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【題未定】ワインの味など分からない中年がワインを嗜む贅沢を覚えた話【エッセイ】

 ワインブームというものがあるらしい。調べたところ、1970年ごろが最初で、その後過去7回ほど日本国内におけるワインブームというものがあったようだ。1970年の輸入ワイン自由化、1980年代後半のプラザ合意後の輸入ワインの価格下落、1990年代後半の健康志向による赤ワインブームなど、時勢を映す鏡こそがワインブームだそうだ。

 世間が現在ワインブームかはさておき、私自身の中では最近ワインブームが巻き起こっている。これまでは週に数回、金麦を飲むぐらいだったが、ワインを買って飲む回数が増えた。とはいってもそこまで舌が肥えているわけでもなく、ペットボトル入りのワインで十分に満足できるため、むしろビール系よりもコストが下がったぐらいだ。

 最近の私のワインブームのきっかけはサイゼリヤだ。たまたま家人と入ったサイゼリヤで食中酒を頼もうとビールを見ていたところ、同じ価格でデカンタでワインが飲めることに気づき白ワインをすぐに注文した。500円もしない価格であったが、しっかりと冷やされていたデカンタにすっきりとした味わいが印象的で、イタリアンとの相性が良くて非常に満足することができた。このことがきっかけで、安いワインを買って家で飲むことを思いついたというわけである。

 先に述べたように、基本的にはペットボトルのワインを買うのがほとんどで、それまでメルシャンかサントリーの最低ランクのものしか購入していなかった。もちろんこれで十分満足していた。そんなある日、洋菓子チェーンの店、シャトレーゼを訪れたときのことだ。それまで何の気無しに見ていたが店頭に「樽出しワイン」なるものが売っていることに気づいてしまった。いや実際の話、それまでも認識はしていたのだが、ワインを好んで飲んでいなかった上に洋菓子屋ということで頭の中で結びついていなかったのだ。

 気づいてしまえば試すしかない。早速、レジで瓶を購入し、それに樽出しワインを詰めてもらった。家に帰って口にしたシャトレーゼのワインは非常に若い印象を受けた。渋みや酸味がややとがっているという表現が近いだろう。ペットボトルワインの輪郭のぼやけた印象とは全く異なる感想を抱き、すっかりはまってしまった。この時は白を購入したと記憶している。その後赤と白を交互に購入して試したが、どちらもしっかりとした味がして、ワイン初級者の私には十分すぎる品質であった。

 そうした過程を経て、最近はすっかりワインが定番化しつつある。これにイオンで見つけた粗切りクラッシュチーズを組み合わせれば、気分は立派なパリジャンである。とはいえワイン愛好家を名乗るには恥ずかしいレベルではあるのだが。

 ワイン愛好家として最も記憶に残っているのは故川島なお美氏である。氏は自身の血液がワインでできていると公言するほどのワイン通であったという。世代的にも彼女で思い出すのはお笑いマンガ道場、だん吉なお美のおまけコーナーである。あのお姉さんがワイン通という謎の組み合わせが個人的に印象的だった。

 酒が決して体に良いわけではないし、万人に勧めるべくものでもないのは事実だ。しかしこうした自宅での豊かな時間は何よりも幸せを感じる瞬間でもある。樽出しのワインを瓶詰めしてもらうという購入体験がその満足感をさらに高めてくれるのかもしれない。加えてそれがローコストで実現できるのならばなおさらだ。

 コロナ禍を経て、さらに「おうち時間の充実」という概念が定番化しつつある。高価ではないが、少しだけこだわった樽出しワインというアイテムはその時間をさらに特別なものに演出する良きツールでないだろうか。

願わくば、ワイン慣れして舌が肥えないことを祈るばかりである。

 

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