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DFB(ドイツサッカー連盟)指導者養成 ~トレーニング構築のフレームワーク~

トレーニングを構築する際にはチーム・グループ・個々の課題、テーマ、サッカースタイル、マクロ・メゾ・ミクロサイクル(ピリオダイゼーション)、次節の対戦相手などからトレーニング内容が決定されるが、主となる目的(その日のテーマ)に沿ったトレーニングを効率良く考え、尚且つ効果的なトレーニングを提供していくための手助けになるであろうフレームワークがドイツには存在する。

下の表はドイツでDFBエリート・ユースライセンス(2022年からB+(プラス)ライセンスに名称変更)の指導者養成講習会を受講した際に扱われたフレームワーク。
そこではトレーニングのフォーマット・方法論として下記の6つの大枠が紹介された。


フレームワーク・表

①:基礎的ドリル形式
②:競合性ドリル形式
③:(状況再現性)実戦的ドリル形式
④:基礎的実戦形式
⑤:競合性実戦形式
⑥:実戦的実戦形式


指導者養成期間の全日程を通じて、基本的には紹介されたこのフレームワークを念頭にトレーニングをオーガナイズすることが求められ、試験時の口頭・筆記・指導実践の際にもフレームワークを基に設問されたり、トレーニングのデザインを行っていった。

各項目の概念や注意点は表の通りだが、それぞれ簡単なトレーニング例も一緒にして少し補足して見ていく。(一部のトレーニングは指導者養成内で実際に取り扱われていたもの)


①基礎的ドリル形式

フレームワーク・1

基礎的なパス&コントロールやシュート練習などがこれにあたる。
• 技術面にフォーカス(戦術的要素は低め)
• ポジションに依存しない
• 相手の妨害(プレッシャー)は無し
• 決められた流れや動きの中でプレー



②競合性ドリル形式

フレームワーク・2

基礎的ドリル形式にプレーの選択肢や多少の複雑性、DFのプレッシャーなどを加えたオーガナイズ。
• 技術面にフォーカスした、戦術の前段階的なもの
• ポジションに依存しない
• DFによる妨害あり。ただし、軽度のプレッシャーにすること
• 複数のプレー選択肢を伴う
• グリッドやゾーン設定のバリエーションは豊富に


単純なオーガナイズの中に判断の要素を入れ、成功体験をある程度保証するために守備役の選手の強度を軽めにコントロールすることが大切になる。


③(状況再現性)実戦的ドリル形式

フレームワーク・3(1)

フレームワーク・3(2)

実際に起こりうるシーンや試合で想定される状況を切り取ってトレーニングするオーガナイズ。
指導者養成の指導実践では、『(状況再現性)実戦的ドリル形式』のフレームワークの中でトレーニングを作成し、試験が行われる。
• 試合状況の切り取り、技術・戦術的ポイントに強くフォーカス
• ポジションと選手配置を明確にする
• 試合と同等の相手選手のプレッシャー
• エリア分割やタッチ数制限の設定はOK。ただし、簡易的なものとし、実際の試合から離れすぎないオーガナイズに注意する(あまりに細かいルール設定は試合における「リアリティ」から遠ざかってしまう)

図にように「サイド、ウィングを経由した攻撃に対する守備の改善」というテーマで考えると…
コーチングチーム(図の青。守備側のチーム)とスパーリングチーム(赤の攻撃側チーム)のシステムを設定し、そこからフィールドを切り取る。
指導者養成内では人数設定は「4vs4から最大で6vs6プラスGK。サーバーをつけるのはOK」というルールであるため、
コーチングチーム:SB、SMF、2CB、2CMF + GK
スパーリングチーム:2CMF(1人は配球後にフィールドへ)、SB、ウィング、トップ下、FW

コーチングチームはボールを奪ったらサイドライン沿いのマーカー間をドリブル通過(SB、SMFのドリブルによる突破想定)かミニゴールを目指す(ミニゴールの位置は、本来であれば味方のFWがいるであろうポジションや、奪った直後にチームとして狙う方向などを想定)。
重要なポイントとしては、スタート時の守備ライン(最終ラインと中盤の選手のライン)の高さをしっかりと設定すること。この部分は講師の人から『スタートの立ち位置、高さでトレーニングをコントロールしなさい』と繰り返し何度も強調されていた。


④基礎的実戦形式

フレームワーク・4

対人プレー+グループ戦術を伴ったものが基礎的実戦形式。ポゼッション系のトレーニングなどがこれにあたる。
このフレームの前提として、「技術的・戦術的なキーファクターが、判断を伴うプレーの中で常時フォーカスされ続けていること」という点が挙げられている。
• プレー方向(攻撃方向)は明確に定めない
• 2チーム以上の編成OK(サーバー、フリーマン、3チーム編成etc.)
• 人数設定はフレキシブルに(数的優位、数的不利)
• ポジションに依存しない
• ゴール方法やゴールの数にバリエーションを持たせる(ミニゴール、マーカーゴール、ライン突破etc.)

トレーニング例:4ゴール、5vs5+3フリーマン
青のチームはフリーマンとポゼッション(5+3vs5のポゼッション)。
赤チームはボール奪取後4つのいずれかのミニゴールにシュート。
セット毎に青チームと赤チームの役割(ポゼッションのみのチームと奪取後にミニゴールに攻撃するチーム)を変える。



⑤競合性実戦形式

フレームワーク・5(1)

フレームワーク・5(2)

いわゆる、ゲーム形式のトレーニングを指す。
• プレー方向を明確にする(ゴール方向、ライン、ゾーンetc.)
• 2チーム以上の編成OK(サーバー、フリーマン、3チーム編成etc.)
• 狙いやテーマによっては、ポジションに依存しないオーガナイズ
• ゴール方法やゴールの数にバリエーションを持たせる(基本的には通常ゴールを使用。目的に応じてミニゴール等を設置)

単純な例として、例えばその日のテーマが「サイド攻撃(クロスからの攻撃)」や「サイド攻撃に対する守備」などであった場合、図のようにサイドにサーバーを配置することでゲーム形式の中でサイド攻撃(クロス攻撃)やフィニッシュワークの回数を増やすことができる。また、2枚目の図のように8角形のグリッドの斜めの辺にサーバーを配置することで、横幅だけでなく縦方向へのプレーを強調することも可能になる。


⑥実戦的実戦形式

フレームワーク・6

こちらもゲーム形式のトレーニングだが、ほぼ「通常のサッカー」のことを意味している。
エリア分割したり、特別な制限を追加するということはせず、8vs8や11vs11のゲーム形式のオーガナイズ。
• プレー方向を明確にする
• 8vs8から11vs11の人数設定
• フルコートのサッカーの性質を保った選手の配置

人数が少ない場合はダミー等を配置して行う工夫も必要と記載されている。


以上、指導者養成で扱われた『トレーニング構築の6つのフレームワーク』について今回紹介してみた。
毎回のトレーニングでこの6つのフレームのポイント1つ1つ全てに注意を払いながら各セッションを考えて...ということまではしていないが、それでも自分自身、それぞれのフレームが有している特徴に基づいてオーガナイズを掘り下げて設定していくためのアプローチ法の1つとして役に立っていると感じるし、トレーニングに対してよりディティールを突き詰めて考えるきっかけにもなった。

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