【描写遊び#2】夜の街をゆく

夕飯を買いに、アパートを出る。

徒歩で5分ほどの所にあるコンビニに向かった。大した仕事もしないままパソコンの前で一日が終わり、やりきった開放感のないまま、とぼとぼと夜の街を歩いた。

雨があがったばかりだった。
生き生きとした草木の香りはどこかに流れてしまい、無色透明な匂いが漂っていた。先日までの茹だりそうな熱が嘘のように、空気がひやりと澄んでいた。私の気持ちを置き去りにして、季節は着実に移ろいつつあった。古びた空き家の茂みから、虫の鳴く声が聴こえた。
瞬間、実家のベッドに横たわる幼い自分の姿が、頭のなかに浮かんだ。実家は北陸の田舎にあり、家のすぐ横には田んぼが広がっていた。夏にはカエルの合唱が、秋にはコオロギやらスズムシやらの音色が空に響いた。うちにはエアコンもなかったので、開け放した窓から吹く風と共にその音を聴いた。覚えているとも思わなかった記憶がよぎり、なんだか不思議な気持ちになった。両親は元気にしているだろうかと、禄に連絡もしない親不孝な娘は思った。

冷たい風が、私の意識を現実に戻した。
外燈を見つめながら、眩しく光るコンビニの明かりを目指して、秋の空気のなかを進んだ。

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