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いつか美しい翅になりますように

閉じた蛹の中のようなこの部屋がとても好きで、部屋に一つしかない大きな窓は、夜と朝の間に聳え立つスカイツリーを独り占めできる。生きる喜びに満たされた、眩しい部屋。

法定労働時間の四倍もの時間を仕事に費やして帰宅した日、全てを投げて溶けるように眠った。

目が醒めると深夜三時で、スカイツリーはまだ紅色に輝いていた。二時間後には仕事に行くからお風呂に入ってお弁当を、と思い布団から出ると、キッチンにはご飯が詰まったお弁当、机の上にはコンセントに刺したままで放置されたドライヤーがあった。
どうやら、帰宅した私はお風呂に入ってお弁当を作ってくれたらしい。不気味なことに、お弁当を作ったことも、お風呂に入ったことも全く記憶が無い。


「芋虫に負けた。」 


と思った。蛹の中の芋虫は、身体を一度クリーム状に溶かしてから羽化する。それでも、羽を得た蝶は芋虫の頃の記憶を持っているという。私は芋虫よりも記憶や神経システムが欠損しているようだ。
私が芋虫だったら、この蛹の中の心地よさに羽化することを忘れて、ドロドロに溶けたまま終わってしまうのだろうな。

まだ皓々と月が照る中、散らかったままの蛹から出て仕事に行く。寒さと朧げな記憶に震えながら。
一番恐ろしいのは、三十時間も働くことができるこの会社であるのだけれど。

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