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ミュージカル『ミス・サイゴン』感想


先日、初めてのミス・サイゴン、観劇してきました。富山公演千秋楽です。

観劇のきっかけは、年明けにひょんな流れで見たミュージカルフェス『The Musical Day』の配信。出演者の皆さんの歌やミュージカルにかける熱い思いが素晴らしく、さらには、ミス・サイゴンにはトゥイ役でご出演の西川大貴さんにフォーリンラブ(?)しまして。

西川さんの出る舞台、遠征して観に行こうかなと調べたところ、なんと近隣でも公演があることが判明!以来、心待ちにしていたのです。

大都市を除くと地方公演なんかほとんどないのに、あちらからやって来てくれるなんて。これが運命ってやつでしょうか?

The musical dayについては、くわしくはこちらの記事で書いてます↓



劇場でミュージカルを見るのは人生4度目でしたが、お目当てのキャストさんがいてチケットをとったのは今回が初めてだったのもあり、今まで以上に楽しむことができました!


観劇にあたって事前に色々と調べていたところ、ミス・サイゴンは、どうやらストーリーの時系列や舞台の設定が複雑らしい、との情報を得ました。時代背景やストーリーの大まかな展開を把握してから見たほうがより深く理解できるとのことだったので、軽く予習してから行くことに。

ミス・サイゴン公式サイトのイントロダクションと、西川大貴さんのYouTubeチャンネル「クロネコチャンネル」の動画『約14分でわかるミス・サイゴン』をチェックしました。


こちらの動画、西川さんの熱演がいちいち面白すぎて、初見だと内容が全く入ってこなかったのですが(笑)、めちゃくちゃ的確にわかりやすくポイントを教えてくれているので、これから初めてサイゴンを見る方にはおすすめです。歴史が苦手な人も楽しく、ざっくりとした時代背景を理解できます。

動画の後半、ストーリーについてはだいぶんネタバレしていますが、最後のオチまではいかないですし、話の大筋を知っていても舞台は全く問題なく楽しめました。むしろ、しっかり前知識を得てから行った甲斐あって、時系列など全く迷子にならずにストーリーや音楽に入り込めたので良かったです!


さて、当日のキャストさんはこちらでした。

見にくくてすみません


ヒロインのキムは、昆夏美さん!映画『美女と野獣』のベルの歌が大好きで、何回も映画見てるしサントラもよく聴いていたので、昆さんの歌を聴けるのもとても楽しみにしていました。

ひとりの少女が、母となり我が子のためにいのちを燃やす姿、魂の歌声は、エネルギーが物凄くて、壮絶で、とにかく圧倒されました。

特に第一幕のラスト、キムのソロ“命をあげよう”では、もう・・・ぼろ泣き。昆さん、本当にすごかった。

正直、ストーリー展開を大まかに知ってから行ったので、まさか一幕の時点でそんなに泣くとは思ってなかったんですよ。

しかしながら、休憩に入って周りのひとがサッと立ち上がっていくなか、しばらく立ち上がれないくらいにはグズグズに泣いてしまいました。ストーリーもですが、なにより、昆さんの歌声が素晴らしすぎて。音楽で胸がふるえる体験をしました。素晴らしかった・・・。

また、タムちゃんがね、可愛くてね。あんっなにちっちゃい子が大舞台で大人に混ざって頑張っているという事実だけで、別の意味で泣いてしまいます。もはやタムちゃんがステージに居るだけでうるうるしてました。ちょうど同じくらいのサイズの甥っ子の成長を近くで見ているから、余計かなあ。単純に歳なのかしら。。

泣きすぎて、私、二幕保たないかも、、と不安にさえなりましたね。そして、涙と鼻水でマスクがびちょびちょになったので(汚ねえ)、予備のマスクを持ってこなかったことに後悔しました。これから行く方、予備マスクと大量のティッシュ必須です。


エンジニア役は、ミスター・サイゴン、市村正親さん。舞台に現れたときのオーラが半端ない。どんどん才能ある俳優が出てくるなか、初演から出演し続けていらっしゃるなんて本当に凄いですよね。かっこよかった。スターってこういう方のことを言うんだろうな。

エンジニアは、簡単に言ってしまうと『とにかくアメリカに行きたい男』です。女を売り物にして混沌とした世を狡猾に生きる奴なのかと思いきや、徐々に彼のバックグラウンドがはっきりと見えはじめると、アメリカンドリームを追い求める姿がだんだん切なくも見えていきました。ずっとへらへら媚びをうってたのに、差別用語を浴びせられて、ほんの少し時が止まった瞬間が辛かった。いつかアメリカ行けててほしいよ。

この物語はどうしても題材が重たいので、全体的に辛い展開が続くのですが、市村さんの演技で少し肩の力が抜ける瞬間が多々あり、ありがたい存在でもありましたね。ずっと緊張感がありすぎて、今は笑っていいところですか!?って脳内が混乱したこともあったけど。けっこうアドリブが多いのかなと思ったんだけど、実際のところ、どうなんだろう。他の人のエンジニアも是非見てみたい。

やっぱりほかのキャストさんの公演も行けばよかったな、、と思ってしまっているあたり、もうミュージカル沼に浸かりだしているのかもしれないですね。



そして、いちばんのお目当て、西川トゥイ。
いや〜、、、怖かった。立ち居振る舞いから怖すぎました。さっきの動画のふざけた人と同一人物とは到底思えません。

でもね、彼、狂気的な一方で、真面目で純真でもあったと思うんです。推し俳優さんが演じているぶん贔屓目に見てしまう部分もありましたが、トゥイという人物だけで見ても、キムがヒロインな以上立場的にはヒールなんだろうけど、憎みきれないキャラクターで大好きでした。

