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#言葉

固い殻

その日を境に、彼女はクラスから姿を消した。 親は兄に高望みをしすぎた。 長男でもあり、反抗期もなく従順だった兄に期待を寄せすぎていた。兄は、公立の受験に失敗した。私立に通うことになり、両親ともに体に問題を抱える我が家の家計は火の車だったのだろう。私の高校受験は、兄の犠牲になった。 偏差値を無理やり下げさせられ、望んでもいない高校を受験させられた。泣いて何度も頼んだ。行きたい高校に合格するんだと勉強に励み、手応えを感じていた矢先のことだった。 15で、自分の思いだけではど

透明な言葉

深い深い海の中。 シャボン玉のような透明で厚い膜で体は守られ、深海をゆらゆらと一人たゆたっている。私に音が届かない。 そんな錯覚に私は陥る。 言葉が次々に私の体をすり抜ける。 するりするり。 捕まえようと手を伸ばしても、掴めない。 つるりと逃げる。 精一杯手を伸ばしても、触れることはない。言葉らしきものの音の残響だけが、私の身体にまとわりつく。 目の前にいる人は私と同じ言語を使っているはずなのに、その言葉は意味をもたない。口をぱくぱく動かして、なにか音を発している。