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過去7000件のプロジェクトを分析してわかったクラウドファンディング勝利の法則

本記事についてご質問・ご意見などありましたら、こちらからお願いします。

はじめに

クラウドファンディングを使って資金を調達し、新しいものづくりを実現する人が増えてきています。

キングコングの西野さんが絵本づくりで5,000万近い支援金を集めたことは記憶に新しいですし、ロングヒットした映画「この世界の片隅に」はクラウドファンディングで資金調達し、公開が実現したといいます。プロジェクトの中にはなんと1億円以上の支援金を調達しているものもあり、クラウドファンディングで実現できないことはないんじゃないかと思うような勢いです。

個人的にはとても良い仕組みだと思いますし、更にこの動きが活発になればいいと願いますが「お金を集める」のはやはり簡単ではないでしょう。成功しているプロジェクトの陰で、話題にもならず失敗しているものも相当数あるようです。

すると、次のような疑問が湧きます。

成功するプロジェクトと失敗するプロジェクトの違いは何か?

もしここで黄金の成功法則を見つけ出せれば、もうウハウハですよね。1億円ゲットできるよって話ですよ。ZOZOの前澤社長から100万円のお年玉もらわなくたって、自分の夢が実現できるわけですよ。

そこで今回は「どうすればクラウドファンディングで成功できるのか?」というテーマで、定量データの探索により導き出せる最適解は無いかを検討してみたいと思います。

前提条件

今回の調査にあたり、データを参考にしたのはこちら。

クラウドファンディング - CAMPFIRE (キャンプファイヤー)

日本のクラウドファンディングのパイオニア的存在ですね。こちらで過去公開された約7000件のプロジェクトから、一般公開されている下記のデータを調査しました。

タイトル名
キャプション
カテゴリ名
ユーザー名
支援金額
目標金額
支援者数
報告レポート数
リターン金額
リターン個数

これらを分析して、クラウドファンディング成功法則を探求します。分析にあたり、以下2点を前提としています。

1、あくまで定量的な観点から仮説を出す
最初にこれを言ってしまうと身も蓋もないですが、プロジェクトが成功するかどうかはプロジェクトの内容次第、つまり定性的な要因が大きく、そこから成功法則を導き出すのは非常に困難だと予測されます。また、仮の何かの示唆が導き出せたとしても、そこに再現性がある保証はありません。しかしそれだとそこで話が終わってしまうので、今回はあくまで定量データに基づき、統計的に法則性を導き出すアプローチを採用します。

2、成功の基準は「目標金額を支援金額が上回る」こと
CAMPFIREの中にも仕組みがいろいろあるようですが、今回の成功定義としては、わかりやすく上記を採用します。

成功するプロジェクト・失敗するプロジェクトの違い

それでは分析スタートです。
まずは過去プロジェクトで成功したものと失敗したものの割合をみてみました。

なんといきなり衝撃の事実が明らかになってしまいました。成功するプロジェクトと失敗するプロジェクトの割合はほぼ半々。わずかではありますが失敗する確率の方が高いという結果が出ました。1億円への夢が一気に遠のいた感じがします。

成功したプロジェクトと失敗プロジェクトの差をもう少し詳しく比較してみます。下図は1プロジェクトあたりの各要素の平均値です。

パトロン(支援者)数と支援金額にはかなりの格差が見られました。一方でリターンまわりについてはあまり差がありませんでした。

ここで注目したいのは「目標金額」です。この項目のみ失敗プロジェクトが成功プロジェクトを明らかに上回っています。ここをもう少し深掘りしてみます。

目標金額、支援金額、支援者数を箱ひげ図にして分散度合いをみてみると、明らかに差異が確認されました。成功するプロジェクトは失敗するプロジェクトに比べ、目標金額が約50万円ほど低い傾向にあることがわかりました。

カテゴリ別分析

続いて、カテゴリによる差異を確認します。達成率を含む5つの項目で比較してみます。(値は平均値です)

ここでも興味深いことがわかりました。カテゴリによって様々な傾向の違いがあり、達成率においては達成しやすいものと達成しにくいものが存在するようです。

具体的に言うと「アニメ・漫画」「音楽」は達成しやすく「まちづくり・地域活性化」「チャレンジ」はかなり達成難易度が高そうです。

プロジェクト数にも着目します。
「音楽」はプロジェクト数が圧倒的に最多であるにもかかわらず、高い達成率を維持しています。市場としてかなり活発であり、狙い目のカテゴリだと言えそうです。
一方で「フード・飲食店」は同じようにプロジェクト数は多いけれども、達成率は芳しくありません。競争相手が多い割にお金も稼ぎにくいという、効率の悪いカテゴリである可能性があります。

