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足は速くなれる〜今のプレー速度が未来のプレー速度ではない〜

先日、『試合期におけるサッカー選手のスプリント技術トレーニングがスプリント及びジャンプ能力に及ぼす影響』という文献を読んでいたところに、


Twitterでタイムリーな河合さんの投稿を目にし、自分自身の足が遅く思い悩んだ少年時代を思い出したので、久しぶりにnoteを書いてみました。

今回の記事の内容は

− 18歳以上の選手・指導者向け−『試合期におけるサッカー選手のスプリント技術トレーニングがスプリント及びジャンプ能力に及ぼす影響』

− 18歳以下の育成年代選手・指導者向け−『サッカー育成年代の身体組成と下肢多関節動作で発揮されるパワーおよび スプリント能力の発育・発達特性』

それぞれの世代で、スプリント能力はどう伸びるのか?ということについて調べ、考えたことをまとめています。

今回の記事でお伝えしたいことは

シーズン中の大学生サッカー選手のスプリントはサッカーのトレーニングとストレングストレーニングに加えて、ジャンプトレーニングとスプリント技術指導で向上する。
育成年代の選手は16歳頃までは一般的なスプリント速度の向上が予測されるが、それ以降はスプリントに特化した指導やプライオメトリクス・ジャンプトレーニングを取り入れることで更なる向上が見込める。
指導者、環境、選手の知識によって選手の未来のプレー速度が変わる可能性がある。

この3点です。
特に②③が育成に関わる方に届いて、一人でも多くの選手の“未来のプレー速度“が向上する一助となればいいなと思いながら書き進めたので、最後まで目を通していただけるとありがたいです。

参考


サッカー選手のスプリント技術トレーニングがスプリント及びジャンプ能力に及ぼす影響

それではまず初めに、大学生のシーズン中のスプリント変化について見ていきます。

サッカー選手のパフォーマンスはボールを扱うと同時に、最大スプリント速度が重要な能力のひとつであるとされています。

現代サッカーはプレースピードが速くなり、ボールをコントロールできるスペースも時間も少なくなっています。そのことからピッチの中では相手よりも速く力を発揮して適切に速く動けるスプリント能力が重要だと言われています。

試合においてスプリントが占める割合はインプレー時間の0.5~3%程度のわずかな割合ですが、スプリントの速度が直接的に得点や失点、つまり試合結果に影響するため、重要な能力だということがイメージできると思います。

『プレミアリーグの上位チームは下位チーム よりも試合中の高速度(14km / h 以上と 19km / h 以上) の移動距離が多いことが指摘されていることや、(Rampinini et al., 2007a) JFAフィジカルガイドラインにおいても、世界トップ 10 を目指すとしてスプリントテストが重要視されている』と述べられていることからも、スプリントが現代のサッカーにおいて重要性が見て取れます。

文献の中では
『スプリント能力が筋力およびジャンプ能力との関連性が強いこと(Delecluse, 1997;有賀,2002;Sleiver and Taingahue, 2004;Wisloff et al., 2004)や、球技系競技者を対象にして、筋力トレーニングおよびジャンプトレーニング によってスプリント能力が改善された報告(Delecluse et al., 1995;Kotzamandis et al., 2005)があり、試合期においてサッカー競技者のパフォーマンスを維持向上するために、筋力トレーニング、ジャンプおよびスプリントトレーニングの組み合わせが重要であるとされている(Bangsbo, 1992)。』と述べられています。

一方で、『個人の長年の運動学習に影響を受けていることや、ただ単にストレングスやジャンプトレーニングを行うだけではスプリントを改善することは難しい』と言われています。『スプリント動作は、長年にわたって学習され自動化され、個々のさまざまな運動に影響を受けている可能性があり(阿江ら,1989)、球技競技者には、特有のスプリント技術が存在している(岩壁ら,1995)。またスプリント能力を高めるには、固有のスキルが要求されるため(Mayhew et al., 1989;Chu,1996;Kotzamandis et al., 2005)、筋力トレーニングおよびジャンプトレーニングでもスプリント固有の技術と結び付けなければ、スプリント技術を改善することは難しいと考えられる。』とも述べられており、多少複雑に見えてきますが、逆を言えばスプリント固有の技術とジャンプトレーニング、筋力トレーニングを結びつけること、それを更にサッカーと結びつければサッカーにおけるスプリント能力の向上は可能だと考えることができる訳です。

そこで研究されたのが、今回の記事で参考にしている『試合期におけるサッカー選手のスプリント技術トレーニングがスプリント及びジャンプ能力に及ぼす影響』という題の研究で、トレーニングの違いによるスプリント能力の変化の違いを明らかにするというものです。

