「あの頃から求めている」Ⅲ.上京



…だから!

高校を卒業したら、なんとしても!
新しい場所で
新しいスタートを切るんだ!

心の奥底で日々、ただただそんな想いを
煮えたぎらせていた。

そして、あっという間に迎えた
卒業式。

前から、後ろから
ふるえた涙声で飛び交う
「連絡取り合おうの〜」
「うぢら、ずっと一緒だがらの!」

振り返ると
体育館に入る列なんて崩し放題になりながら、まもなく卒業証書を受け取るであろう女子達による、数人の輪がいくつも生まれていた。

…『泣くかよ、バーカ』
その言葉を心の奥底でボヤいたあと
ハナで笑っていた、あの時の僕。

そんなんだからお前は と
今の自分なら、思いっきりひっぱ叩きたい!
とさえ思えるほど

性悪な僕が、そこにはいた。

・・・

2003年3月下旬、東京。

前日に泊まらせてもらっていた
練馬に住む叔父さん家族と一緒に、
車で三鷹のとある市街地に向かった。

市街地、とはいっても
賑やかな駅前からそこそこに離れた
まさに郊外、といった場所である。


狭い歩道の上を
ちらほらと歩く人が行き交う…

地元高校のグラウンドと
大学病院を右側に見送ったすぐあと
狭い路地に右折、そしてまたすぐに右折

「あの建物だ」
ウインドを少し下から見上げると
そこには、二階建ての細長い
グリーン色に染まった外壁の建物が
せま苦しそうに立っていた。

「この建物の一階、真ん中の部屋から
 新しい景色に取り囲まれながら
 新しい青春を始めるんだな…」

叔父さんの車を降りて
僕は、地元の街と比べてさりげなく
でも明らかに変わった
外の空気をすぅっと吸い込んで

押し寄せるワクワク感と
なぜかしらの少しの緊張感に
身を委ねていた。

【つづく】

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