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『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』刊行記念ライブ デビュー小説の裏側、全部話しちゃう奴 <イベントレポ>

こんにちは! ライターの金子です。
今回はジャルジャル・福徳秀介さんの小説デビュー作『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』刊行記念ライブのイベントレポートをお送りします。
著者の福徳秀介さんと担当編集の片江佳葉子さんを迎え、作品の裏話を存分に語っていただきました!

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実は初稿と全く異なる作品に仕上がっていて……? あのシーンは実際福徳さんも試していて……? などなど、たくさんの裏話を披露してくださいました。ぜひご一読ください。

(以下、明確なネタバレはありませんが、小説の内容に触れていますので、未読の方はご注意ください)

◆ラブコメ小説からホロ苦青春小説に変わるまで

・ラブコメだった初稿

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ホロ苦青春小説として描かれている本作ですが、なんと初稿はラブコメだったそう。

当初予定していたのは、なかなか好きな女の子にアプローチできない奥手な主人公が、ひょんなことから“8日間で女の子を口説く方法”をテーマにした映画に出会い、その内容通りに女の子にアタックしていくストーリー。
映画を見てはアタックし、続きを見てはまたアタックを繰り返す……。しかしなんとその映画は8日後に男の子がフラれる顛末だった! その結末を知り絶望した主人公。けれどもめげずにアタックした結果は如何に……?! という話だったそうです。

本作、特にラストは涙なしには読めないホロ苦い本格的な小説となっているのですが、それとは似ても似つかない初稿。何があったらそんなに180度異なる話になるの?! と心を掴まれるエピソードが、イベント序盤から炸裂しました。

・福徳さんのお父さんの話をきっかけにストーリーが一気に変化

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どのようにしてラブコメからホロ苦青春小説へと変化していったのでしょうか?

転機は約1年半前。福徳さんが片江さんに高校時代にお父さんを亡くした話をしたことが発端で、徐々に小説が全く異なるものになっていったそうです。
この話を聞いて「福徳さんが心から書きたいものはコレではないか?!」と直感した片江さんは、その後福徳さんとお父さんの話を重ねていったそう。
ここから、小説の内容が劇的に変わり、どんどん良くなっていったとのことでした。

福徳さん曰く、大きく変えたストーリーの肝は「ヒロイン・桜田さんを主人公・小西徹との待ち合わせに来ないストーリーに変えたこと」。
それまで桜田さんは小西との待ち合わせに来るという流れだったそうですが、そこを変えて書き直し始め、改稿を重ねると全く異なるストーリーになった、とのことでした。

福徳さんが語る通り、作中桜田さんが小西との待ち合わせに来ないシーンからストーリーが加速していきます。
そこから小西の心境に変化が訪れ、彼の友人関係にも暗雲が立ち込めてくるのですが……。桜田さんが待ち合わせ場所に来なかった理由が分かった瞬間、全てのもやもやが解消します。ここのラストシーンに至る疾走感はまさに衝撃の一言。小説家デビュー作とは思えない傑作に仕上がっています。


・全て福徳さんによって生み出された独特で印象的なセリフ

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また、ストーリーが変わっていく過程で数々の素敵なセリフが生まれていったそうなのです。
「家族の数だけ、別れがあるんやで。覚悟しいや」という小西のおばあちゃんの言葉や、桜田さんのお父さんの「嫌いな人が困っていたら助けてあげなさい。そして『私に助けられて、ざまあみろ』と思いなさい」などなど……。あまりに素敵なので、思わず片江さんは「実際におばあさんやお父さんから言われた言葉ですか?」と聞いてしまったほど。しかし、それらの名台詞は全て福徳さんが生み出したのだそう。

『雲は空にしかいられない』
『私は毎日こう思う。今日の空が一番好き、って』
『些細なことほど痛い。覚えときなさい。些細なことは些細やない』
など、本作には独特で印象的な言葉がたくさん散りばめられています! 

作中桜田さんのお父さんは幸せ(しあわせ)を“さちせ”と言い、好き(すき)を“このき”
と言うのですがその理由がこちら。
『「幸せ」を少しでも早く伝えたくて、「好き」を少しでも時間をかけて伝えたいから』
なんてロマンチックなんでしょうか……! 私個人的にも何度も反芻してしまうほど大好きな言葉となりました。

◆主人公・小西徹と福徳秀介は似ている?!

