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【題未定】都知事選挙結果とその後:石丸氏への賛否を考察する【エッセイ】

 先日の日曜日、東京都知事選が開票を迎え、大方の予想通り現職である小池百合子氏が再任した。この結果自体に関しては異論もなければ意外性もない。現職有利な首長選挙、カイロ大学と並木伐採ぐらいしかつつくことが見当たらないそつのない都政運営に徹した小池氏の勝利は予定調和に近いものだったように見える。

 その一方で善戦したのが石丸前安芸高田市長だ。当初の予想では蓮舫前参議院議員と小池知事の一騎打ちと目されていた状況を彼は一変させた。インターネットやSNS、若者の動向をつかむ運動で一気に名を上げ、小池知事に次ぐ得票数を上げる結果となった。

 ところがそれほどの人気、時代の寵児となった石丸氏への批判が高まりつつある。選挙後からすぐにSNS上やマスコミ各社は一斉に石丸氏への総バッシングが始まったのだ。選挙中からも石丸氏の言動に関して批判的である言論人は少なくなかったし、X上などでもいわゆる「アンチ」が大量に発生していたのは事実だ。しかし、選挙後のSNSや報道規制が終了した後の状況はあまりにも極端な動きのようにも感じる。

 その原因は氏の選挙開票番組での受け答えが大きく影響している。選挙特番に出演しているアイドルからの質問をにべもなく切り捨てたり、社会学者の古市憲寿氏との不毛なやり取りがその原因だという。

 これらの映像を私も確認したが、言い方としては愛想のない、相手の意図を斟酌して答える姿勢のものではなかった。確かに、アイドルの質問は当を得ていないし、古市氏はやや敵対的な意図を持った質問あったとのも事実だろう。とはいえ普通の候補者ならばその意図を汲んで答えたであろう質問だった。しかし石丸氏は質問自体を否定し切り捨てるような言動を行った。これが一定数の人々の反感を買っているようだ。

 ところが熱心な信者も少なくないため、XなどのSNS上はどこもかしこもその件で炎上している。石丸信者は批判者は感情的、理性的な言論のできない人間と言い張り、アンチ石丸はパワハラ気質、政治家としての器に欠ける言動、弱者に寄り添えない人格だという批判を繰り返している。

 とはいえこの応酬は極めて不毛だ。そもそも石丸氏が批判を受けている情緒や忖度を切り捨てる姿勢や態度こそが彼を支持している人たちの石丸氏に期待している部分でもある。逆にそこいらの政治家と同じ受け答えをすれば彼の支持者は離れてしまうだろう。

 石丸氏は質問の前提条件を質問者が設定することを極度に嫌う傾向がある。「Aということは○○において問題があると思うのですが、その問題点をどう解決するつもりですか?」といった質問がそれにあたる。石丸氏はこの論法に対しアレルギー的に反応し、「Aのどこに問題がありますか?その前提条件自体が間違っています。」という返しをするパターンが多い。

 これは相手の土俵に立って議論をしないという意味では正しいスタンスだし、ディベート的には決して間違いではない。一方で建設的な議論や話し合い、妥協点を探すことを好む人からすれば相手に対して敬意なく敵対的に接する人間であるという印象になるだろう。

 とはいえここ数日の「石丸構文」での総叩きはあまりにも目に余る惨状だろう。石丸支持者は10、20代が多く、アンチはそれなりの年齢の人たちが多いだろうにも関わらず、大人げなく石丸氏の論法を揶揄している姿はあまりにも醜悪だ。確かに石丸氏の言説は他者から批判を受ける可能性のあるものだし、むしろそうした姿勢を取ることでキャラクターを尖らせて支持者を集める手法でもあろう。だとすれば叩かれるのは想定の範囲内でもあるはずだ。しかし仮にそうだとしても落選した候補に対し、いい年の大人たちがX上で総叩きをする姿は見られたものではないのも事実だ。

 一定数の若者たちが石丸氏を支持する理由はもしかしたらそうした日本的ないじめ構造そのものにあるのかもしれない。ある種の付和雷同的な受け答えや行動を忌避するがゆえに、そこに空気を読まず発言して風穴を空けるような雰囲気を期待して石丸氏に投票をしたとしてもおかしくはないだろう。

 私自身、決して石丸氏を政治的に支持する立場ではないし、彼の政策や人間性に共感を抱くわけでもない。しかしその一方で彼の言説やロジック、言い回しなどに関しては自身と重なる部分を感じるところがある。それゆえ、彼への批判が自身に対して向けられる可能性を感じ、今回の都知事選挙は興味深く、学びの多いものになったのだ。

 

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