見出し画像

生きたい場所

ここ最近、ひとりぼっちのときは寝てばかりだ。
漠然とした不安と向き合えなくて、YouTubeを無心で見続ける。
本を読んでいない。美術館にも行っていない。渋谷中を駆け回って手に入れたたまごっちは、3日で天使になってしまった。

こころが凋落してゆく。息継ぎをしないまま泳いで何かを探している。苦しい。息を呑む景色とか、おいしいごはんとか、可愛い猫とか、好きな人の綺麗な横顔とか、満たされているはずなのに、見るものは全部灰色で空々たる日々だ。

世界は花々で彩られていて、羽衣ジャスミンの雨ににじんだ甘美な香り、寂しい路地に咲き誇るカスタードクリーム色の木香薔薇。
思わず微睡んでしまう暖かな日溜まりも、冬の気配が残る柔らかい夜風も、すべてがやさしくて、おだやかで、どこか孤独で。

私は、春のように素直でないし、器用に、上手に、丁寧に生きることはできない。

でも、私には、自分の心音を愛して、大切な人たちの隣で"しあわせだね"って言える場所が在る。
どこかに辿り着こうと足掻く必要などなくて、生きたい場所で生きていいよと、季節がこそっと教えてくれた。

桜を見に行きたいねと言っているうちに、いつのまにか現れた紫陽花。”いつまでも春というわけにはいかないぞ”と控えめに背中を押してくれている。

大きく息を吸って、ぎゅっと背筋を伸ばした。
大切な人に会いに行く、あたたかな春の日のこと。



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?