“愚直にコツコツ”がもたらした勝利 | Geolocation Technology 山本敬介社長インタビュー
今回お話を伺ったのは国内で唯一の技術を持つIT企業、株式会社Geolocation Technologyの山本敬介社長です。
同社はどのようにして生き残り、成長してきたのでしょうか。また、リモートワークを導入したことで社内にどのような変化があったのでしょうか。
▼前の記事はこちら▼
消えていった競合他社
じつはこの20年間で、IPアドレスのデータベース化に取り組んでいたのは当社だけではありません。もちろん競合もいました。
相手に先を越されないか、いつも不安でドキドキしていました。でも、社長が弱気だと社員も不安になっちゃいますから、それを社員に悟られないよう冷静を装っていました。
今だから笑える話ですが、プレッシャーがすごかった(笑)。「他社が新しい技術を開発してるらしい」って噂を聞くたびにドキドキしていましたね。
そういった競合も、いつの間にかいなくなっていました。
開発費が底をついたのか、割に合わないと思ってやめたのかは、わかりません。僕らはただ愚直にコツコツやっていただけです。何か特別なことをやったわけではないんです。
そうしてようやく形になった技術の、一番最初のお客さんはアメリカの企業でした。今は超大手企業に買収されて会社としてはなくなってしまいましたが、当時、インターネット広告業界の巨人として知られていたダブルクリック(Double Click, Inc)です。
ダブルクリックはすでに、アメリカでIPアドレスを使ったインターネット広告の地域ターゲティングを実装していました。そこが日本でも同じような事業を展開したいとなり、白羽の矢が立ったのが当社でした。すでにニーズがあったので、向こうの要望に合わせる形でプレゼンをしたら即決となりました。
後に「あのダブルクリックが採用した技術!」という情報が広まって、日本国内の広告配信ベンチャーたちが続々と契約してくれました。このようにしてIPアドレス事業が軌道に乗ったのです。
門前払いされた資金調達
技術開発のための資金はベンチャーキャピタルから調達しました。
ベンチャーキャピタルとは、新規事業にも積極的に資金を出してくれる投資会社のことです。その頃はまだベンチャーキャピタルを利用する企業は少なかったように思います。
銀行からの融資も考えました。ところが門前払いなんです。IPアドレスのアイデアは技術的にも新しかったし、まだ会社すらなかったので当然と言えば当然です。
他に資金を得る仕組みがないか調べたところ、ベンチャーキャピタルという投資会社があること、さらにその前段階でエンジェル投資家と呼ばれる個人投資家がいることを知りました。
静岡にも最近いくつかベンチャーキャピタルができましたが、当時は頼りにできる方が本当に少なかった。エンジェル投資家は静岡にも何人かいましたが、ベンチャーキャピタルとなると東京に行くしか選択肢はありませんでした。
ちょうどその時期、エンジェル投資家に向けて自分のビジネスアイデアを発表できる機会に恵まれました。すると幸運にも、IPアドレス事業に興味を持ってくれるエンジェル投資家が数人現れたんです。
大きなお金が動くので慎重に、一人ひとりとしっかり面談したり、投資家たちのコミュニティの話を聞くことで大きな事故なく切り抜けることができました。
支援してくださるエンジェル投資家のおかげで、会社としての枠組みができあがりました。事業を進めるうえでさらなる資金も必要になりましたが、その方々の助言により、ベンチャーキャピタルから融資を受けることもできました。
タイミングにも恵まれました。「ドットコム・バブル」とか「インターネット・バブル」などと言われるIT業界の全盛期に滑り込むことができ、サイバーエージェントのような大手が躍進して業界が盛り上がっていた時期の影響を運良く受けられたんです。
ベンチャーキャピタルは、交渉過程からいろいろと手伝ってくれるんですよ。「出資するからには額に見合うような準備をさせよう」ということなんでしょう。何か事業を起こそうと思ったら早めに接触してアドバイスをもらってもいいかもしれません。
いち早くリモートワークを導入
最近はコロナの関係で働き方が一変しましたね。当社もオフィスワークからフルリモートワークとなりました。
