「君が何を言っているかわからない」と笑われたアイデアがインターネットを変えた | Geolocation Technology 山本敬介社長インタビュー
国内唯一の技術「IP Geolocation」で世界を相手に戦う三島のIT企業、株式会社Geolocation Technology。
インターネットサービスを根本から変えた同社の技術は、みなさんも必ず一度は目にしたことのある〝あのサービス〟に深く関係していました。
Geolocation Technologyの勢いはとどまることを知らず、2020年12月に東京証券取引所 TOKYO PRO Market へ、さらに2021年9月には福岡証券取引所Q-Boardへ上場を果たし、最近では警察庁へのデータベース等の提供を通じ全国のサイバー犯罪抑止にも貢献しています。
静岡みんなの広報は、Geolocation Technologyの企業理念や行動指針に込められた想いや山本社長の驚きの経歴について伺いました。
知らず知らずにお世話になっている技術
スマホやパソコンなどの機器がお互いに通信するための番号を「IPアドレス」といいます。「コンピュータ同士がインターネット上でやり取りするための住所」くらいに覚えてもらえれば結構です。
IPアドレスをマーケティング、広告、セキュリティなど、インターネット上の様々なサービスに活用するのが当社の主な仕事です。この技術を用いたサービスを提供しているのは国内で当社だけです。
たとえば、どのような使われ方をしているか。実際に利用していただいている航空会社のWEBサイトを例にお話しします。
航空会社のWEBサイトに東京からアクセスすると羽田空港が自動的に選択されます。しかし、これが静岡からのアクセスだと富士山静岡空港が出てくるようになっています。
同じように、アクセスが大阪からだったら関西空港、沖縄からだったら那覇空港というふうに、その人の現在地から一番近い空港情報をぱっと出してあげられるわけです。
このように、IPアドレスから位置情報を取得することで、アクセスした場所によってホームページに表示される情報を変えることができるんですね。
地域別に表示するバナー広告を変えることも可能です。バナー広告とは、クリックするとサービスの専用サイトに繋がる画像や動画の広告です。みなさんが普段目にするほとんどのバナー広告の裏側には僕たちがいます。
Geolocation Technologyの技術は、知らず知らずのうちほぼすべての国民が触れているんです。
しかし、今でこそ当たり前になっている当社の技術ですが、日の目を見るまでは長い時間がかかりました。
苦しい体験から生まれた企業理念
当社の企業理念や行動指針は過去にあった苦しい出来事や事件を元につくられています。会社の歴史が詰まっていると言っても過言ではありません。
まず企業理念、〈Geolocation Technologyは、独自の技術とノウハウを開発し、地域社会にとって価値のある新しいインターネットサービスを提供します〉についてお話しします。
ここには僕が会社をつくろうと思ったときの感情や記憶が反映されています。起業のきっかけは、地方でのインターネットの使いづらさに気づいたことでした。
会社を設立する前、僕はインターネットプロバイダの会社に勤めていました。そこでお客様から、「静岡県民とそれ以外の地域の人たちが自分たちのWEBサイトのどこのページをよく見ているかを知りたい」とご要望をいただきました。
WEBサイトのどの情報がどの地域に住む人に見られているのかがわかれば、それに応じて掲載内容を改善し、より効果的なプロモーションをおこなうことができます。しかし、当時は閲覧者のアクセス場所を知る術がなく実現できませんでした。
また過去のインターネットでは、静岡市の情報を検索しようとすると日本地図の中から静岡県を選んで、静岡県の中から静岡市を選んで……みたいに、何度もステップを踏む必要がありました。面倒ですよね。これもなんとかしたかった。
そういった不自由をいっぺんに解消できる方法がないかと模索したところ、IPアドレスから位置情報を特定するアイデアにたどり着きました。
その頃のインターネットサービスプロバイダのネットワークは、IPアドレスを電話番号の市外局番単位で管理していました。静岡市だと054、三島市だと055とかですね。
つまり、全国のプロバイダの市外局番と位置情報を統合してデータベースに落とし込めれば、利用者がアクセスした位置を特定できるのではないかと考えました。これが起業のきっかけです。
企業理念にある〈独自の技術とノウハウ〉とは「IPアドレスから位置情報を特定する手段」であり、これを用いて地域社会の課題を解決していくのが当社の役割だと考えています。
IPアドレスのアイデアを思いついた当初は、「これで一攫千金だ!」みたいな邪な考えもなかったとは言えません(笑)。いわゆるビジネスモデル特許を取れれば、業界で大成功できるという風潮がありましたから。
ただ、自分がやらなければ地方のインターネットは不便なままなんじゃないか、という思いも同時に強く感じていました。ここで僕が放り出したら、困る人がたくさんいるかもしれないって。
今だから冷静に振り返って考えられますが、結局のところアイデアを思いついてしまったからなんです。「技術的に可能なんだから思いついた自分がやらなくては!」という使命感に突き動かされていました。
しかし、IPアドレスのアイデアで起業を決意したまではよかったのですが、ここからが本当に大変でした。
相手にされなかったアイデア
IPアドレスのアイデアを話しても、有識者の方々にまったく相手にしてもらえませんでした。「君が何を言っているかわからない」なんて言われたこともあります。
理由は明確で、IPアドレスはとてつもなく数が多いんです。「それをすべて調べてデータベース化するなんて到底無理だよ」と、はなから取り合ってもらえなかった。時間も予算もどれだけかかるかわからないし、そもそも実現できるのかさえ怪しい事業に投資はできないんです。
