ある少女の日記
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泣きたい時は、押入れの中で泣いていた。
そこでなら、泣き声が外に漏れることがないから。
泣きたい時は、旧校舎のトイレの中で泣いていた。
そこには、誰も入って来ないから。
泣きたい時は、シャワーを浴びながら泣いていた。
そうすれば、泣き声も涙もすべて流してしまえるから。
誰かの前で泣くことはゆるされなかった。
そんな姿を晒したら、誰も彼も離れていくと言い聞かされていたから。
だから、
寂しい時も苦しい時も悪意を向けられた時も実家がめちゃくちゃになった時もバイト先で倒れた時も男の人に殴られた時も、私は泣かなかった。
大丈夫なふりをした。
大丈夫と笑っていれば、皆離れていかないはずだから。
大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫、
私は大丈夫だから、大丈夫だから。
でも、うまくいかなかった。
ある日、大丈夫なふりができなくなってしまって
つい、人の前で泣いてしまった。
そうしたら、やっぱり、だめだった。
大丈夫じゃない私には、価値がないのだと、
強く、強く、思ってしまった。
どうしたらいいか分からなかった。
救われたかった。それだけだったのに。
ここで泣いていいよ、と言ってくれる人が、場所が、ずっとほしかった。
私はいつまでも、そこに辿り着けない。
大丈夫じゃなくなってしまった時、これから一人で、どうしたらいいの。
涙が止まらないからシャワーをいつまでも止められない。かさむ水道代と腫れる両瞼。
誰か私を、
――大丈夫。
大丈夫じゃない私を、
――元気だよ。
どうか、
――あなたは元気?
見つけてください。ゆるしてください。
少しでいいから、
そばで泣かせてください。
あとはもう、何も望まないのに。
それだけだったのに。
押入れの中ではもう泣きたくないの。
暗い所も狭い所も、
本当はすごく怖いの。
誰か。
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私はこの少女の日記を詩にしたいのだけれど、
少しの純度も損なうことなく、歌にしたいのだけれど。
PM22:58
眠れない夜のための詩を、そっとつくります。