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原則不要なもの。

歯科からみた赤ちゃん育ての要点シリーズ③『原則不要なもの』

これまでは「こうしたほうがいいよ」というメッセージになる内容が多かったと思いますが、シリーズラストは、歯科的に赤ちゃんと関わりがあるけれど使わなくていいものについてまとめます。
どちらかといえば使わないほうがよいものが多いです。

①おしゃぶり

歯並びに悪影響があることは広く認識されていると思いますが、実は0歳までは鼻呼吸を促す効果もあり、一概に悪いものとも言えません。
母乳育児への弊害となるのではないかと見られておりWHOは注意喚起をしています1)。

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しかし、少なくとも4ヶ月までの母乳育児については、母親が意識していれば特に悪影響はないとしているレビューもあります2)。
1歳を超える時期にスパッとやめられればさほど問題はないと思われますが、使用するとしても歯並びに影響が起きにくいデザインのものを選択したほうがよいでしょう。
とはいえ実際には1歳でスパッとやめられないことが多いですし、わざわざ与えなければいけない理由は基本的にはありませんので、原則不要、ですね。

②ストローマグ

乳児嚥下の残存につながるため、歯科的には原則使わないほうがよいとされています。
使うとしても、まずはコップの練習を行って、コップである程度飲めるようになってから使用しましょう。
最近はシリコンの蓋で中身がこぼれないようになっているものもあり、次善の策としてはよいと思います。
ただ細かいことを言えば、シリコンのふちから「吸う」必要があるため、一般的なコップを飲むのとは異なる動作にはなります。
持ち手がついているタイプだと赤ちゃんの口には大きすぎるものが多いですから、個人的にはBABYCUPという商品がおすすめです。

③歩行器、ウレタン製のはまりこむイス

まだ座れない子を座らせる、まだ立てない子を立たせる、まだ歩けない子を歩かせる。
いずれも「しないほうがいいこと」です。
赤ちゃんは自身の発達段階がそこに達したときに自然にその行動をとります。
まだそこに至らないのに無理にやらせてしまうと、どこかを痛めたり、体の使い方が正しく身につかない可能性があります。
もっというと、離乳の開始時期として、まだ食べられない子に食べさせる、もそうかもしれないと思うのですけどね。
前回記事にも書きましたが、ウレタン製のズボッとはまりこむようなイスも赤ちゃんの姿勢を固定してしまうので、使うとしても短時間にして食事時は避けましょう。

④10倍粥

ときどき話題にのぼる10倍粥。
WHOは母乳よりカロリーの低い10倍粥は問題ありとしています3)。
日本の授乳・離乳の支援ガイドでは離乳初期は「つぶしがゆ」となっており、中期から「全がゆ(5倍粥)」と書かれています。
そもそもおかゆから始めなければいけない根拠はないのですが、従来法通りに行うとしても全がゆをつぶしていけばよいです。
なぜ育児書などには根強く書かれているのか分からないのですが、10倍粥は原則不要、です。

⑤離乳食フィーダー

赤ちゃんグッズを扱うお店でときどき見かけませんか?
おしゃぶりのようなものに離乳食を入れて、そこから吸わせるツール。
窒息のリスクを避けながら自分で食べることができるとしてBLWと関連させて紹介されることもあるようなのですが、上述のストローマグ同様に乳児嚥下の残存につながりうる問題点があります。
また、BLWは素材そのものの見た目、触感、食べ物をどう口に運ぶかなどを体験することにその魅力がありますが、このツールを使うと見た目が分からず同じ方法で摂取することになってしまいます。
原則的には使わないほうがよいと思われますが、ダウン症児のBLW実践への移行時期に用いるとうまくいくという考え方はあるようですので、例外はあるかもしれません。
定型発達児においては不要と考えて良いと思います。

⑥乳幼児用の飲み物

赤ちゃんグッズを扱うお店だけでなくスーパーやドラッグストアでも赤ちゃん用の飲み物は色々売られていると思います。
中には生後1ヶ月からという表記のあるものもありますが、厚労省の授乳・離乳の支援ガイド4)にも、

離乳の開始前の子どもにとって、最適な栄養源は乳汁(母乳又は育児用ミルク)であり、離乳の開始前に果汁やイオン飲料を与えることの栄養学的な意義は認められていない。
イオン飲料の多量摂取による乳幼児のビタミン B1欠乏が報告されている。授乳期及び離乳期を通して基本的に摂取の必要はなく、必要な場合は、医師の指示に従うことが大切である。

