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2020.01 沖縄たび ーシークワーサーおじさんー

今朝、自宅で目を覚まして思い浮かんだ画は、

壺屋やちむん通りの路地に咲いていた、パキッとした青色のスミレの花だった。


昨日、3泊4日の冬の沖縄の旅から帰ってきたばかりで、その「ワンシーン」は、まだ夢の続きのようだった。それから現実に戻り、あぁ、今回もいい旅だったな、という気持ちをグッと噛みしめた。

そのストーリーを記したい。


昨日はチェックアウトと同時に荷物を預かってもらい、15時のフライトまで何しようかなと思いながら身軽に町に出た。

先日、何気なく訪れた「久高民藝店」で私の好き!を発見した。そのやちむんのデザインが島袋常秀さんの作品であることを知り、その方のことを少し調べ、「やちむん」の陶芸家さんについて新しく知ったばかりだったこともあり、もう少しそれに触れたいと思っていた。なので、前回の旅で初めて訪れて気に入った壺屋エリアに向かい、作陶風景を見学できる工房なんかを訪れてみようかなと、この通りやっぱり好きだな〜と思いながら歩いていたのが、10時半を過ぎた頃だった。

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とあるお店を出て、なんて綺麗な花なんだろうとじっくり見ていると、同じく(?)フラフラしていた「おんちゃん」(オジさんのカジュアルな言い方)が

「綺麗ですね、これがブーケンビリアっていうんですよ」

と、どこからともなく話しかけてきてくれた。実はピンクのは葉で、花はコレです、と手元をしっかりと見せてくれて、「そうだったんですか!」と純粋に驚いた。

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「それでは、パパイヤ見たことありますか」と聞かれ、近い記憶になかったのと同時に、冬の季節感とは程遠いワードだったので「うーん、ないかも!」と答えると、

「じゃあ、パパイヤの木に向かいながら、いろんな花を教えます😉」と、その日の1時間強のおんちゃんと私の壺屋案内デートがなんともおもむろに始まったのだった。笑

沖縄の軒先やお店の前、路地や街路には常緑の木々とカラフルな花がいつもどこかに咲いていて、北陸出身の私にとっては冬の「白黒」の世界は本当に沖縄のどこにもないのだろうかと、まだ信じられていない部分もあった。冬の沖縄の光景は、やっぱりカラフルで緑も活き活きしているのか!というのが自分の目で見た確かな驚きだった。

そんな多種多様の木々や花々が数メートル間隔で次々と現れるものだから、1つずつ、でも流れるように沖縄方言でどんどん説明していくおんちゃんと、「…えっ?何ですって??」と聞き取れないがために聞き返す私(笑)。私の方も私で、返す言葉が北陸訛りに傾いていく(少し福井弁のイントネーションと似ている)。緑の葉をおもむろにちぎり、パキッと真ん中を折って、私に匂わせる。「あっ!」と言うと同時に「これはシークワーサーの葉です、いい匂いでしょ」と教えてくれる。レモングラスの葉の香りも気持ちがスッとした。本物の香りだ。壁を蔦うのは、小さなゴーヤの花やアメリカアサガオという、知っているアサガオとは少し形の違う紫色の花。形の違う薔薇やコスモスも見せてくれた。自生しているのか植えられているのか境界が分からないままに、約30種類くらい名前を聞いた気がする。首里城周辺の城壁の秘密や、瓦屋根の作り方や、石畳の歴史、水苔の話、混合種の植物をそれぞれ見せてくれるおんちゃんの後ろをひたすらついてまわった。話を聴きながら、左右キョロキョロしていると、突然立ち止まり、足元のコンクリートと琉球石灰岩の壁の隙間から湧き出るように咲いていた花を指差した。「これはスミレです。」と聞いて思わず、「えっ、こんなところに…?」と声が漏れると、「これが、沖縄なんです。」と自然な言葉が発せられた。その言葉が即座に頭の中で反芻された。

「これが、沖縄なんです。」

それが冒頭の画だった。


早咲きなのかは分からないが、今にも開きそうなピンクの蕾を一つつけた木を指差した。「桜です。沖縄では、南からではなく、北から桜が咲くんです。」また思わず、「えっ、なんで??」と聞くと、「それは、知りません」とバッサリ。笑 こんなに物知りなのに、と思いその温度差に笑みがこぼれた。

(帰ってからちゃんとその不思議な理由を探せました。)

でも、きっと「これが沖縄なんです。」というのがすべての答えでいいのだろう。


知り合いのオジちゃんとすれ違いざまに、「おう!」という声と何か一言二言交わし合う。みんな知り合いなんだね、と思ったら「いつも、おう!と声をかけるだけで、名前は全然知りません。」と笑わせてくれる。名前なんてなくても顔見てるから分かるんだ。