他に目を引くのは「ビジネス・起業」です。達成率が35%とかなり低いですが、目標金額が断トツに高いです。これは自分でハードルを上げすぎて失敗している例が多いということだと考えられます。

相関を探る

達成率と目標金額には負の相関がありそうなことがわかってきましたが、他の要素とは何か関連性はあるのでしょうか。

抽出した要素をクロスで回帰分析にかけてみましたが、肝心の達成率についてはそこまで強い相関関係のある要素は見いだせませんでした。

念の為、カテゴリ別でも確認してみます。

表が長すぎて非常に把握しづらい感じになってしまいましたが、カテゴリで分割してみても達成率の向上に有効そうな要素は見つかりませんでした。さすがに、そんな単純な話ではないということですね。1億円への道はなかなか遠いようです。

熱量の高いカテゴリはどこか

先ほどの分析では目立った成果はありませんでしたが、カテゴリによってその特徴は結構変わるようなので、ここに注目してみることにします。より盛り上がりやすい(お金を集めやすい)カテゴリはどこかを調べてみます。

ここでは、支援金額と支援者数の合計をプロットしました。こうみると「音楽」が図抜けて盛り上がっていることがわかります。ほかはお団子状態ですが、左下の隅にあるカテゴリは全然盛り上がっていない死にカテゴリとも言えそうですね。この3つは「パフォーマンス」「お笑い」「ビューティー」です。

ちなみにこの散布図のマルの大きさは「パトロン一人あたりの平均支援金額」を表現しているのですが、いまいち違いがわかりません。別の方法で視覚化します。

ツリーマップを用い、マスの大きさをパトロン数、色の濃淡を一人あたりの平均支援金額の多寡で表しています。だいぶわかりやすくなりました。

「テクノロジー・ガジェット」「アニメ・漫画」「ゲーム・サービス開発」はパトロン数も多く、一人あたりの支援金額も16,000円以上で、熱量の高いユーザーが支援者側に多く集まっているカテゴリであることがわかりました。確かに、いかにも熱狂的なファンが多くいそうなジャンルです。

一方、金額面でのワースト1位は「書籍・雑誌出版」でした。まあ書籍に関しては大概のものが製品化しようと思えばできますし、ネット見ればどっかに欲しい情報があることが多いですからね・・・

熱狂を生むプロジェクト

カテゴリの熱狂についてはなんとなくわかったので、次はプロジェクト単体で考えてみます。Campfireでは支援金額の高い順でランキングを見ることができますが、それだけだと情報がやや不十分なので、いくつか項目を追加して比較してみます。

支援金額が多いプロジェクト上位20を抽出しました。すごい金額です。20位のプロジェクトでさえ、2,000万円以上のお金が集まっています。

上位プロジェクトだけ見ると、カテゴリに目立った偏りは感じられません。ほか、目につく数値としては

ランク1位「OVERDRIVE」のレポート回数(活動報告数)
ランク5位「えんとつの町のプペル」の支援者数
ランク13位「渋谷 BOOK LAB TOKYO」の一人あたりサポート金額

このあたりが突出していますね。1位のプロジェクトが最も活動報告数が多いというのは興味深い事実です。クラウドファンディングで成果を出していく上では、ユーザーとの共犯関係を成立させる必要があります。そのために積極的に情報を発信し、ストーリーを共有しながらプロジェクトを進めていくという方法は有効かもしれません。

ちなみにこのグラフ上では表現していませんが、成功したプロジェクトにおいて一人あたりのサポート金額の平均値は「12,643円」でした。あくまで平均ですが、まあまあいいお値段ですが、1万円で誰かの夢が応援できると考えると、むしろ安いかも。

さて、ここで例として取り上げたプロジェクトは歴代のTOP20ですが、全体でみるとどれくらいお金が集まっているのでしょうか。全プロジェクトを対象に、支援金額と支援者数を散布図でプロットします。

うまくいってそうなプロジェクトがそれなりにあるものの、大半は左下のエリア=支援金額も支援者数も少ない箇所に集中しています。

クラスタリングもしてみましょう。

4クラスタにわけてみましたが、まあまあ収まりがいいですね。歴史に残るようなエース級のプロジェクトは4件あり、30件ほどの優良事例が次いで並ぶ。ほかは有象無象、みたいな感じですかね。リアルな数値感です・・・