静岡県内ではかなり早い段階でリモートワークを導入したのではないかと思います。働き方が変わって喜んでいる社員もたくさんいます。何を隠そう、私もその一人です(笑)
元々ビルのワンフロアすべてをオフィスとして開いて、社員40人くらいで賑やかに仕事をしていましたが、これを機にオフィスのサイズを半分にしました。
特別なことがないかぎり自宅勤務がベースとなりました。東京のオフィスも解約しましたし、大阪と福岡と那覇も徐々に縮小しています。おかげでとてもコストダウンできました。
当社が働き方を変えられたのは、コロナが流行る前から社内の仕組みのほとんどをクラウド化してあったからです。準備にかかったのも二週間くらい。経営陣の決定も早く、あっという間でした。僕なんかは片道小一時間の通勤がなくなり、私生活が充実しています。
リモートによる会議や商談が浸透してきたことで、移動時間そのものが激減しました。思い返すと僕や営業担当は、一週間のうち丸一日分くらいは移動に時間を使っていました。これが削減できるので、ものすごい効率化です。
リモート化によって採用にも変化がありました。フルリモート前提で働いてもらう社員が増えた関係で、人材のバリエーションが一気に広がりました。
静岡県外からも積極的に採用をおこなうようになりましたね。
最近活躍してもらっているIR(インベスター・リレーションズ)やデータサイエンティストなどの職種は、県内で採用するのは難しかったでしょう。
社長って、年々覚えなければいけない科目が増えていくと言われているんですよね。でも、すべての科目で100点満点を取るのは難しいから、自分の近くにその科目が得意な人を置いていくのが常套手段なんです。
コロナ禍で全国から従業員を集められるようになった今だからこそ、ビジネスを拡大するチャンスなんじゃないかと考えています。当社はこれからも、専門的な知識やスキルを持った人材を全国からどんどん採用していくつもりです。
一方で、直接会ってコミュニケーションを取ることの重要性も改めて感じています。今後はオフラインとオンラインを上手に組み合わせた働き方も検討していきたいですね。
地域に根付いたサービスを
これからもGeolocation Technologyは企業理念に沿って、地域社会に役に立つサービスをリリースしていきたいと考えています。
最近リリースしたのは「てくてくスタンプ」というスタンプラリーのサービスです。
このサービスはダウンロード不要で、ブラウザから参加できるのでアプリより気軽にスタンプラリーに参加できるようになります。また、スタンプラリーを開催する事業者は、参加者の利用状況や景品の管理までできるようになっています。
てくてくスタンプはGPSの位置情報を使うんですけど、地方における位置情報は高いポテンシャルを持っているように感じます。このような地方ならではの特色を活かしたサービスをを今後も積極的に開発していきたいですね。
地域に根付いた活動としては、学生と企業をつなぐ「シヅクリPROJECT」にも関わらせてもらっています。
静岡市内の高校生を対象にアンケートを取ったところ、静岡に本社のある会社の名前を一社も出せなかった生徒が半数を超えたそうです。
大学進学で県外に行った若者が静岡に戻ってこない理由は、ここにあるように感じました。だからまず、中学生や高校生に地元の会社を知ってもらうことが大切だと思ったんです。
そこで一般社団法人シヅクリがおこなっている、中学生、高校生向けキャリア授業をお手伝いさせていただくことになりました。
僕らが担当している中学生たちは7、8年後に就職するタイミングがやってきます。彼ら彼女らが当社のことを覚えていて、かつITの業界に入りたいと思ったとき、就職希望の会社リストにGeolocation Technologyの名前を付け加えてくれたら嬉しいですね。
採用面接に来た学生さんが「シヅクリPROJECTで興味を持ちました」と言ってくれる日が、いつかやってくるかもしれません。
■インタビューをご希望の方へ
取り上げてほしいステキな会社や取り組みがございましたら、下記の推薦フォームやTwitterのDMからご連絡ください。
一緒に静岡を盛り上げましょう! サポートしてくださったら嬉しいです!