この研究では、「リーグ戦を戦う中でのサッカートレーニングとシンプルなストレングストレーニング、端的なスプリント技術指導のみではリーグ戦実施の9週間の間では、ジャンプ能力は何ら変化はなかったと述べており、スプリントに関しては能力が低下していた」と報告されていました。(文献の中のST群)

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スプリントの技術的指導としては
「しっかり地面を蹴る」
「手足を早く動かす」
といった、シンプルすぎるものでした。

一方で、サッカーのトレーニングにプラスして、ジャンプトレーニングやスプリント技術指導をST群よりも詳細に行われた群では、方向転換走タイムと3SLJが改善されたり、スプリントタイムが向上したとの結果が出ています。

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JT群のスプリント技術指導
「短い時間で大きな力を」
「支持期にお膝関節を曲げない」

MT群のスプリント技術指導
「短い時間で大きな力を」
「身体の真下近くでの脚操作する」
「遊脚の早期引き戻し,股関節挟み込む」
「支持期に膝関節を曲げない」

ここで行われているようなジャンプトレーニングは、足の剛性が高まり、接地時間が短くなることで、ストライドが伸びると言われています。

今回の研究報告は、「サッカーとシンプルなストレングストレーニングのみでなく、ジャンプや具体的なスプリント技術指導を行うことで、スプリント・ジャンプ能力を向上させることができる」と示されています。

要するに適切なプロセスを踏むことでスプリント能力は向上するということがわかります。

さらに今よりも上を目指す選手は、スプリントについて“知る“こと、スプリント能力を“高めるれることを知ること“は自分のサッカー人生を変えるポイントであり、一つの手段だと言えそうです。

ここまでは大学サッカー選手を対象にされた研究で、
①サッカーとストレングストレーニングに追加して、ジャンプトレーニングとスプリント技術指導を用いることでスプリント能力が向上することを示した
ということをお伝えしました。

育成年代のスプリント能力の発育・発達特性

ここからは、特に育成年代に関わる指導者や選手向けの内容になっていきます。

『サッカー育成年代の身体組成と下肢多関節動作で発揮されるパワーおよび スプリント能力の発育・発達特性』から育成年代のスプリント能力について見ていきます。

平成20年度体力・運動能力調査(文部科学省 2009)によると、「小学校3 から中 3 にかけての男子の50 m 走タイムは、学年ごとに約0.4秒ずつの向上が見られているという報告があるその一方で、50 m 走タイムの向上は中 3 以降において急速に頭打ちになり、中 3 から高 3 にかけては7.53秒から7.35秒へとその向上は 3 年間で0.18秒のみであった」と記されています。
ここからは、一般的にスプリント能力の発達はおおよそ15歳頃に完成すると理解できます。

それでは15歳以上はスプリント能力は伸びないのかと疑問に思う選手もいるかもしれませんが、そういうわけではありません。

サッカー育成年代選手におけるトレーニングの指針 14 歳から18歳までの増加率は、身長ではサッカー選手が 7.7%(同世代の一般人男子は3.4%)、平均走速度ではサッカー選手が8.7%(同世代の一般人男子は4.1%)であったのに対し、下肢筋出力においては、脚伸展パワーが 87.8%(同世代の一般人男子は35.1%)、跳躍高は35.3%(同世代の一般人男子は11.6%)であったと言われています。

14 歳以降のサッカー選手のトレーニングによって伸び率が期待されるのは

− 脚伸展パワー
− 跳躍高のような筋力
− 筋パワーの発揮能力

これらにおいて年齢が増すにつれて大きくなると記されています。

14歳以降定期的にサッカーのトレーニングを継続することは、下肢多関節動作で発揮されるパワーや、スプリント能力においても発達を促進する可能性があることが示唆されており、「思春期スパート期にさしかかる13〜15歳(ポストゴールデンエイジ)以降の指導現場におけるトレーニングでは、脚筋力を高めるような指導を取り入れていくことで、ボールキック動作やジャンプといったサッカーの専門的能力である下肢筋出力をより発達させることができる」と提言されています。

また、ポストゴールデンエイジ以降において、脚筋力を発達させる指導方法を取り入れていくことで、一般的に増加率が低いとされるスプリント能力も向上させる可能性があるとも言われています。

特にスプリント能力は「14歳以降、他の項目と比較して低い増加率を示されており、5〜8歳(プレ・ゴールデンエイジ)や5〜12歳(ゴールデンエイジ)においてはスプリント能力向上のために、特にピッチあるいはストライドの増加に主眼をおく指導を取り入れることが大切である」と考えられています。

これらの文献の中では中 3 以降においてスプリント能力をさらに向上させるには、それに特化したトレーニングが必要ということが指摘されていますし、そのことによって思春期以降においても同世代の一般人男子よりスプリント能力の増加率は高くなる可能性があるとまとめられています。