熱狂を生む・・・が、失敗するプロジェクト

「一人あたりサポート金額」が高ければ、そのプロジェクトは熱量が高いユーザーがいるということでしょう。しかし、そこに着目すると次のようなことが見えてきました。

このランキングは、一人あたりサポート金額の上位20プロジェクトです。一番高いプロジェクトは、なんと60万円!です。

しかし残念なことに、1位のプロジェクトは失敗に終わっています。それどころか、失敗しているプロジェクトがかなり多いのがわかります。

パトロン数と並べることで一目瞭然ですが、失敗しているプロジェクトは支援者数をうまく集められていないようです。このことから、クラウドファンディングにおいては支援者ひとりひとりの熱量の深さよりも「そこそこの熱量の人がたくさんいること」の方が重要なのではないかという仮説が立てられそうです。

挑戦者分析

ここで少し視点を変えて、プロジェクトの立案者にフォーカスしてみます。

これは「立ち上げたプロジェクト数」の多い人ランキング上位20人です。多い人ではなんと20を超えるプロジェクトを立ち上げています。すごいですね。

面白いのは「何回やっても勝てる人」と「何回やっても負ける人」がわりとはっきり分かれていることです。
GANMA_JPNさんなどは20戦近くやっているのに、いまだ無敗です。まさにチャンピオン。
一方でmisojinさんは、12戦全敗です。倒れても倒れても果敢に挑戦し続けるその精神は称賛に値しますが、ひょっとしたら課題設定が根本的に間違っているのかもしれません。なにはともあれ、がんばってほしいです。

立ち上げプロジェクト数とその達成率を挑戦者毎にプロットもしてみましたが、特に相関も無さそうです。やればやるほど経験値も溜まっていき成功率も上がりそうなものですが、そうとも言い切れないようです。

タイトル分析

最後に、プロジェクト名(タイトル)についても触れてみます。成功したプロジェクトに絞り、どんなキーワードがプロジェクト名に多く使われているか抽出してみました。

頻出名詞

頻出共起語

「プロジェクト」という単語が最も良く出てくるのはまあ当然として、制作関連の単語が非常に目立ちますね。クラウドファンディングの場合、イベントであったりチャレンジであったり、プロダクト以外のお題も多くあると思いますが、やはり資金を集めやすいのは「何かをつくる」というわかりやすいテーマでやっているものかもしれません。リターンも設計しやすそうですし。

頻出名詞でもう少し言うと「応援」「初」「世界」などがランクインしているあたりに、なにかヒントがありそうです。「世界初の●●を応援!」などとしてみると、ひとつストーリーができあがります。そういったストーリーづくりがパトロン集めに重要、という仮説も持てそうです。共起語でいうと「周年ー記念」などは、わかりやすいストーリー(きっかけ)ですね。

まとめ/勝利の法則とは何か?

ここまでみてきたことで、成果に結びつけられそうなものをまとめます。

・目標金額は高く設定しすぎない。過去成功プロジェクトの目標金額平均は76万円。
・カテゴリには勝ちやすいところとそうでないところがある。「音楽」は成功確率が高い。
・「アニメ・漫画」「テクノロジー・ガジェット」「ゲーム・サービス開発」は支援者ひとりあたりの支援金額が高い。
・本当に大金を集めたかったら、活動報告の回数を多くするといいことあるかも。
・支援者ひとりひとりの熱量の深さよりも「そこそこの熱量の人がたくさんいること」の方が重要。
・成功しているプロジェクトには、ものづくり/制作系のものが多い。
・プロジェクトには、支援者にわかりやすいストーリーが必要。「応援」「初」「世界」「周年ー記念」などのキーワードは成功プロジェクトの頻出名詞。

統計的な観測だけでも、なかなか色々なことがわかりました。

冒頭にも書いた通り、最終的にプロジェクトが成功するかどうかはプロジェクトの内容次第であり、これをやれば勝てるという黄金法則はおそらく存在しないでしょう。しかし「負けにくくする」方法論は固めていけそうな気もします。

また、今回はあくまでCAMPFIREのデータだけを参考にしていますが、世の中には他にも多くのクラウドファンディングサービスがあります。そのあたりも含めるとまた違った傾向が出る可能性はあります。サービスによって勝ちやすいカテゴリは違うなどはありそうですね。

ということで、長文ご清聴ありがとうございました。
今回の調査は私が勝手にやって勝手に推測しているだけなので、CAMPFIRE社は一切関係ありません。

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