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なくしたくないもの 第3話

見学1回目

公民館のようなところで、小学生高学年から高校生のお姉さんたち(女しかいなかった)が練習していた。驚いたことに、指導者的な先生はいなかった。「準指導員」という資格を持っている人を中心に、「教えられる人」が教えている感じたった。

私とお姉ちゃんは暖かい眼差しでその中に迎えられた。

「太鼓の見学に来た、朋花ちゃんと燿ちゃんです。それぞれ小学5年生と3年生だよ、じゃあ、恵美ちゃんが2人に基本練習教えてあげて」

と、その中でいわゆる「準指導員」の資格を持ったちょい偉めの人が私たちを紹介した。

「はいっ」

と、恵美と呼ばれた人が笑顔で返事をして、私たち2人に会釈をした。

そのあとは、全体で準備体操をした。隣にいた人に手ほどきを受けながら、何とかそれを終えると、次は基本練習らしく、私たちはまだ出来ないので見学。

それらが一通り終わってやっと恵美と呼ばれていた人に教えて貰えることになった。

まだ太鼓を買っていなかったので、予備の青いパーランクと呼ばれる太鼓を貸してもらった。バチも腕の長さに合わせたものを選んでもらって、バチの持ち方から指導された。

「左手でバチの一番下を握って、その上を右手で握る。そこがバチを握る位置だよ。そして、左手を離す。おーけい?」

優しい表情と声で恵美さんは教えてくれた。

「はい」

私とお姉ちゃんが、返事をする。それを聞いた恵美さんは、ニッコリして、次に進んだ。

「太鼓は腰の位置、バチ先を肩につけて、肘を肩の高さにして三角形を作って。足は肩幅だよ」

私とお姉ちゃんは言われた通りにした。恵美さんが、形を整えてくれた。2人の形が綺麗になると満足気に、

「うん、いい感じ。それが基本の構えだよ。次は叩き方ね……」

褒めながら、私たちの飲み込みに合わせて、ゆっくりと丁寧に恵美さんは教えてくれた。おかげてその日の練習のたった数時間だけで、だいぶ基本をみにつけることが出来た。

私たちが基本を練習している間中、側では何やらカッコイイ踊りをほかのメンバーは練習していた。それを見て思ったんだ、

あの中に入りたい

早くかっこいい曲をマスターしたい

興味本位でしか無かったのに、太鼓というものに確実に惹かれている自分にびっくりした。

もう、太鼓に入る気満々になっていた。

でも、この時の私はまだ知らなかった。

この先、私が何度も涙を流すことになるなんて

知る由もなかった

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