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彼女の意外な一面
「共依存(きょういそん)?」
「うん。例えばアルコール依存症の人がいたとするよね。家族としては医者に行って治してもらいたいわけ。でもその人の妻が"私がいないとダメになる"と思ってそんな彼を支え続けてしまうことがある。そんな彼だから支えてしまうわけで、治す方向に向かわないから病状は維持される。いやむしろ悪化する。こういうお互いに依存しているかたちのことを共依存と言うことがある」
あれは大学時代のこと。研究会で使用していた本に「共依存」という言葉が登場し、初見だった私は首を傾げた。
共に依存し合う? なんのこっちゃ? と。
担当教員の解説を聞いて面白い見方だと思った私。それにまつわる本などないのだろうか、また別の解説はないかと思い、共用の研究室を訪れた。
室内には同級生女子が2人。そのうちのひとりは自由利用のデスクトップで何か調べている。私はその隣の余っているPC席に座ってGoogleのトップ画面を開いた。
この隣に座った女子はボーイッシュで通っており、結構きっちりしたタイプである。大学卒業までの4年間浮いた話なんてひとつもなし。嫌いとまでは言わないが私とはあまり反りが合わなかった(というかあっちがそう言っていたし)。
あの頃は私も彼女が「割り勘は1円単位」女だと知らなかったし、彼女も私が「A型の風上にも置けない大雑把マイペース」男とは知らなかったはずである。
閑話休題。検索エンジンに「共依存」と入れてEnterをクリックすると……
「なんだよこれ」
今同じように「共依存」とググれば少し様相は変わっているが、当時は「恋愛心理学」「恋愛テクニック」のサイトがびっしり並んで1〜2ページ目を埋め尽くしていた。しかもそのほとんどが軽佻浮薄な印象の拭えない趣旨・解説のものばかりで、大学の研究活動に耐えうる情報は見当たらない。
当時は認知度の低い言葉だったのだろう。恋愛のテクニックとしてしか知られることがなかったのだ。
私は諦めてページを閉じた。そして溜め息をひとつ。
「何調べてるの?」
隣に座っていた彼女が突然口を開いた。
「うん、共依存って言葉だよ」
「共依存ってあれでしょ? お互いに依存し合う関係みたいな」
えっ? 知っている人いるんだ。正直驚いた。
「おお、そうそう。なんで知ってるの?」
そう聞き返すと、彼女は恥ずかしそうに目をそらした。ボーイッシュ・サバサバで通っていた彼女にはめずらしい表情である。
それを見て私は思わず笑ってしまった。意外と可愛いところあるんだなぁと。
ググっても恋愛テクニックのページしか出てこないし、それらのページで紹介されている関係書籍はいずれも『恋愛の○○』といったタイトルの本ばかり。「共依存」という言葉を知っている人がいるとすれば、私のような稀有な例を除けばそれらを閲覧していた子たちにほぼ限られているはずである。
恋愛に関心がないように見えても、彼女なりに裏では興味があって調べていたのだろう。
ところでこのように依存者の世話をして自分も依存関係に入ってしまう人を「イネイブラー(enabler)」と言う(黒い翼を生やしたあられもない姿の美女のことではない)。
恋愛相談をよく受ける人が一番困るパターンのひとつではあるまいか。
女性に多いケースと言われるが、男性の例も頻繁に聞く。いわゆるメンヘラ女子と付き合って燃え尽きるまで優しさを搾り取られてしまうタイプだろう。別に恋人の女性が病んでいてもそれを男性側がカバーできていればさほど問題はない。しかし「会ってくれなきゃ死ぬ」など夜中に何度も言われれば男性側もだんだんと病んでしまう。
「死ぬ」や「自殺する」と口にされると人の好いタイプなら言うことを聞かざるを得なくなってしまうだろう。
こういう人はネット上で「騎士(ナイト)気取り」と蔑まれることが多いが、あらゆるケースを十把一絡げにして彼らを非難するのは酷な気もする。
ただ、あまりにひどい男に引っかかっているのに、
「私だけが彼氏のことをわかってあげられる」
とかばって怒り出す女性に対してキレそうになった経験のある私には、それを言う資格はないのかもしれないが……。
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