薄々は理解はしていましたけど、頭ごなしに否定されたら、負けず嫌いの僕は「ぜったいにできるまで続けてやる!」と逆に燃えてしまいました。
アイデアを受け入れてもらえずに悔しい思いをした記憶は、最初の行動指針〈私たちは、社員一人ひとりの閃きを大切にし、情熱をもってその具現化に取り組み、新たな価値の創造に挑戦し続けます〉に反映されています。
社員の閃いたアイデアはどんな小さなものでも否定することなく、情熱を持って実現してやろうという強い決意を表す一文です。
地域のインフルエンサーに
次に行動指針の二つ目〈私たちは、私たちの挑戦を通じて地域に刺激をあたえ、地域社会の活性化に貢献します〉についてです。
当社はいわゆるITの会社で、ITのメッカといえば渋谷です。この20年間で、「渋谷に本社を移転しないんですか」と何度聞かれたことでしょう。
ただ僕は起業前から静岡一筋でした。地元静岡を盛り上げたいという想いがずっと僕の中で渦巻いていました。想いの発端はサラリーマン時代に感じた不満です。
当時、僕はインターネットプロバイダの営業を担当しており、静岡県内を回りながら経営者の方々とお話しをしていました。
そのうちに気づいたのですが、良い製品や良い技術を持っているのに、「東京の大手企業と取引してやろう!」だとか「世界で勝負してやろう!」といった、情熱のある企業が静岡にはあまりありませんでした。
せっかく良いものを持っていて広い視野で戦えるはずなのに、経営者にその意識がないのはすごくショックでした。
だから、自分でやってみせようと思いました。静岡からでも東京や世界の大企業を相手に戦えるんだぞって。まずは自分たちで挑戦をして、それを見た地元企業に刺激を与えたかった。
「地域のインフルエンサーになる」と言い換えられるかもしれません。実際、当社が株式上場できたことで、周囲の企業に刺激を与えられたのではないかと感じています。「あそこができるならうちもやるぞ!」と、対抗意識を燃やしてくれるんです。周囲の期待をひしひしと感じ、地域を背負っているようなプレッシャーがあります。
「Geolocation Technologyのようにやるぞ」でも「Geolocation Technologyのようにはやらないぞ」でも、考え方は何でもいいんですよ。当社の挑戦を何かの指標として使ってもらえたら幸いです。
地域貢献はボランティア活動だけじゃない
地元に株式公開した会社がないとマイルストーンがないと言いますか、中間目標をどこに定めればいいのかわからない。だから各々のゴールへの足がかりに当社の歩んできた軌跡を使ってもらいたいんです。
当社をマイルストーンとして成功した企業がさらに地域を活性化させる——そんなプラスの循環を生み出すことも地域貢献のひとつだと考えています。
地域貢献といえば、ゴミ拾いのようなボランティア活動もありますが、当社はそちらとはまた違ったアプローチでの地域貢献を目指しています。地域の人々の意識やモチベーションを奮い立たせるようなポジションになりたいんです。
目に見えやすい地域貢献としては、子ども向けのプログラミング教室の依頼をいただいたり、テレワークの導入事例として取材を受けたりもしました。
また一方で警察とのお付き合いもできました。当社は警察官に「捜査機関向けの研修プログラム」を提供することで、警察官のサイバーセキュリティーや犯罪に対する教育を行ったり、IP Geolocation のデータベースの提供により、サイバー犯罪捜査にも貢献しています。
このような形で会社の認知度が上がると、「地元にもこんな会社があったのか!」とインパクトを与えることができるじゃないですか。それでまたプラスの循環が加速されて、地元の企業がちょっとでも活性化されると素敵だなと思っています。
失敗から生まれた行動指針
少し脱線しましたが、三つ目、四つ目の行動指針についてです。
この二つは、先に紹介したものとちょっと性質が異なります。ずばり、戒めとして機能しています。
意味を逆さまに読み替えるとわかりやすいと思います。たとえば、三つ目
を逆転させると、
という、ひどいことになりますね。誰もが「こんな商売ありえない!」と憤慨するでしょう。
また行動指針の四つ目も、逆さまにするとわかりやすいはずです。
同じ商品をA社には定価で売り、B社には50%引きで売っているみたいな営業事例がこれに当てはまります。意外なことに、世間ではよくある話なんです。フェアじゃないですよね。
そんな粗悪な商売をしない、決して真似しないという戒めの意味も込めて、三つ目四つ目の行動指針は生まれました。
行動指針は起業時はまだ、形になっていませんでした。創業が2000年で、これができたのは2006年です。創業から六年の間にあった痛い出来事を反映して生まれた指針なんです。
Geolocation Technologyの掟
当社には就業規則の上位概念として「掟」があります。掟もまた、過去に起きた出来事から生まれています。僕がつくったのは二つだけで、残りは社員たちがつくりました。
掟は従業員全員が痛い思いをしないための予防線として存在しています。やっぱり社員が傷ついているのは見たくないですから。
たとえばわかりやすいところで言うと、〈喧嘩両成敗〉という掟。
争いごとには必ず理由があります。きちんと両者の間に立ってそれぞれを理解し、対処することが必要だと考えています。ハラスメント系のトラブルも、これを強く意識していれば未然に防ぐことも可能だと思います。
こういった、誰もが感じている暗黙の了解を目に見える形にすることに意義があると感じます。こまめに言葉にして強く意識付けしています。
理念にせよ掟にせよ、過去の出来事を教訓とするのが当社の特徴かもしれません。
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