と書かれています。
離乳開始前には母乳と育児用ミルク以外は与えないようにしましょう。
離乳開始後も、水かお茶以外は必要な場面はほとんどないです。
パウチやストローの製品も多いので乳児嚥下の残存につながる可能性もあります。

むし歯予防の観点からは果汁100%ジュースも与えるべきではないことは以前書きました。

イオン飲料も当然ながらむし歯の原因になります。
これについては日本学校歯科医会の教材・資料にある「熱中症予防」の資料が分かりやすいです。

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スポーツドリンクのほとんどが糖質過多、塩分過少と書かれていますね。
暑い季節の水分補給はもちろん、病時でも基本的にはお水かお茶が飲めるならそれでよいことがほとんどでしょう。

また、商品の表記として「○か月から」、「○歳から」というものがある場合でも、その根拠は日本ベビーフード協議会という"企業が集まって作られた団体"の自主規格であり、医学的根拠に基づいた製品表示ではありませんので注意が必要です。

⑦フォローアップミルク

意外かもしれませんが、フォローアップミルクも原則不要とされています。
よくある誤解ですが、フォローアップミルクは育児用ミルクとは異なり母乳の代替品ではなく「牛乳の代替品」です。
厚労省の授乳・離乳支援ガイド4)には

フォローアップミルクは母乳代替食品ではなく、離乳が順調に進んでいる場合は、摂取する必要はない。離乳が順調に進まず鉄欠乏のリスクが高い場合や、適当な体重増加が見られない場合には、医師に相談した上で、必要に応じてフォローアップミルクを活用すること等を検討する。

と書かれています。

アメリカ小児科学会はさらに厳しく、

幼児用ミルクは不要であり、害を及ぼす可能性がある。

としています5)。
フォローアップミルクを飲むことで栄養が偏ってしまうことを懸念しているのですね。
そのような側面を理解したうえで、医学的に必要と判断されたときは役立つこともあるでしょう。
ただし、前回も書いたようにミルクはビジネスになります。国内では乳業メーカーから医師や母親にサンプルが無償提供されることもあるようですので、安易な使用には注意していきたいですね。

不要なことはしない。すべきことを徹底的に。

いかがでしょう。要らないと知っていたら使わない、というものもあったのではないでしょうか?
少子化により、ひとりひとりにしてあげられることは一見増えているようで、そこにかけられる手間や時間はあまりないというのが現代の子育て事情ではないかと思います。

おしゃぶりをしゃぶっている我が子のかわいい姿が見てみたい。
早く歩く姿が見たい。
手軽に栄養が摂らせられるなら使いたい。

そういった消費者の欲求に応える形で様々な商品が企画され、販売されていますが、極論、ほとんどのツールはなくても子どもは元気に育ちます。

スウェーデンでむし歯学を学ぶときに、その根本にある哲学を僕は教わってきました。
それが、

『不要なことはしない。すべきことを徹底的にやる。』

という姿勢です。

子育てに費やすことのできる時間も手間も無限にあるわけではありません。
ときに賢くツールを使いこなすことも必要でしょう。

おしゃぶりをやめさせるのはすごく大変になることもあるし、むし歯になってしまったら治療するのが大変なばかりか、二度と元には戻りません。

かけがえのない時間を楽しみながら親も子も幸せに、そして健康に育ってもらいたい。
そのために要点の知識だけはおさえて、無理のない形で実践していってもらいたいなと思います。

1) Ten steps to successful breastfeeding. WHO.
2) Jaafar SH, Ho JJ, Jahanfar S, Angolkar M. Effect of restricted pacifier use in breastfeeding term infants for increasing duration of breastfeeding. Cochrane Database Syst Rev. 2016 Aug 30;2016(8):CD007202. doi: 10.1002/14651858.CD007202.pub4. PMID: 27572944; PMCID: PMC8520760.
3) Guidelines for an Integrated Approach to the Nutritional Care of HIV-Infected Children (6 Months-14 Years). Geneva: World Health Organization; 2009. Appendix V, Guiding Principles for Complementary Feeding of the Breastfed Child (2003)
4) 授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)厚生労働省
5) Lott M et al. Consensus statement. Healthy beverage consumption in early childhood: Recommendation from key national health and nutrition organizations. Healthy Eating Research. 2019.

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