「今日なにしてたの?」と歩きながら聞いてみると、「いつもそこでコーヒー飲んでる。朝うちを出たら、もうずっとブラブラしてる。マグロと同じさ〜。ずっと出かけて帰らない。」とまた笑いながら言ってくるが、それはリアクションに困る。

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それから約束通り、ほとんど緑だがいくつか黄色のパパイヤの実がなっている背の高い木のところにも連れて行ってくれた。あまりに高いので、「どうやって取るの?アニメみたいに古いパパイヤ投げるのか?」と冗談で聞くと、笑いながら早口の沖縄弁で冗談を返してくれてるんだろうが、なんせ聞き取れない。でも木を揺さぶるようなジェスチャーが何となく分かって笑いあった。

「ほな、ポインセチア見たことあるか?」と立て続けに聞いてきた。クリスマスの花?と季節を遡り、「花屋さんでしか見たことないかも」と答えると、「ほな着いてきて」と方向転換。ポインセチアが木なのか、花壇にあるのか、そしてこの20度越えの空気感とミスマッチで何一つピンときていない。(そのとき、フワリと夏休み中の登校日に吹いていた風と同じ匂いがした)

地元の人しか歩かないような細い路地に迷い込み、まるでおんちゃんの家に向かうような感覚で、誰か様の広いお庭に来た。畑のような広い場所に花々がきれいに植えられ、周りにもたくさんの木々が生い茂っている。その奥に真っ赤な花をたくさんつけた木があった。一瞬理解出来なかったのは、想像とは全く違ったからかもしれない。それがポインセチアだ、と教えてくれたのと同時に、そこにいた軽トラから降りてきた別のオジさんにも話しかけていた。「ポインセチアやらパパイヤやらコスモスやら桜が咲いてるのを見て、むちゃくちゃや、って言ってる」と笑いながら私のことを話していた。それを聞いたオジさんもニコニコしていた。そして「…頭を空っぽにせなあかん。」と、おんちゃんは前を向いたままボソっと言った。少し暑さを感じ始めた、お昼近い時間(蝉の鳴き声も聴こえそうだ)に、また同じ言葉が頭の中で反芻された。

「頭を空っぽにせなあかん。」


もっといろんな場所を見せようという素振りを感じたので、もうモノレールに乗って今日帰らないと行けないことを告げる。「何時じゃ?」とすぐに牧志駅に向かいながら案内するコースを思い描いてくれたようだ。その前に、シークワーサーの葉を持って帰れ、と来た道を少し戻って、私にはどれがそれなのか見分けがつかない中、何枚か葉をちぎり、「帰ってから、折ってこするといい匂いがするから」と手渡してくれた。「めちゃくちゃイイお土産です、ありがと!」とお礼を言った。

そんなおんちゃんは、1時間強の案内をするだけでなく、時折「ほら携帯貸せ」と言って、ガジュマルの木や色とりどりのハイビスカス、井戸などと私を写真におさめてくれた。最初はちょっと気恥ずかしい気持ちもあったけど、優しさでしかないその気持ちを素直に受け取った。

牧志駅に着く手前で、最近は2ヶ月に一度ほど沖縄に来ていることも伝えた。「違う、っていうことと、分からないっていうところがいつも面白いんです、沖縄は。だから、またここ通るから、おんちゃんもまたプラプラしといてね!楽しかった、ありがとー!」と伝えると、「シークワーサーおじさん、またいるでな」と右手だけ挙げて横断歩道を渡って行った。私はエスカレーターからその後ろ姿をチラリと振り返った。


おんちゃんの名前は知らないけれど、多分あの服と後ろ姿で声をかけられる自信はある。なんだろう。別にここが日本で、でもそういうユニークな旅が出来た嬉しさとかじゃないんだ。海外でのひとり旅では、わりとそういうこと(知らない人に話しかけられて、数時間を過ごす)は起こりやすいし、結構出くわして面白い時間ってあったけど、今はそれと比較したいのではない。

それって、そこにそのおんちゃんがいて、風のように声をかけてくれて、同じ時間を横並びで過ごして、また風のように別れる。スッと吹いた風のようでしかない。何を得ようとすることもなくとても自然に、でも心地よくて肩の力が抜けるようだった。なんかカッコいいなと思い、ステキな時間だったなと、シークワーサーの葉を折り曲げて嗅いだ今朝、すごく思ったんだ。また今日もあの通りを歩いているのかな、って。


おんちゃんのおかけで工房見学を先送りにできたので、その時また。

「シークワーサー」の香りで思い出せる、私にとっての素敵な時間をくれてありがとう。


静水庭🌿




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