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【台湾で漫画編集する③】就業金卡の申請には何が必要?

就業金卡(就業ゴールドカード)の申請条件にかすっている程度の私が、ハッタリかますために何を用意したのか? そして審査結果を受け取るまでどれくらい時間がかかったのか? 今回はそのお話です。

<バックナンバー>
【台湾で漫画編集する①】就業金卡いかがですか?
【台湾で漫画編集する②】就業金卡の申請条件って?

申請はすべてオンライン。チャットで質問もOK!

就業金卡の申請は、すべてオンライン操作。必要書類をアップロードすれば完了です。海外からでも申請できます。

これからしばらくは、このサイトとの密なお付き合いが始まります。申請ボタンを押して、まずは会員登録を。

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会員登録をすませば、個人情報や必要資料をアップロードしていきます。

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「ふおっ! 住所入れるのか」と、さっそく不安が。私の住んでいるアパートはポストが機能していないので(台湾あるある)、もし重要な通知が郵便で来ても受け取れないかもしれないのです。

困ったときには、台灣就業金卡辦公室に聞いてみよう!

このHPは就業金卡事務局のもので、申請の流れや申請資格などを紹介しています。そしてチャットで問い合わせもできてしまう。でも、問い合わせチャット欄がなかなか出てこない。どこだどこだと探すと、あった!

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「一頁式申請流程」のページへ行くと、右下からぴょこんとチャット欄が飛びだしてきます。わからないことがあれば、ここでドンドン聞いていきましょう(中国語、英語対応)。ポスト問題は、「通知はメールのみ。郵便は使わない」とのことでひと安心。

個人情報はただ打ち込んでいくだけですが、はてさて資料は何が必要なのでしょう?

自分で経歴書を作ってハッタリかまそう

<『文化・芸術分野の出版事業』申請でアップロードする資料>
●パスポートのコピー
●顔写真
●10年以上の就業経験があることがわかる退職(or在職)証明書※中国語か英語

これだけ。経済分野では❝直近3年間の月収が16万台湾ドル(約64万円)以上の証明❞が必要だったりするようなのに……。まぁ、それを求められても困るんですが。(各分野の申請資料については ↓ をご覧ください)

あまりの少なさにまたもや不安になり、台灣就業金卡辦公室に「大学の卒業証明書はいりますか?」と聞いたところ、必要ないとのこと。まぁ、経歴10年以上の人間に、今さら学歴証明なんて意味ないか。

でも私は、しがない日本の出版社での経歴しかありません。台湾にとってはどこの会社かもわからない退職証明書だけでは、「ふん、あんたなんか台湾の役に立ちゃしねぇ」と一笑に付されることでしょう。ハッタリかませない!

そこで「自作の経歴書を添付してもいいですか?」とさらにたずねたところ、「そういうのがあったほうが、審査機関もあなたの背景が分かるのでいいですね」。ただし「中国語か英語のものでね」と念を押されました。

名も知れぬ出版社だったとはいえ、私も編集者のはしくれ。10年以上ライフスタイル誌を作ってきたんだから、まずは全体の構成を考えて、ラフをきって……。とにかく「台湾には漫画編集ができる私が必要ですよ!」と声高らかにうたいあげてやろう。

てなものを地味に数日かけて、まずは日本語で作りました。それから下手っくそな中国語に自分で翻訳。当然こんな中国語じゃ使い物にならないので、ちょうど日本留学から台湾へ戻ってきてホテルに隔離中だった台湾人の友人に添削してもらいました。真っ赤になって戻ってきたテキストを確認しながら、「公的文章ってこんな単語使うんだなぁ」と同時に中国語の勉強を。

それから担当作家さんに画像使用のお願いをして、ペタペタとレイアウトしていき――最終的に私が用意したのは「経歴書」と「事業予定書」の2点です。

◆経歴書◆
時間軸に沿って書くと漫画編集の部分が強調できないので、経歴の流れはガン無視して次のような構成にしました。
「台湾と日本で、台湾美食の漫画を出版したよ! 台湾文化部の協賛作品だよ!! 台日のいろんな媒体で紹介された注目作品だよ!」
⇒「台湾関係ではこんな取材したり、コラムを書いてるよ」
⇒「日本でこんな漫画を編集したよ! 今でも配信されてる、出版社の屋台骨となってる作品を立ち上げたよ!」
ーーここまでは漫画・台湾関係なので声高らかにーー
⇒「ライフスタイル誌も作ってたよ。経済界、芸能界いろんな著名人に取材したよ。人気企画を担当してたよ」
ーー「著名人」をアピールしつつも、全体のボリュームは控えめにーー
⇒「台湾企業で読み物サイト作ってたよ」
ーー消え入るように…ーー
◆事業予定書◆
ここでは現在、日本の媒体に向けて具体的に制作中の作品があることを、作家さんの名前やプロット、取引先の会社名を挙げながら、「妄想だけで言ってるんじゃございません」と主張。そのあとに「台湾漫画のここに問題あり。私がいれば、これから改善できますよ、えっへん」と自己アピール

