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アート本にいくら出せますか?~『名刀大全』の場合~

豪華本の系譜

数多くある小学館の美術書籍において、「豪華本の系譜」というものがあります。
豪華本の定義は難しいのですが、ここでは「ひとつのテーマをとことん」「図版・論考ともに最新の知見で」「装丁にもこだわった」「いい値段のする」書籍とでもしましょうか・・・・・・本記事のタイトルでは、最後の「いい値段」について問いかけをさせていただきました。
書店で見かける機会もあまりないであろう美術の豪華本について、その存在だけでも知ってもらいたく、こちらの本を紹介いたします。

名刀の魅力と歴史がわかる大型作品集『名刀大全』

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1000年余りにわたる刀剣の歴史のなかから、名刀中の名刀200本を厳選、原寸を含む図版と、第一線で活躍する研究者の最新の知見による論考を掲載した『名刀大全』。2020年1月に刊行されました。(詳しくはこちら。小学館の書籍紹介ページへ)。

B4サイズの本書は、図版編と解説編の2分冊。分冊になっているのは、図版を見ながら解説を読めるようにするためです。図版編は刀剣の形に合わせて横位置で、上の写真のように原寸大で載せるために片観音開きのページもあります。
この2冊を入れるケースは、それぞれの本棚事情に合わせ横にも縦にも置けるようデザインされています。

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う~ん、かっこいい! 本棚に挿すのがもったいない。インテリアとしてこのまま置いておきたくなる(そして人に自慢したくなる)デザインです。
内容については、和樂Webでページの中身を見せながら紹介していますので、ぜひご覧ください。

破格の価格、でも発売前重版

本書の価格は35,000円+税。書店で見かけて思わず衝動買い!するような金額ではございません。それでもこの『名刀大全』、発売前に重版が決まるという嬉しい事態とりました。アイドルの写真集や有名人気作家の新作小説ならいざ知らず、高価格の刀剣本にこれほどの反響があったことは驚きをもって受けとめられ、テレビや新聞などさまざまなメディアでも紹介されました。
この記事を書いている編集Iは、本書の編集に直接関わってはいませんが、前述の和樂Webの取材に同席し、編集長のインタビューを隣で聞いていました。そこで本書が「売れた理由」のひとつに気がついたので、ここでシェアしたいと思います。

届けたい人がいる本

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『名刀大全』編集長が本書を企画するまでに、2冊の本があったといいます。1冊目は、毎号国宝を紹介するウィークリーブック『ニッポンの国宝』での、刀剣掲載号。ここで反響があったため、別冊として刀剣だけを独立させたのが2冊目の『ニッポンの国宝100 国宝刀剣 ザ・極み』。これら2冊の反響から、確実に読者がいるという手応えをつかんだそうです。
手応えが確信に変わったのは、とある展覧会。刀剣をテーマにした展覧会で、これまでの刀剣愛好家とは異なる層、名刀を擬人化したオンラインゲーム「刀剣乱舞」ファンの様子を目の当たりにしたことです。新しい刀剣ファンの方の、刀剣を見つめる真摯なまなざし、勉強熱心な姿勢や意欲の高さに感銘を受け、この人たちに向けて、これまでにない本格的な書籍を作りたいと思ったそうです。
雑誌と違い、書籍はタイトルごとに想定する読者像が異なります。ここまで具体的な読者像が定まっているのは、マーケティングでいうペルソナ設定が成功しているということですよね。そして、この人に届けたいという具体的な読者像は、編集するときの熱意にも結びつきます。

豪華本を紹介するにあたり、やはり一番驚かれるのは価格のことかな?と、値段のことにばかり言及した記事になってしまいました。今後もさまざまな書籍を紹介していきますので、内容や装丁についてはまた別の機会にじっくり紹介させて頂こうと思います。
ただひとつだけこれだけは。アート本にいくら出してもらうのかは関係なく、手に取って頂いた読者に満足してもらえるような本作りを、これからも、これまでも大切にしていこうと思います。

ちなみに『名刀大全』の価格について、Twitter上で画期的なご意見がありました。「200本載って35,000円だから1本175円と考えればお得」。その発想はありませんでした! 愛好家の方々の愛の深さには、頭が下がるばかりです。


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