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スカウトあがりの怖い話

こころがないように思える人はあんがい身近にいるもので、むかし働いていた会社の、クライアントにそういうタイプの人がいた。「その人」はAV事務所の社長で、私はその事務所に所属するAV女優のブログの管理をしていた。

「その人」は、おそらく30歳になるかならないかという年の頃で、スカウトあがりだなという雰囲気だった。当時、私が働いていた会社は、アダルトサイトをメインで制作・管理していたこともあり、すでに現役を引退したホストやスカウトと接する機会が多かったため、なんとなくホストあがりとスカウトあがりの区別がついたし、それはだいたい間違っていなかった。

ホストあがりはわりと柔和な顔の人が多く、どこかしら色気が漂っていたりしていたものだが、スカウトあがりは険のある顔をしていて、色気はまったくなかった。色恋をかけたりして仕事をするホストと、基本的には仕事に色恋を持ち出さないスカウトの違いなんだろうなと思っていた。

「その人」は、事務の女の子と、夫婦漫才のような掛け合いなんかもしていた。声が大きく、押しが強い。しかし、明るくてどことなく頼れるように思える。よく笑う。がさつで口が悪いが、からっとしている。ペットのフレンチブルドッグを溺愛しつつも、「犬飼ってると女が寄ってくるから便利」と身も蓋もないことを言う。プライベートでは関わりたくないが、仕事の相手としてはやりやすいタイプだと思った。

ある日、デビュー直前のAV女優が打ち合わせにやってきた。宣材写真はとてもかわいいのだが、実物はあきらかに二重の整形手術を失敗していた。今思えば、もしかしたらダウンタイム中だったのかもしれないが。

派手な格好をしているわりにはどんよりとした雰囲気で、声も小さく、コミュニケーションがうまくとれない。大丈夫かなと思っていたら、案の定、彼女のブログには「さみしい」「もうだめかも」というような内容のものばかりがアップされた。それでも撮影はしたようで、バスローブ姿の写真なんかもアップされた。痛々しかった。

しばらくして、彼女のブログの更新がぷつりと途絶えた。もともと頻繁な更新ではなかったが、明らかに休みすぎだった。そして上司から、彼女のブログを削除するよう言われた。上司は削除理由を言わなかった。私は、親バレかな、と思った。

そして、「その人」がやってきた。「その人」は、いつものテンションで、笑いながら私に言った。

「ブログ削除してくれた? おーありがと。あいつ首吊りやがった! 首が引っ張られてビローンって伸びてたんだってよ。だっせえ。まじウケる」

なにかきっかけがないかぎり、他人のぞっとするような顔を見ることはない。知らずに済むならそれに越したことはないが、一度知ってしまうと二度ともとには戻れない。巻き込まれて痛い目を見るのはいつも弱い者だ。

※この文章は、2010年にブログに書いたものの転載です。


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