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『知り難きこと陰の如く、動くこと雷霆の如し。』を観た。

                 2020.12.25

『ヒューラー』を観られずに次期公演『ゴーストライター』を待っていた頃、本公演の知らせをTwitterのタイムライン上で知った。

前回作「ヒューラー」の拡大版とのこと。

以前行われた公演の再演。

今回観た『知り難き〜』はナチス政権下ドイツ(1933年〜1945年)のはなし。

【キャスト】
・陪審員1 村田洋二郎 /ハラー(労働者党議長)/ゲーリング(空軍総司令官、のちに服毒自殺)
・陪審員2 横山真史 /レーム(突撃隊幕僚長、後にヒトラーにより粛清される。労働者党を発展させた人物。のちにヒトラーとの方向性の違いにより銃殺)/モルトケ(反ナチ運動の法律家。のちに秘密警察ゲシュタポに捕らえられ絞首刑)
・陪審員3 佐久間祐人 /エッカルト(酒場の1人。執筆家でモルヒネ中毒者、心臓発作で死去)/アイヒマン(ユダヤ人強制収容総指揮、逃亡ののちに絞首刑)※余談だが、収監されたアイヒマンの写真がWikipediaで見られるが佐久間さんの役作りの雰囲気に近い。笑。散らかっていてヒゲ、
・陪審員4 太田奈緒 /ヘド(ヒムラーの愛人、ハンスとマルティンの幼馴染み)
・陪審員5 瀬戸祐介 /ドレクスラー(酒場の1人)
労働者党初期メンバーで元副議長、決定権を握っていた)/ホフマン(ヒトラー専属写真家)
・陪審員6 佐伯亮 /シュペーア(労働者党建築家)
・陪審員7 神永圭佑 /ハンス(ハンス・アスペルガー?調べても似た人が出ないことから彼は恐らく架空人物)
・陪審員8 松浦司 /ルドルフ(ナチ党創立メンバー、わが闘争を文字にした人)
・陪審員9 糠信泰州 /メンゲレ(カルト映画のモデルになったり、恐ろしい逸話を持つ人。親衛隊大尉。役者のビジュアルと役のギャップがすごい。)
・陪審員10 斉藤瑞季 / ヴェラ(アイヒマンの妻)
・陪審員11 北村諒 / マルティン(ヒトラー側近、ヒトラーの政治的遺書でナチ党党首として指名された。のちに青酸服毒自殺)
・陪審員12 田中良子 /ゲリ(ヒトラーの恋人、のちに銃自殺)
・陪審員13 西田大輔/フェダー(酒場の1人、労働党員、反資本主義者)/ヒムラー(オカルトやファンタジーに傾倒、ナチス親衛隊長、ゲシュタポ長官、現在のコスプレ衣装や古バンドの前身黒尽くめで鉤十字の腕章スタイルはこの人が発祥と言われているとかいないとか、のちにヒトラーを裏切り権力を剥奪され逃亡し服毒自殺)
・チャップリン 谷口賢志(ゲスト)

 センターに舞台、舞台がわ左右正面に客席、舞台奥側になる裏は演者の待機席。実際には客席に順番が回ってくることはないが、悲劇の物語を傍観してのめり込んでいく「危うさ」に問題提起されている気持ちだった。(コロナが無ければ我々の番が回って来てもおかしくないと疑ってやまない。笑)

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一幕 酒場

 その日暮らしの半分浮浪者のような男たちが、お酒を飲み交わし「もしも〜なら」を繰り返す。

何者にもなれないけど、何かにはなれそうな錯覚を持ちながら後の独裁者ヒトラーは周囲に持ち上げられるまま一国のトップになろうと立ち上がった。

しかしながら初めはうまくいかず、彼の夢想を酒場の仲間は一向に信用してくれない。変わらない日常に不満はあれど、誰も自ら血を流してまで変えようとはしない。むしろ、不満な世界が居心地よくなって、井の中から抜け出せない己に酔っているような人物ばかり。

 不満の掃け口の酒場から抜け出せたのは、事態から抜け出す策を実行に移せたヒトラーだった。

彼を慕うゲーリングは忠誠心が高く、純粋すぎるがゆえヒトラーから刷り込まれた正義を貫こうとする。自問し、どこか違和感をもちながらも、革命の渦に吸い込まれていく。

 一幕の西田ヒムラーの無茶振りは当日がクリスマスということもあって、マライヤキャリーの歌真似をする人、村田ゲーリングは戦メリの北野武「メリークリスマスミスターローレンス」、糠信メンゲレと瀬戸ドレクスラーも餌食になりギャグがスベってヒムラーからの水鉄砲攻撃🔫北村マルティンは横で吹き出してしまっていた。後で考えると、西田さんが演じてることで深みや笑顔の裏の怖そうな一面を想像してしまうので、あながちヒムラーも新しくて面白いもの好きの性格だったのではと考えてしまう。

