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妖怪ゼニゲバ―

令和2年7月1日。
日本各地は妖怪ゼニゲバーに占領された。

「ジャスコン」、「ようかどう」、「コンビニ―」、「越後屋」などの日本を代表する選手の選手宣誓により始まった、妖怪ゼニゲバ―による日本占領。
「我こそは妖怪ゼニゲバ―なり!」

この報に拍手喝采し、小躍りしたものもいたかもしれない。
様子見を決め込んでいた小心者、はなから何も考えず流れに乗るだけの人。彼らにとってはまさに天の声、お告げ。この宣誓をきっかけに、小物の妖怪ゼニゲバ―があまねく日本に誕生した。


妖怪ゼニゲバ―の活動は、いたって明白。
環境保護を盾に、毎日を精一杯生きている消費者から小銭をせびり取ること。ある種の物乞い。ただ、この一点のみ。そして、消費者が不便をこうむっても、びた一文消費者の便利のために使ってはならない、消費者の不便のためには喜んで銭を使いなさい、という謎の鉄の掟を守るのみ。
魂を売れば誰でもできる簡単なこと、でも、良心ある知識人には決してできないこと。

そして、妖怪の総大将ぬらりひょんを気取った、吝嗇家の妖怪ゼニゲバ―らは自ら手を汚さず、全国に従える何千、何万という手下に業務を代行させる。手下はわずかばかりの給金と引き換えに、バカがつくほどの真面目さで、妖怪ゼニゲバ―の手伝いに今日も勤しむ。

「袋はいかがいたしますか?」

ショッカーの「イーッ!」に変わる名言が、ここに生まれた。


草の根活動担当のゲバラ―による執拗な攻撃。
「袋いりますか?」
「袋は?」
「袋……?」
買い物のたび、エンドレスに続く攻撃に、人々の心は次第に蝕まれる。

買い物は楽しむ場から、毒におかされる場所へ様変わりした。


妖怪ゼニゲバ―の頭にあるのは、次なるせこい稼ぎ方。レジ袋で味をしめた彼らは、次はどこから金をむしり取るか、その算段で頭がいっぱいのように見える。

人間に感情があるという当たり前のことにすら、もう思いが至らない。買い物はものを買うだけでなく、幸せも同時に買っているということすら忘れてしまっている。
ちょっとしたデザインの袋に入れてもらうだけで、心が潤う。それがへんてこなデザインなら尚更。笑うことを忘れ、きゅっと固く縮こまっていた心も癒され、ほどけてゆく。それだけの力がデザインにはある。

ちょっとした遊びやゆとりが人には必要だが、合理化ばかりを求める今はどこもかしこも色を失い、つまらない世界になってしまった。
お金、お金、お金。
無駄にも価値がある。けれども、無駄を認めない世の中。
タイパ、コスパ言ってる人は、いずれ自分もタイパ、コスパされる。自分の行いに自分が苦しめられる日が訪れる。


環境問題に関して、なにが正しいのか分からない。それでも、今のやり方はおかしいということだけは分かる。

なぜ、なくすのではなく有料なのか?
なぜ、持ち手のないものは旧来のものでOKなのか?
なぜ、製造者負担でなく、消費者負担なのか?
なぜ、個包装を廃止しないのか?
なぜ、指定ゴミ袋が存在するのか?
なぜ、ゴミ収集の仕方を変えないのか?
なぜ、24時間営業をやめないのか?
なぜ、再利用できない紙袋でゴミが増えることを推進するのか?

なぜは尽きないが、三年が過ぎた今も納得のいく回答は見出せない。世の中は矛盾で溢れているが、あまりにもお粗末。

本気で環境を考えるのであれば、建物を壊して更地に戻せばいい。
更地にゴザを敷き、その上に商品を並べ、夜になったら松明やかがり火を灯す、あるいは魚油を使えばいい。
地球が呼吸できるようにすることこそ、地球に優しいことだろうに。

「地球に優しく」って好きでしょ?
言葉だけでなく、地球に優しくしたいなら態度でしめそうよ。
立派な建物を建てるのは、ブッブー。
環境に優しくないからね。
立派な本社ビルも壊して、掘っ立て小屋にしてしまおう。
もちろん、エアコンも禁止。
だけど、うちわがあるじゃないか。
どうしても使いたければ、自転車をこいで自家発電。

「地球に優しい」お手本を、まずは身をもって示してごらん。


治安の悪化にも、レジ袋有料は一役買っていると考える。
あのやり取りは、地味に心が荒む。
そんな時わたしは、この人たちは何地獄に堕ちるのだろう? と考える。仕事とはいえ、数えきれないほど多くの人の心を害している。
閻魔大王と鬼灯様に厳しい裁きを望んでしまう。そんな私も、どこかの地獄行きなのかもしれない。

Wikipediaによると、「カタシハヤ、エカセニクリニ、タメルサケ、テエヒ、アシエヒ、ワレシコニケリ」の呪文を唱えると、百鬼夜行から身を守れるらしい。
妖怪ゼニゲバ―にも効果があるやもしれない。


九州北部から北陸中心に過去最大級の大雨の恐れが出ている。三年も不便な生活を耐え忍んだが、環境は悪化しているように感じる。
レジ袋有料は環境のためだったはず。
おかしなものだ。

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