病院の待合室
「これはね、刺しても病気がよくならない注射のあと」
病院の待合室で、小さな男の子が看護師さんに話しかけていた。
細い腕に散らばった無数の注射の跡が、少し離れた私の所からも色鮮やかに見えた。
「そんなことないよ、きっと良くなるよ」
若い看護師さんは、泣いているような笑顔で男の子の頭を撫でた。
「うそつくのはだめなんだよ」
男の子は無邪気に笑いながら、小さな足をぱたぱたさせていた。その隣で母親らしき女性は、夕暮れのように穏やかな微笑みを浮かべていた。
身体が弱い私は、幼い頃から病院に行くことが多かった。
だからこんな光景は、何度も見てきた。
でも、まだ慣れない。
祈りながら、泣き崩れそうになる。
同じ病室だったあの子がまだ生きているのか、私は知らない。元気になったら外で遊ぼうねと言ってくれたお姉さんがいまどこにいるのか、私は知らない。
生きていてほしい。
元気でいてほしい。
私のことなんて忘れていてほしい。
死にたいと思いながら生き延びてしまった、私のことなんて。
「番号1120の方」
呼ばれて私は立ち上がる。
すると少年はまっすぐな瞳で私を見、明るい声で言った。
「お姉ちゃん、お大事にね」
眠れない夜のための詩を、そっとつくります。