最初はひとつにまとめていたのですが、1ファイル2メガまでしかアップロードできないので、「経歴書」「事業予定書」のふたつに分けました(ファイルは5つまでアップロード可)。それでも画像をたくさん使ったので重いったらありゃしない。PDFに縮小かけたら画像が荒くなるしで、その調整に一番時間がかかったかもしれません。

申請費用は前払い。合否に関わらず返金ナシ!

書き上げてみると「あら、私って案外スゴイんじゃない?」と自分にも暗示がかかってしまいました。この勢いでアップロードしちゃえ。

アップロードして申請ボタンを押すと、「お金払って」の欄に。申請費用は前払いです。もし申請が通らなくても返金されません。世知辛い!
金額は希望するビザの有効期間(1年、2年、3年)、台湾の居留証があるかどうか、アメリカ国籍かそれ以外かで変わります。

「有効期間3年、居留証ナシ、日本国籍」の場合は9260元(約3万7000円)。これがいちばん高額です。私は居留証を持っているので有効期間3年で3500元(1万4000円)。安くすんだけど、これまで台湾に税金を払ってきたので、そういうことなんでしょう。

クレジットカード片手に支払いを済ませると、メールで申請番号が送られてきます。これからの確認に必要な番号なので、分からなくならないようにメールに重要スターマークを付け、ここからはひたすら待つ日々。

時々、申請データに不備があったとメールや電話が来ました。「台湾の退職日が違くない?」「住所、書き間違ってない?」。台湾はマイナンバーのような統一番号で銀行の入出金、就労状況、通院記録、住所などなど個人情報が管理されています。筒抜けです。

修正はまたオンラインで。連絡が来てから30日以内に、自分の会員ページに入ってアップロードしなおしたり、打ちなおしたり。

申請してから待てど暮らせど……

審査には60営業日かかるとホームページに書いてあります。営業日なので2か月ではありません。資料の修正があれば、さらに時間が加算されてしまうとか。審査の流れはこんな感じ。

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審査がどこまで進んでいるかは、会員ページで確認できます。でもずーっと「勞發署審核(労働署で審査中)」のまま。文化・芸術分野の場合、たぶんほかに文化部の確認も取ってるはず。でも文化のぶの字も出てきません。

3月23日に申請して、「勞發署」から動かないままの文字を毎日眺めているうちに、5月15日にコロナ警戒レベル第3級に突入。世の中はリモートワークに切り替えられてゆき、就業金卡辦公室も「事務所への来訪は休止します。質問はチャットだけでよろしく」、外交部も「ビザの申請関係の審査は、就業金卡も含めて中止します」てなことを言いだして。

「これ絶対、審査進度遅くなるやろ」

私のタイムリミットは7月頭。それまでに審査結果が出なければ、日本に帰らなければなりません。もしそのあとに審査が通ったら、カードの受け渡しが面倒くさいことに。それに帰国するなら荷造りしてアパートを解約するなど準備も必要。
落ちても受かっても、とにかく早く結果を……!

やきもきしながら結果を待っている間に、コロナの影響でビザ延長の特別措置が発表され、8月頭まで滞在できることになりました。8月頭までには分かる……よね?

悩んだときには就業金卡辦公室。一般的にどれくらい審査に時間がかかるのかゴリ押しして聞きだすと「早い人で2か月。でも書類不備などで時間がかかる人は半年」。は、半年!? 間に合わないかもしれない。

60営業日の6月14日がすぎても、確認画面の文字は変わらないまま。就業金卡のことを教えてくれた、お向かいの奥さんも心配そう。

「はぁ…、もう帰国便のこと考えるか」

そう思いはじめた6月24日、画面に突然「待審核(審査待ち)」の文字が! これはやっと文化部に進んだか!? 
急いで就業金卡辦公室に「待審核に変わったんだけど、これってどんな状況?」と問い合わせると、「香港籍かどうか確認してるってこと」と。
何!? 文化部すっとばして国籍の確認に進んでる。