 重苦しい雰囲気から急なドリフかガキ使かというコントターンで緊張感は解れ、あっという間の2時間、一幕は終わった。

二幕 ヒューラー誕生から衰退まで

 マルティンという男の友であるハンスは秘密を抱えながらも、幼なじみの恋人ヘドと三人で平和に過ごしていた。学生だったハンスは何不自由なく過ごし、一方でマルティンは荒れた日々を過ごしていた。ハンスはやがてマルティンとともにヒトラーの部下となる。ヘドとも疎遠となり、マルティンも昇級してハンスはひとりぼっちになってしまった。ハンス自身も実は身分を偽り生きたことの後ろめたさもあり、軍から脱走したのち、学生の頃の恩師であり反ナチス法律家モルトケを訪ね助けを求めた。そうこうしているうち、恋人のヘドはヒムラーの愛人となっており、ハンスとマルティン3人の友情は崩れたかに思えた。冒頭ナチス側と幼馴染み3人が銃を向けあっていた素振りが、ここにきて繋がる。待ち伏せしてヘドはヒムラーを、ハンスはルドルフを、マルティンはヒトラーを撃ち殺そうとしていた。結果はうまくいかず、ヘドもハンスも亡くなる。

ゲリとヒトラー

ヘドとハンス

ヴェラとアイヒマン

ヘドとヒムラー

ゲリとドレクスラー

恋人に対する愛が悪意に変わる。

 受け手にとっては重く、行き違いでも、与える側からは無尽蔵に愛が与えられる。軍に属する自分自身と個人としての生き方に矛盾を抱え、ためらいながらも束の間の癒しを求めてどうにか妻や恋人の心を繋ぎとめようとする。たとえばアイヒマンは妻ヴェラがユダヤ人なのに、ユダヤ人虐殺の総指揮を止むを得ず引き受け、拒絶されると分かっていても毎年結婚記念日には彼女へ花を贈る。(後の逃亡生活で行方をうまく眩ませたはずが、この習慣を目撃され、アイヒマン本人であることの決定打となってしまった)たとえばゲリを子供のように扱い溺愛するヒトラー。たとえばヒトラーに内緒でドレクスラーと居たゲリ。身分を偽りヘドと居たハンス。

モルトケもゲシュタポに捕らえられ、いよいよ知り難きはクライマックスにさしかかる。

 緊迫した空気にチャップリンが現れる。

チャップリンの「独裁者」のオマージュのようなコスチューム。客席近くまできて拍手を煽る、フェイスシールド越しの観客も拍手で応える。「作話」に引き込まれてのめり込みすぎて、深みから抜け出せずにいると、チャップリンに我に帰らさせられた。個人的には「君は高揚の渦中にいるか?!」と煽られている気分だった。久々の観劇に興奮は冷めずにいた。

 少女のように振る舞っていたゲリが大人の女性となり、度々、舞台装置の上で尋ねる。「その言葉に悪意はありませんか」、「もし貴方がヒトラーだったら、貴方はどうしてましたか?」それぞれの場面で登場する。指名された役者はそれぞれの役の立場で懺悔をしながら、自問自答をする。次に私(観客)の番が来たとしたら何と答えられるのだろう、考えて答えは出なかった。

怪物になるのも、怪物を創るのも、手がつけられなくなって放棄することにも、見過ごしてきた因果が回ってくることにも悪意はない。

 コロナで考えると、自粛警察やマスク品薄にしても、自粛警察側の正義があって、マスクにしても儲ける人が居て大枚叩いてでも買いたい人は居た。たった1人の行動が大多数に与える影響はそう強くない。「何かがおかしい」「これはマヤカシ」などと1人が違和感を抱えているうちに、深い沼からは抜け出せなくなっていく。大衆は煽られてゆく。

 後の後継者となるマルティンが敬礼をして物語は終わる。

 


【以降、フューラーフィルム観劇後加筆】

 フューラーはヒトラーにフォーカスした男たちの話。知り難きはゲリが印象的な、人々の想いが交錯した話。それぞれをもう一回ずつは観たかった。田中良子さんがMVPだと思いました。どの人も演じ分けが素晴らしかったけれど、北村くん、神永くん、糠信くん、瀬戸くんも良かった。

この複雑なお芝居を創り上げた西田さんの作品はこれからも楽しみでならない。

考察したり考えさせられる暗い話やただ暗いでなく人の心のぶつかり合いに耐性がある人、頭のネジが外れてる人、ドイツ話に興味がある人なら楽しめると思いますので、またの再演がありましたらぜひ観劇をお勧めします。

カーテンコールの谷口さんの話、世の中どうでもいい嘘が蔓延してるけど「これが嘘だったらいいのに」が現実になってしまっていると仰っていたのが印象的だった。嘘だったらがコロナと生きなければならなかった一年に対してとも取れたし、稽古を積み重ねてきたけれど中止になってしまった公演の話とも取れる。また、コロナがなければなくならずに済んだ命についても言及しているように感じた。そんなことを話しながら「帰りに皆さんにクリスマスプレゼントがあります」と続けたが、これは嘘だった。チャップリンの髭くらい無配してほしかった。谷口さん地毛だし狩るわけにもいかないし衛生的に良くないし要らないけど。一年前はアニメ巌窟王の舞台版でモンテクリスト伯爵役をされていて、ちょうど同じ時期に谷口さんのお芝居観ていることに驚いた。

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お読みいただきありがとうございました。

また整理して修正するかもしれません。

解釈、細かい点の誤りがありましたら申し訳けありません。コメントで宜しくお願いします。

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