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モルゲンロート

#一度は行きたいあの場所
 多くの場合は、例えば月に行きたいとか、宇宙のどこかに想いを馳せる人が多い時代なんだと思う。
僕はどうか?と問われたら、もう一度行きたい場所もたくさんあるが、一度は行きたいとなると、選択肢は無限大に広がって行く。

 それはまだ登った事のない山の頂であれば尚更で、今年こそ登ってみたかった富士山であったり、僕の人生ではおそらく確実に不可能であろう、エベレストなどの神々の山々もあるだろう。
だが、それでは僕も面白くはなく、ならば何故行ってないのだろう?と、自分でも思う行ける可能性の高い場所を考えてみた。

 そこで真っ先に想い浮かんだのは、涸沢カールである。
穂高連峰にあるその場所はあまりに美しく、行くのなら紅葉の時期が良い。
生涯1度で良いからその時期にそこに向かい、山小屋のテント場に陣取り、朝を迎えてみたいのだ。

 モルゲンロートと呼ばれる景色、現象がある。

 夜が明けきらない朝に、太陽が少しずつ夜をその光で染めあげる。最初は漆黒の夜色であった空が紫色になり、寒々とした空気を暖め、光によって色を取り戻す山々の肌を見つめる。

 そして徐々に真っ赤に朝焼けに染まり行く山々、紅葉で真っ赤に染まった葉を抱えた木々が、その色を思い出したかのようにその生命の最後の色を爆発させる。
  ドイツ語が語源のこの言葉や、その写真や映像でしかみた事のない景色は僕の心を捉えて離さない。
普段はオートバイや車が好きな僕ではあるが、その場所には自分の足で行かなければならない。

 産まれた頃からずっと僕に備わるその両脚の力で、歩き続け、重い荷物を背負い、その場所へと歩みを進める。
 登山などそうそうしたことはない僕の脚では、かなりの時間がかかるだろうし、けして甘いものではない。
この国にも、そして世界にもそうした素晴らしいまだ見ぬ景色の数々があり、その絶景を見るには天候の運もあったり、季節の違いもあったり、訓練が場所によっては必須だったりもする。
 
 そもそも人の人生だって同じ事ではないか?
と、時折おもうこともある。
確実にお手軽に誰もが見れる景色など、実は苦労なく手に入る人生の何かと似てはいないか?
金で買えるものもあるだろうし、それなりに頑張ればどうにかなる物もあるだろう。
 苦労などは様々で、それぞれで、それがその人にとってはエベレストの山頂の場合もあったり、穂高にある涸沢ヒュッテで見るモルゲンロートの場合もある。
 そう、今の自分の生命を出し切り、絞り切れる場所はそのステージによって異なるのだから。

 僕はいつかとか、そのうちという言葉とか、夢とかいう言葉よりも、今はその為にここまで準備が出来た、という自分でいたいのだが、おそらくは頑張れば行ける涸沢に行く準備は何もしていない。
 明日から歩く距離を増やしてみようか?
 1人用の軽く小さなテントを買おうか?
 街にある1番長い階段を毎日登ってみようか?
それらを繰り返すうちに、行きたいという願いも強くなって行くだろう。
今年は新型コロナの影響で、多くの場所は入れない。
それなら、1年という時間をかけて準備するのもいいだろう。

 あの写真でみた景色を見たいという想いを抱きながら。

#涸沢 #穂高 #山 #登山  

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