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カーブミラーはなぜ曇るのか(1) ”結露予知センサー開発”

この話は、現在(2019年)も続いている開発ストーリーの始まりです。

概要
 1993年の何月だったか忘れましたが、当時務めていた会社へあるカーブミラーメーカーの営業マンが来ました。目的は、結露と霜が付かないカーブミラーを開発できないかとのことです。そのときすでに対策した製品は3種類ありました。

・蓄熱材内蔵タイプ
・ヒーター内蔵タイプ
・光触媒を塗布したタイプ

1.放射冷却とは何ぞや
 放射冷却とは高い温度を持った物から低い温度を持った物へエネルギーが移動する現象です。エネルギーは赤外線として移動します。電気ストーブの前に来ると暖かさを感じると思います。これは電気ストーブから赤外線が自分の方へ飛んできているからです。逆に氷柱の横に立つと目をつぶっていてもヒンヤリすると思います。これは自分から氷柱へ赤外線が飛んでいったのです。このようにエネルギーを同じにしようとする現象があります。
太陽から地球へもエネルギーは届いています。日中気温が上がるのはこのためです。夜間は、熱を持った地球が宇宙空間へ熱を赤外線として放射してしまいます。宇宙空間は物質が無いので温度もありません。絶対零度なのです。摂氏でいうとマイナス273℃です。それと地表の温度が30℃ほどあれば約300℃の温度差がありエネルギーが移動するのです。これが放射冷却です。放射冷却は日中も起こっているのですが太陽から届く熱の方が大きいため冷えるイメージは無いと思います。しかし、太陽光を遮って日陰にすれば放射冷却のみ利用することができます。

2.各方式の特徴

 ・蓄熱材内蔵タイプ
カーブミラー内部に蓄熱材が入っており、日中の気温で蓄熱材が温められ夜間の放射冷却による冷えによる結露と霜を予防します。欠点は、日中と夜間の気温が逆転したとき蓄熱材入りのカーブミラーだけ結露することです。また、重量があり設置工事が大変です。

 ・ヒーター内蔵タイプ
これは夜間のみ商用電源でカーブミラー裏面のヒーターに通電する方式です。効果は確実でJRなどで採用されています。しかし、道路など商用電源を引けないところでは設置不可能です。また商用電力線を引く必要があり毎月の電気代の支払いも発生します。

 ・光触媒を塗布したタイプ
これはTOTOの特許を使った製品らしいです。積水樹脂が製品化しました。当初、カーブミラーの結露予防のアイディアに興味を持っていたのですが光触媒方式を採用しました。
これは、結露しても水滴にならず、薄い水の膜になるため鏡として機能します。しかし、霜になった場合は像が写りません。残念50点です。

この3種類はどれも対処療法のため欠点ができていまいます。これを根本的に解決するには、放射冷却を理解する必要があると思いました。

3.上向きが冷える

 毎日、夕方から外へ出て放射冷却現象を見ていました。道路に立っているカーブミラーがいつ曇るのかを見ていたのです。そうすると面白い現象に気がつきました。自動車の屋根やボンネットが先に結露しドアなど垂直の物は遅れて結露するのです。また下向きの面は結露しません。カーブミラーのひさしの下も結露しません。この現象を見て結露という物が上から降りてきているのかも知れないと考えました。霜が降りるという表現からも上から降りてくるのかと思いました。しかし、雨のように降ってくるのかと思ってみても何も降りてきません。
 それで気がついたのですが、空は冷たく地面は暖かいのです。ですから、地面の方向へは赤外線は放射されず冷えないのです。空の方は冷たいため赤外線は放射され冷えるのです。
 ということは上向きの面が冷えやすく斜めや垂直の面は遅れて冷えるということになります。カーブミラーは、ほぼ垂直です。そこでカーブミラーが結露する前に検知してミラー裏面のヒーターに通電することはできないかと思ったのです。


4.結露予知センサー

 水平面が早く結露し垂直面が遅れて結露する現象に気がついたため垂直面が結露する直前に結露を予知するセンサーをつくれないか考えていました。答えは簡単でした。斜めの面が結露したときそれより遅れて結露する垂直なカーブミラーを加熱すれば良いのです。具体的にはカーブミラーの裏面に貼ったヒーターに通電するのです。そのとき斜めの面の裏面にもヒーターを貼りこの面の結露が取れたときカーブミラー裏面のヒーターへの通電も止めれば良いのです。そして実験用センサーを試作することにしました。

5.結露予知センサーの試作と実験

記号の説明
 11:カーブミラー
 11a:ヒーター
 21:斜めの鏡
 21a:ヒーター
 22:結露検出用赤外線LED

 ブロック図はこうなります。太陽電池が発電した電力をバッテリーに蓄え夜になると制御回路が働きます。制御回路はセンサー部である斜めに設置した鏡の結露を赤外線により監視しています。そして斜めの鏡が結露したときカーブミラーとセンサーの鏡の裏面に貼ったヒーターに通電します。センサーの鏡の結露が取れた時点でヒーターへの通電を止めます。こうすれば結露寸前にカーブミラーの温度を少し上げることができ結露を予防することができるはずです。

 ここで予想される問題があります。雨が降ってセンサー部の鏡に水滴が付いたときを結露と区別できません。そこで雨と結露を区別する工夫が必要になりました。雨が降っているときはヒーターへの通電は必要ないからです。

そこでセンサーを2つ以上設置してすべてが結露と検出したときを結露と判断することにしました。形状は下記のようになりました。

 このように受光部を2箇所とすることで鏡の2点の結露を監視することができます。この数は、3点でも4点でもかまいません。結露するときは、すべての箇所が同時に結露します。水滴は流れ落ちるのですべてのセンサーの検出部分に水滴が留まる可能性はとても低いと思います。また検出したとしても一瞬で水滴は流れ落ちるのでヒーターへの通電まで一定時間(数秒)連続して結露と判断してから通電すれば誤動作は防げるでしょう。この赤外線LEDと受光素子はテレビなどのリモコン用を使いました。ですから可視光ではありません。

6.屋外での実験 

 そして屋外で実験したところ一晩1分のヒーターへの通電が5回ありました。合計で5分の通電で結露を予防できました。気温の変化をグラフで見ると気温が急激に下がったときにヒーターに通電していました。気温が下がると相対湿度が上がり露点も上がり気温近くになります。これで目標通り小電力でカーブミラーの結露は防ぐことができました。次に製品化を検討します。

7.特許出願

 テーマを持ってきたカーブミラーメーカーと特許を共同出願することになりました。そして出願した特許が、”特願平06-091229”です。費用は折半で負担しました。


8.実用化検討

 次に実用化の検討に入りました。まず、道路標識としては10年間メンテナンスフリーで動作しなければなりません。バッテリーの方は制御をうまくやれば何とかなると思いました。しかし、結露予知センサーのミラー部が汚れた場合誤検出になることから製品化は断念した。通常の汚れであれば雨で洗い流され問題ないと思うのですが落ち葉や砂埃などが付着すると常時結露と判断してしまいバッテリー容量をすぐに使い切ってしまいます。


9.結論

 カーブミラーメーカーと共同出願したがこの方式での製品化は断念した。繊細な光学センサーなどを使う方式は無理があると思いました。もっと根本的な対策が必要と思います。さらに放射冷却を研究する必要があります。

ありがとうございます。起業以来、下請けと工賃仕事をせず自分で考えたものを世に出して生きてきました。その経験をノンフィクションとして書いています。