「ということは、各署の書類審査は通ったってこと?」
「そうだよ。今は移民署の最終確認。これがすんだら、就業金卡を印刷するよ」

まさに急転直下! 審査に通った! これで3年間、フリーランスとして台湾で、台湾人の漫画家さんたちと大手をふって作品が作れる!!
その日はなんだか気持ちがフワフワして、審査結果を伝えた友人たちからのお祝いのメッセージを何度も読み直してしまいました。

6月25日には移民署から「非常恭喜您!(ほんっと、おめでとう!)」の書き出しから始まる、審査が正式に通ったことを伝えるメールが届きました。そして3日後には「カードが完成したから、移民署に取りに来てね」と連絡メールが。メールには書いてありませんでしたが、30日以内に受け取らなければなりません。

私の場合はすでに台湾に住んでいて居留証を持っていたので、外交部でのパスポートチェックはなかったようです。

そうしてコロナ警戒レベル第3級とにらめっこしながら、申請費用支払いの領収書をダウンロードして、7月12日にカードの現物をとうとう手にしたのです。
いままでの青色の居留証ではなく、その名の通りゴールド(黄色?)。しかもケース入り。とても特別感にあふれていて、ニヤニヤと眺めたおしてしまいました。

申請から審査結果の通知まで、ほぼ3カ月でした。

※6月30日から審査の進行確認欄に、担当各署の審査状況も記されるようになりました

自分推しを貫いてプレゼン!

就業金卡に興味がある。だけど申請条件を満たしていない。そんな方にも「チャンスはあるかもしれませんよ」とお伝えしたい。前述のとおりお金がかかることなので(しかも合否に関わらず返金されない)、「絶対、申請するべき! 大丈夫!」とは言い切れませんが。

でも文化・芸術分野ってとても曖昧。日本の小さな出版社でも編集長をやってればいいの? 大手出版社でも平社員じゃダメなの? そんなの、日本でだってよくわからないこと。ましてや台湾にわかるはずがありません。

台湾が望んでいるのは「台湾にどれだけ寄与できるか」。この一点だと思います。

他国の状況が分からないから、国際的にわかりやすい、とてつもないレベルの会社名や役職を要求しているのではないかと思います。それなら退職(在籍)証明書だけで判断できるからです。

文化・芸術分野は曖昧だからこそ、自作の経歴書は絶対に作ってください。できれば事業予定(計画)書も。
それは書式に則ったものである必要はなく、「自分推し」したものであることが大切です。これだけはハッキリ言えます。私なんか、最後のページにこんなの ↓ 入れて、「就業金卡ちょうだい!」とまでアピールしましたから。

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日本だと書式が重視されがちで、それを逸脱したものは「はりきっちゃって」「規則を守れない奴め」と見られる節もあります。でも台湾は外国人人材を求めています。日本人は、台湾にとっては外国人です。だから日本の書式なんか知ったこっちゃありません。伝わるかどうか、それだけです。

求められている基本的な資料だけでは何も見せる物を持たない私は、「漫画で台湾に関わりたい。そんな私は台湾のためになる」「なぜなら私はこういう仕事をしてきたから」を経歴書と事業予定書のなかでガンガンに押していきました。そして、ちょっとでも「すごい」と思わせられるようなことはドンッと見せるようにしました。
ウソはつかないけれど、ハッタリはかます。企画書作ってプレゼンするのと同じことですね。商品は自分。

AKRUさんと『呷飽未?阿米與美菜樂食記』を作ったことは大きかったのではないかと思います。私にとって台湾政府にわかりやすい台湾との接点はこの作品でしたが、人によってそれぞれの接点があるはず。自分の経歴と、これから台湾でやれること、やりたいことをリンクさせてそれをしっかり見せることができれば、大企業じゃなくても、役職経験に不安があっても可能性はあると思います。

今まで自分が何をしてきたのか、こんなに真剣に振り返ったことはありませんでした。事業予定書を書き上げたとき、日本の友人と「審査に通らなくても、これを書いたことで、これからの自分のやるべきことが整理できてよかったよ」と話しました。どんな結果であれ、きっと無駄にはならない。きれいごとでなく、本当にそう思います。これから台湾で道に迷いそうになるたび、私はこの事業予定書を見直すでしょう。

※    ※    ※

ここまで長々と、個人的な就業金卡取得記をつづってきました。

2021年6月で、就業金卡発行枚数は計2878枚。文化・芸術分野は207枚で、そのなかの出版事業での取得者はきっと微々たるものでしょう。難易度が高いのではなく、申請者数が少ないんだと思います。だからこの私の記録もピンポイントすぎて、役に立つ人は少ないかもしれません。
でも「台湾とのこういう関わり方もあるのか」というちょっとした発見と、「台湾で仕事がしたい」と思っている方へのヒントになったなら嬉しいです。

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