福徳さんは「主人公と僕は全然違う」と語っていますが、実は「こだわりが強い」という点で似ているとところがあるんです、と話す片江さん。その具体的なエピソードを披露してくださいました。

例えば本のタイトルを決めるときにずっと悩んで片江さんの案をすぐに受け入れず何度も話し合ってそれでも悩んでしまったり、片江さんが書籍のプルーフに「忙しいのに福徳さんは何度も改稿を重ねて作ってくださいました!」と書いたところ、「僕は好きでやっているだけだから忙しいって書かないでください! 忙しいは心を亡くすって書くんです!」と、北風が吹きすさぶ中道端で片江さんに詰め寄ったり……などなど。
まさに小西のいい意味での面倒くささやこだわりの強さとリンクしています。作家としての強い意志が垣間見えた瞬間でした。

さらにイベントでは福徳さんによる朗読コーナーがありました。 

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読んでくださったのは、スピッツの『初恋クレイジー』を爆音で流して小西が桜田さんに想いを告げるシーン。小西の言葉は爆音でかき消され桜田さんには全く聞こえないのですが、曲が終わると同時に、重要なとある一言を小西は桜田さんに伝えます。
このシーン、実は福徳さんご自身が実際に海辺まで行って『初恋クレイジー』を爆音で流しながらセリフを話してみたら、本当に曲の終わりとセリフの終わりがぴったりだったそうなんです。

これらのエピソードを聞くと、ジャルジャルのあの一見軽やかなコントのネタもこの小西のようなこだわりがあってこそなのか……! と小西と福徳さんを重ねてしまいます!

◆質問コーナー

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イベントでは、福徳さんが時間ギリギリまでたくさんの質問に答えてくださいました。
ここでは印象的なものをいくつかご紹介します。

・執筆スタイルは?
喫茶店はタブレットで、電車での移動中はスマホで書いたと回答する福徳さん。喫茶店に12時間こもってひたすら執筆した日もあったそうです。
パソコンで書いたらどうか? という意見もあったものの、「今まで親指1つでいろんな文章を書いてきたので、これが1番書ける気がしたんです」と、タブレットとスマホで執筆したとのことでした。
確かにパソコンで書くのと、指で書くのとでは生み出される文章や言葉が変わるかもしれない、と気づかされる一言でした!

・好きな人をどうやって見つければいい?
「うーん、美味しいもの食べた時に誰の顔浮かびますか? その人が好きな人じゃないかなと思います!」と福徳さん。これはなかなか心に突き刺さる名言です。

・1番好きなシーンは?

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特に多かったこの質問。福徳さんは「小西が喫茶店にゴミ取りネットを持ってくるシーン」と即答されていました。

小西と桜田さんの会話の中で、桜田さんがゴミ取りネットのゴミを取るのが好き、と告げるシーンがあるのですが、後日小西が桜田さんとの喫茶店デートの際に自分の家からゴミ取りネットを持ってくるシーンのことを指しています。

「普通、いくら自分がゴミを取るのが好きだと言っても、他人の洗濯機に入っているゴミ取りネットを持ってこられたら嫌な気分になるはず。それを冷静に受け入れられた桜田さんがいる。つまり2人はあの時点で両思いだったんじゃないかなと思うんです。自分でも意識的に書いていたわけではないけど、桜田さんは小西のことをすでにアリだと感じていた瞬間だと思う」と語っていました。

ちょっとずつ面倒くさい小西と桜田さんの性格がわかり、かつ2人がお似合いかもしれないと示唆される印象的なシーンだなと感じます!

◆お知らせ/『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』ご案内

イベントでは「本作を書いて福徳さんが印象に残ったこと」という質問も上がっていましたが、「この時の自分の感情が記録に残った」と語っていた福徳さん。

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まさにその時福徳さんが感じていたことが詰まっている一作となっていますので興味を持たれた方はぜひご一読ください。単なる恋愛小説ではなく、人が生きること、死ぬことを考えさせられる心に響く一冊です。発売後一か月で大重版して、大ヒット発売中です。
『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』

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撮影/黒石あみ 文/金子杏奈 編集/小川利奈子
2021.1.21 作成


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