの!?」とムッとしたり、「あなたは、私に興味がないのね」と変に悟ってしまったり、ありそうです。
前の項目、「2、シチュエーションを分析する」でわかったように、「言ってほしい言葉があったのに、言ってもらえなかった」という台詞には、過去→現在という時間経過があります。しかし、過去から続くこの良くない状況に対して、主人公の怒りや、悟りは、さほどにじんではいません。
「言わないなんてひどいじゃない!」ではなく、「どうせ言ってもらえないし……」でもなく、「言ってほしい言葉があったのに、言ってもらえなかった」なのですよね。
こうした部分から、主人公の我慢がまだ続いている状態だと読み取りました。怒って相手を責めたりしない、悟って「私はもう期待はしません」という突き放し方をしない。そういう、忍耐強さです。
この台詞を言える主人公は、我慢強くて、頑張ってしまう、だから不満を言いにくいのかもしれない……このような要素があると推理できます。
主人公の設定=「我慢強い」×「頑張り屋」×「不満を言わない」
とりあえず、この主人公設定で、時を進めてみましょう。
この主人公が、このままのキャラ設定でいくとしたら……
この先のシナリオでは、どんなシーンが展開しそうでしょうか?
この先の展開は?(未来)
(私には不満がある。
言ってほしい言葉を言ってもらえないという不満が。
でも言わないで我慢する)
↓
(相手もまわりも気づかない)
↓
(それでも、我慢する)
↓
(気づかれない日々が過ぎていく…)
↓
(もう、疲れた……/もう、怒った!)
こんな流れが読めると思います。
アクションの中でも、「気持ちを隠す系のアクション」は難易度が高く、まわりが気づくきっかけがないので、あまり良い展開にはつながりません。気づいたときには、手遅れで……というやつですね。
なので、「気持ちを隠す」「まわりが気づきにくい」という組み合わせは、ゲームシナリオ内では、裏切りや、自己犠牲のシーンでよく使われます。
次に、時を戻してみましょう。「我慢強く」て、「頑張り屋さん」で、「不満を漏らさない」主人公。その過去に飛びます。
この前の展開は?(過去)
(私には期待がある。
言ってほしい言葉を言ってもらえたら……という期待が。
でも言わないで我慢する)
↓
(相手もまわりも気づかない)
↓
(それでも、我慢する)
↓
(気づかれない日々が過ぎていく…)
↓
(言ってほしい言葉があるのに、言ってもらえなかった)
「不満」を「期待」に入れ替えただけで、成り立ちそうです。
こんな風に書いてしまうと、「我慢強いとか、頑張り屋だとか、不満を言わないって、そんなに悪いことなの?」「不満を言えば、相手が改善するとでも!?」「私は、あれもしてあげた!これもしてあげたじゃない!」「ふつうは、感謝するところじゃないの?」等など、「ここは相手のターンじゃないの?」と、反論の嵐が吹き荒れそうです。
問題は、まさにそこなのです。
「はたして今は、相手のターンなのか?」です。
4、シナリオドリル出題編
ターン制で考える
・主人公のターン、主人公「珈琲をいれる」アクションを選択
・(次の相手のターンで、相手のリアクションが来るはず……)
・実際の相手のターン「ああ」とか「うん」くらいの薄い反応を選択
こうして書き出してみると確かに、珈琲をいれてもらった相手が反応するターンのように見えますよね。なのに、言葉が返らない=リアクションが弱いのは、どうしてなのでしょう?
この謎を解くために、一連の流れを、ゲームシナリオとして考えていきます。
最初に仮り置きした状況、「リモートで仕事をしてる恋人をねぎらって、主人公が珈琲をいれた」というのを、シーンとして書き出してみましょう。
ゲームシナリオは情報量が多く、関わる人々も多いので、誰がどの立場から読んでも、すぐにそうだとわかるように、簡潔に情報を書きます。箇条書きなどですね。
先程の状況をざっくりと、五行で現すと……
シーン1@主人公の自宅
・主人公自宅に、主人公とその恋人がいる
・恋人は、リモートで仕事中である
・主人公は、「恋人にはそろそろ休憩が必要かも」と思い珈琲をいれる
・主人公は、「珈琲いれましたよ」と珈琲を持っていく
・しかし恋人の反応は、「ああ」とか「うん」だけだった
ここでのポイントは、三行目の「そろそろ休憩が必要かも」です。
この一文を覚えておいてください。
ここで、切り口を変えます。
「恋人の反応が薄かったこと」を、シナリオの問題として考えてみてください。
問題)書き足す台詞例
上記「シーン1」は、仕事中の恋人をねぎらって、主人公が「珈琲いれましたよ」と珈琲を持っていくシーンである。ここで、恋人キャラの返しはそっけないものになってしまった。
主人公の台詞「珈琲いれましたよ」に続く台詞をひとつだけ書き足し、恋人⇔主人公間で、会話が弾むようにせよ。
ただし、書き足せるのは一行とする。また、「今日は記念日」「大切な約束があった」等、新たな設定を作るのは禁止。書き足す内容は、日常会話としてふさわしいものとする。
さて、あなたならどんな台詞を書き足しますか?