だって、国や大切な人を守りたい一心でベトコンになって、その間に故郷の村が爆撃にあって、大切な婚約者のことを案じて必死で探して探して、やっと見つけ出した時には、愛しの彼女は、あろうことか敵兵にあたる人と恋に落ちてたんですよ。なんて不憫な。

しかも、これはトゥイ役の西川さんと神田恭兵さんがツイッター上でお話していらっしゃった今期のサイゴンで意識したという裏設定(?)なのですが、キムとトゥイはもう何年も会っていなかったのかと思いきや、離れていた期間はそんなに長くはなかったんですって。彼にとっては束の間の出来事だったんですね。そりゃあ、ショックなんてもんじゃないですよね。

もちろん何があろうと暴力は絶対にだめだし、罪なき子供のいのちを奪おうとしたことは最悪中の最悪中の最悪なんですけど、少し同情もしてしまいます。

いちばん印象的だったのが、キムに撃たれて倒れたあと、愛おしそうにそっとキムの頬に手を伸ばしたトゥイ。あんなにも愛憎に満ちて冷徹になっていたトゥイが、死に際に見せたあの一瞬が切なくて切なくて、、、トゥイ、、、、トゥイ、、おまえ、、

なにより、出会ってから心待ちにしていた西川さんの生歌を聴くことができて、感無量でした。やっぱり好きな声だった。好きだ。。

あと、クリスのチョ・サンウンさん。今回初めて知ったのですが、さすがは元四季トップスター、ええ声すぎました。序盤のソロ曲“神よ何故” 最高だった。

上野さんのジョンもすごく良かったです。”ブイドイ”は、実際の子どもたちの映像が流れる演出も相まって”命をあげよう”の次に印象的だったかも。かわいいこどもたちの姿に胸が痛んだ。上野さん、音圧!!!って感じの迫力ある歌声でした。

あと、歌で印象的だったのは、婚礼のシーンかな。アンサンブルの皆さんのハーモニーが本当に美しすぎて、鳥肌たちました。あんなに透き通った貴い歌声ってあるんですね。。みんなが今の状況から抜け出したいはずなのに、仲間の幸せを心から祝える皆さんが素敵すぎて、グッときたシーンでした。

そうそう、アンサンブルといえば、カーテンコールでアンサンブルの方々が出てこられたとき、物語のなかでは物凄いたくさん人がいたように見えたのに、たったあれだけの方々で演じ分けていたという事実にも改めてびっくりしました。いちばん最初のシーンとか、サイゴン陥落の最後のヘリのシーンとか、民衆の大混乱の描かれ方、凄かったですよね。目まぐるしかった。

青山さんジジもめちゃくちゃカッコよかったし、松原さんエレンは後妻という立場上嫌味な奴なのかと想像していったのに、実際はとても心麗しくて泣きました。エレン、もっとクリスにぶち切れたとて許されるよ・・・。

正直、クリスには「なんでだよおいおいおいおい!?」と思ってしまう部分もかなりあったんです。できない約束するんじゃないわよと。無責任に子供までつくって。

でも、もし自分がクリスだったら、と思うと。国のためにと戦ったのに、国に帰ったら、みんなから後ろ指差されて。異常な世界で、死を目の当たりにし続けて。そんななか、自分が救えるかもしれない命が、ぬくもりが、目の前に、腕のなかに現れたら。

無情にも思いは引き裂かれて。帰国後もずっと戦争の記憶に苦しんで。そんな自分に、優しく寄り添ってくれるパートナーが現れたら。

まあ、すべて忘れて新しい人生を、、、と思うのも無理もないですよね、、手放しに彼を責めることもできないや、、、

立場の弱い女性たちを無責任に孕らせて去っていったことはどう考えても正当化できないけどね。まあクリスに限ってはキムも恋しちゃってたってことで。


登場人物それぞれのことを考えてみて、今思うのは、やっぱり、戦争で幸せになるひとなんて、誰ひとりとしていないんだなあということです。本当は誰も悪くなんかないのに、みんなが罪を背負っている。全部、戦争の異常性が引き起こした悲劇です。

ただ、その後の世界を生きるタムの未来が、少しでも自由で明るいことを祈るばかりです。クリス、頼んだぞ本当に。

そして、家に帰ってからニュースを見れば、今日只今の、実際の戦場の様子が映っていて。現実のことだといまいち実感しきれないけど、いつもどおりの日常を過ごす私たちの頭上を、鉄の塊が飛んでいったりもしていて。

ミス・サイゴンの世界の出来事も、決して他人事じゃない。過去の話、フィクションの話で終わらせちゃいけないなと思います。

こんなことを暖かい部屋でぬくぬくとしながら言っていても綺麗事だと笑われるかもしれないし、なんの影響力もない奴がインターネットの片隅でこんなこと書いてたって、何の意味もないのかもしれませんが。

やっぱり言っておきますね。
何も言わないよりは良いと思うから。


私は戦争に断固反対です。


戦争反対!!!!!!!!!!!!


どうか、戦いのない、誰もが自由に生きられる平和な世の中になってほしいです。



観劇後から、かなりサイゴンに気持ちが引っ張られていて、キムたちのことを思い出しては悲しくなったりしているのですが。

今を生きる当事者として、しっかりと平和に思いを馳せつつも、私は私の明日を元気に生きることがまずは大事だとも思うので。

カーテンコールで、てってけてー!と走ってきたかわいいタムちゃんと、ミッキーのごとくお手振りする西川さんのおちゃめな姿を思い出しながら、今夜は眠りにつくこととします。

ミス・サイゴン、とても素晴らしかったです!!!ありがとう、サイゴンカンパニー!!!!!!

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