要するに、適切な時期に適切なトレーニングができていればスプリント能力は高めることができるということでしょう。

ここまでが文献の内容の僕なりのまとめです。


適切なトレーニングの選択で足は速くなることができる


この先が僕が今回の記事で一番お伝えしたいことで、③指導者、環境、選手の知識によって選手の未来のプレー速度が変わる可能性があるということです。

これまでスプリントのことについて述べてきましたが、実際の育成の現場ではどうでしょうか?
もちろん適切なトレーニングがJクラブの下部組織などいい環境のクラブチームなどでは受けられているかもしれません。

少なくとも10数年前の僕は足が早くなるなんてことは具体的に教わっておらず、ラダーをやれば速くなるといった程度だった気がします。

それから時は経ち様々な研究がなされ、トレーニングの有効性も示されてきています。

簡単に“足が遅いレッテル“を貼ってしまってはいないでしょうか?

貼っているつもりはなくても、指導者の無意識の言葉によって、選手が自分でそうレッテルを貼ってしまっている可能性もあります。

10数年前の僕がそうでした。
純粋に小学6年の選抜の50m走のタイムは9.3秒で合格者のなかでダントツのビリだったと思います。小学6年男子の平均的なタイムが8.2〜9.4秒なのでまあ普通といったところですが、このタイムで選抜のみんなとの差を叩きつけられ、その当時かなり悔しさと恥ずかしさがあったことを覚えており、その頃から走ることへのネガティブな意識が芽生えたと思います。

足が遅いという事実を認識することは“自分““選手“を変える為には必要なことだと思います。ただ、『自分は足が遅いんだ』とずっとそれを思い込んでしまった状態、思い込ませてしまっているままでは問題があると今の僕は思っています。

足が遅いからそれを補うための術を考えさせる、身につけさせることは大切だと思います。しかし、それと同じくらい、場合によってはそれ以上に、足は速くなれるんだと希望を持たせる、足は速くなれるんだと体感してもらうことはもっと重要なことなのではないかと思うわけです。

幼い頃に受けた指導者の無意識な発言によってメンタルブロックがかかり、本来先々に獲得できるかもしれなかったスプリント能力を手にできなくなる可能性も否めません。

現時点の現象を“認識させて解決の糸口を示す声かけ“か“批判・指摘だけ“とでは
圧倒的に前者の指導者と出会いたいと僕は思いますし、僕は常に可能性を見出せる人間でありたいと思います。

身体的な成長速度の兼ね合いで育成年代で身体能力の差は間違いなく出てくると思いますが、そこで、将来伸びるであろう要素、選手の伸び代に蓋をしてしまわないことは大切だと思います。

「指導者からの足が遅いレッテル」「自分自身で貼ってしまった足が遅いレッテル」「誰かがかけたメンタルブロック」が将来の「プレースピード」を遅くしてしまっている部分もあるのではないでしょうか。

今のプレー速度も大切ですが、そのスピードは成長とともに変わります。

『足は速くなります』

自分で貼った、誰かに貼られた“足が遅いレッテル“なんて剥ぎ取ってしまえばいい。

足速くなる途中の人間なんで』と。

その為には、速くなれるということを知ること。
そしてその方法を知ること。
知ったあとは、実行すること。
ただ、知らなければ実行することはできないと思います。

僕みたいに、いつまでも貼った負のレッテルを信じ込んでいると、そのレッテルに甘んじて変わろうとしない、足なんか早くなれないとネガティブな方向に捉えてしまい、振り返った時に後悔することになるかもしれません。

今のサッカーのスピードがそのまま未来のスピードになるわけではありません。

大事なことだからもう一度

『足は速くなれる』

そしてきっともっとサッカーが楽しくなる。

ただ、足が速いことは自分のプレーをより広げるための手段のひとつ。

走ることに囚われて、サッカーを楽しむことを忘れないように。

ただ、足が速くて損することはないでしょう。


15年前の僕に言いたい。
〜I want to tell myself 10 years ago〜


『足は速くなれる』と。
〜You can become more fast〜



最後までお読みいただきありがとうございました。
今回は今現在、足が遅くて悩んでいたり、もっと速くなりたいけど本当に速くなれるのか?と疑問を持っている育成年代に関わる方々に、『足は速くなれます』といったことを主に伝えたいと思い書き始めました。

そのため、スプリント能力向上に対してどんなトレーニングをしたら足が速くなるかといった具体的な話はできていません。

少し難しくなってしまいましたが高校生ならば自分で読める記事にしようと書いてきました。

是非一人でも多くのスプリントにネガティブなイメージを抱えている選手のもと、未来の選手を育てる指導者の方々や保護者の方々に届くといいなと思っています。

最後に、これからのスプリントの伸び代に希望を抱く選手が一人でも増え、未来のプレー速度が向上していくとを思い描いています。




 


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