ぜひ、挑戦してみてください。
5、シナリオドリル解答編
それでは、解答編です。
解答)
a)そろそろ欲しい頃じゃないかなと思って(推理)
b)一緒に飲みたいと思って(提案)
日常会話であれば、だいたいこのどちらかになると思います。
順に見ていきますね。
a)「そろそろ欲しい頃じゃないかなと思って」
自分の推理を足す形ですね。この台詞を足した場合、どうでしょうか? 「そうだね」とか「ありがとう」とか、「珈琲を欲しい頃だと推理したこと」への回答や評価が、言いやすくなるはずです。
b)「一緒に飲みたいと思って」
これは自分の提案を足す形です。この台詞を足した場合は、「ちょっと待ってて、すぐ終わらせるから」とか、「お菓子あったっけ?」とか、提案への返答や、さらなる提案が言いやすくなります。
どうでしょうか? なんとなく言葉が返ってくる感じ、ありませんか? ここまで読んできて、「そんなに手間をかけないと、言葉が出ないの?」なんて感じた方もいらっしゃると思います。でも、ポイントはそこではないです。「誰にボールがあるのか?」なのです。
6、誰がボールを持ってるの?
a推理、b提案――ふたつの会話例を出したことで、珈琲を持ってきた主人公の様子が、恋人や、その場に居ないわたしたちにも、見えやすくなったことと思います。
なにか一言、「珈琲をいれた背景」が付け足されると、珈琲をいれてもらった側も反応がしやすいのですね。「そろそろ休憩が必要かも」という一文、ここを噛み砕いたり、展開して伝えているのです。
これはどういうことかというと、「珈琲をいれるというアクションをした人に、いまだにボールがある状態」……つまり、「珈琲をいれた人のターンが続いている」状態なのです。
なかなか難しいので、誤解している方が多いところです。
アクションを起こしている側は、そのアクションを起こしたことで、「ボールを投げた=パスはした=自分のターンは済んだ」と思ってしまうのですよね。でも、違います。
なぜかというと、アクションを受け取る人が、「別なアクションの中にいる」からです。
ですので、今やってるアクションからモードを切り替えて、すぐに珈琲というパスを受け取り、珈琲を味わうシナリオに入っていけないのです。
もう少しイメージしやすいように、次は、珈琲をいれてもらった側の、恋人さんの視点でシナリオを見ていきましょう。
シーン1@主人公の自宅(主人公の恋人サイドシナリオ)
・彼女の自宅に、彼女と、その恋人である私がいる
・私は、リモートで仕事中である
・私生活と仕事と切り替えは難しいが、今は集中できている
・すると、「珈琲いれましたよ」と彼女が珈琲を持ってきた
・しかしまだ手が離せない、この仕事をやっつけなければ……
着目すべきは、三行目と五行目です。
「今は集中できている」「まだ手が離せない」――つまり、恋人である「私」は、いま、仕事に頭を持っていかれてるわけですね。
頭の中は仕事のことがひしめいているわけです。「あの仕事は美味しい話なのだけど、この部分がネックになるのよね」とか、「ここは〇〇さん待ちだけれど、私が先に手を付けないと間に合わないんじゃない?」とか。そういうことで、いっぱいなわけです。
そこにすっと珈琲がでてきても、仕事がかき消えるわけではありません。頭の多くを仕事が占めており、「ありがとう」の言葉が、さっとは出てこないのです。
それどころか、たぶん珈琲に口をつけたとしても、しばらくは上の空で、「あの案件にはどう答えたものかしら……?」と、仕事のことを考え続けてしまうのではないでしょうか?
つまり、「仕事に集中しているような相手」は、それがノッていて良い状態であれ、上手くいかずにグルグル悩んでいる状態であれ、そこをパッと離れて、珈琲を楽しむシナリオには移行できないということです。
シナリオライターは、こうした人間の特性、「モードの切り替わりは、ワンテンポから、ツーテンポ遅れる」を知っているので、前のシーンを引きずるようにキャラを描きます。
朝、パートナーと喧嘩してしまい、職場でも調子が上がらないとか。行きたかったライブのチケットが確保できて、その日一日、機嫌がいいとか。前回のミッションでの失敗を気にして、またミスを重ねてしまうとか……です。
なので、珈琲を渡すこのシーンでは、珈琲を運んでくる主人公(彼女)に台詞を追加します。「そろそろ休憩が必要ですよ」「煮詰まってるんじゃないかと思って」「とびきりの豆を仕入れたの。一緒にいかが?」等などです。
7、まとめ
自分の起こしたアクションに、相手の反応が薄い場合。または、思っていたような言葉が返ってこない場合。もしかしたら相手が、「他のアクション」の最中で、モード切り替えが難しいのかもしれません。
対処法は、以下です。
対処法1)
自分のアクションの背景を、台詞にして伝える。
・例1「休憩が必要じゃない?(推理)」
・例2「一緒に珈琲したくて(提案)」
対処法2)
・自分のアクションを遅らせ、相手のアクションを待つ。
・相手が「珈琲が欲しい」「休憩しよう」と言ってから、動く。
考え方のヒントは、以下。
ヒント1)
・アクションを起こす側が、会話のボールを持ってる。
・珈琲=ボールのイメージ。
ヒント2)
・アクションをされた側も、仕事など他のアクションをしてる。
・仕事=敵のイメージ。
・敵のマークがしつこいと、ボールを上手く受け取れない。
ヒント3)
・人間は、モード切替が遅く、かつ、引きずり癖がある。
・仕事なら仕事モード、休憩なら休憩モードを継続しがち。
・例)昨日のミスを気にして、今日もミスをしてしまう等。
思いやりでアクションしてるのに、お互いのモードがそろわず、すれ違って苛立つ、悲しくなって諦める、悟って期待しないなんて、もったいないことです。
ボールを抱えたまま凹みがちな、頑張り屋さんたちの助けになれば幸いです。さくっとパス出しして、みんなが楽しく会話できますように!
以上、<なんにも言ってくれないのは、ボールが迷子だから>でした。
読んでくださって、ありがとうございました。
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