紫鶴 -Shizu-

すみません。 諸事情により「闇黒の猫」を削除させていただきます。読んでくださった方、ス…

紫鶴 -Shizu-

すみません。 諸事情により「闇黒の猫」を削除させていただきます。読んでくださった方、スキしてくださった方ありがとうございました。noteを退会することも考えています。よろしくおねがいします。

最近の記事

枝豆の匂いがしたから 【小説】

地面に倒れてなお空をめざすユリ、 耳の裏に響く蝉のこえ、 青いキャンバスに重なった雲の油絵。 静かにうなる扇風機、 不規則に揺れる洗濯機。 枝豆のにおい 「今日はそうめんかな」 湯気の立つ、円柱型の銅鍋を見つめる。 夏の終わり、もしくは晩夏の初め。 聴き慣れない平成のポップスが遠くで流れてる。 数ヶ月前に会ったきれいな女の子のことを思い出した。 華奢なんていう豪華な文字では足りないほど、細くて、か弱くて、それでいて狡猾そうなひと。 記憶のうわずみをすくい取って持ち去

    • 初夏の酔  第5話−朝駆−

       僕を呼ぶ声がして、淡い光の中うっすらと目を開ける。 「―――……おはよ、翠」  耳の近くで、柔らかい声がした。  電気は消して、カーテンをぴっしり閉め切った薄暗い部屋。ツインルームのはずなのに、一台のベッドに僕ともう一人。  僕の目の前、間合い30センチ弱。  髪をシーツに散らして、裸のまま微笑む渚香。  目尻の線は、相変わらず強情に渚香の目に引かれたままだ。閉じられた唇は、朝でも血色がいい。  横向きで寝ているせいで首の線から鎖骨までが不自然に浮き上がっていて、大

      • 初夏の酔  第4話−渇声−

        「翠、お姉さんのことも呼び捨てで呼んで?」  僕の下敷きになりながら、動くに動けない僕を見つめる先輩。 「ねぇ翠」  あなたも苦しそうなくせに。  僕はむしゃくしゃの発散がてらに、渚香の浴衣の帯に手をかけて、する、と引き解いた。 「ちょっ、…と。待ってって言ったでしょう!」 「えぇ、おっしゃいましたね渚香さん」  つっぱり棒の要領で、渚香の腕が僕を抑えようとする。だけど、男と女の力量差なんてわざわざ言うまでもない。  単純な結び目を解くのに、5秒もかからなかった

        • 初夏の酔  第3話−熱呼−

           僕の腕の中で、渚香先輩が目を固くつむって震えている。  申し訳なさとか恥ずかしさとか、今後の関係とか。なけなしの断り文句を皮切りに、すべてがぱっとふっ切れた。  渚香先輩が僕との熱にうなされてくれるのなら――… 「……んっ」  乱れた襟に手をかけて、指を滑らすように勢いよく浴衣を脱がす。帯は解かずに、肩でつかえた布を剥いでいく。  ―――少しばかり、考えないようにしていた。やはり渚香先輩は、浴衣の下に何も着ていない。正しい浴衣の着方と言えば、それまで。 「待っ――…あっ」

        枝豆の匂いがしたから 【小説】

          初夏の酔  第2話–劣情−

           彼女は、目を泣きはらして耳の先まで赤く色づかせている。今すぐにかぶりついて、舌で溶かしてから食い荒らしたい。  この劣情を劣情とはわかっている。  だけど、さっきとは違う、僕を意識している彼女の目が見たい。彼女と目線を合わせたくて、僕は彼女の目の高さまで腰を折った。  びくりと肩を揺らす彼女。  緊張か、目をさっと違う方向へ向けてしまう。  ぱっと彼女の頬に手を添えて、無理に顔をこちらに向けさせる。  顔を捕まえられても目を逸らしていればいいのに、彼女は素直だから僕に

          初夏の酔  第2話–劣情−

          初夏の酔  第1話−愛抉−

          「傷が増えたね」  そう言おうかと、僕は一瞬思った。いつと比べてなのか曖昧で、それでも生々しい色が僕の目をひゅっと息詰まらせた。  透明なほど真っすぐな白肌の上、完全な絵画にすり傷をつけてしまうようなイレギュラー。  だけど、彼女の目元に引かれたアイラインのほうが僕の目にはきれいに映ったから、彼女の脚にほどこされたリスカの痕にはなにも触れずにおいた。  ふと、彼女と目が合う。  彼女の線を凝視していたことがバレて、なんとなく取り繕って言った。 「……アイライン落と

          初夏の酔  第1話−愛抉−