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学芸員科目を受講してる話

高専を卒業し、地方国立大に編入して2ヶ月ちょっとが経った。地元よりも夏が長いこの土地には、もうすでに夏の気配が忍び寄っている。毎日毎日めちゃめちゃ暑い。真夏になったらどうなっちゃうんだろう。


編入してからというもの、大学3回生の空きコマの多さに恐れ慄いた私は、時間割を埋めるために学芸員科目を取ることにした。学芸員資格は、あくまで「博物館の仕組みとか保管方法のことを知ってますよ」という資格であり、学芸員として働くには美術史だったり自然科学だったりと各分野の知識が必要なので、工業寄りの学生であるわたしが学芸員になることはないだろう。まあそんなわけで、気楽に受講している。

化学ばかり勉強してきたわたしにとってはどの科目も新鮮で、とても楽しい。日本史すらよく知らないのに、フィレンツェ(フィレンツェってどこ?)のウフィツィ美術館の歴史を学ぶことになったり、建築のけの字も知らない状態で伝統的建造物群の改修について調べることになったり。かと思えばX線回折やらIR測定やら、専門科目で習ったような分析装置がひょっこり顔を出したりする。これらの授業を楽しく感じるのは、知識を脳味噌に刻みつけることよりも楽しむことを優先に話を聞いているせいもあるかもしれないけれど。

博物館についての意見、見解はそれぞれの先生で異なっていることも多く、「逆のこと言ってるじゃん」と混乱させられることも多いが、ある1点だけはどの先生も同意見である。どの科目の先生も口を揃えて「今の博物館はお金がない」と深刻な顔で言うのだ。どうやら現代の博物館はお気楽な状況ではないらしい。

国立大学と同様に、国立博物館が独立行政法人化したのは平成13年のことである。それ以降、博物館はその運営費を自力で稼がねばならなくなった。勿論、国からの補助金もあるが、年々その額は減少しているという。大学と同じだね。

また、バブル期に調子に乗って建てちゃった地方の博物館の数々はそろそろ老朽化し、補修で莫大なお金が必要な上に、入場者数が減少していることも相まって苦戦を強いられている。

このジリ貧状態を脱するために一番手っ取り早いのは、『常設展』に人を呼ぶことだ。

わたしも含め、多くの人が美術館や博物館に行こうかと思い立つのは、『特別展』の開催がきっかけになることが多いだろう。特別展とは、期間限定でテーマを決めて行われる展覧会で、最近だと「クリムト展」なんかが話題になった。広告を打ったり、他所から展示品を借りてきたり、図録を作ったりするので、まあお金も時間もかかる。昔はテレビ局や新聞社がスポンサーとして出資し広告もたくさん打てたらしいが、景気が悪くなって展覧会の入場者数が減少するようになってからはあまり大きなスポンサーが付かなくなってしまったんだとか。

これに対し、自分たちの持っている作品を公開するのが常設展である。他所から物を借りないのでお金がかからない一方、大きな宣伝をするわけでもなく、「いつでも見られるじゃん」と思われがちなので、あまり人が来ない。

しかし、日本の文化財というものは、紙や木、絹などの劣化しやすい素材が多いので、実は常設展でも結構な頻度で展示替えをしている。「いつでも見られる」わけではないのだ。また、常設展は特別展に比べてチケット代がかなり安い。「美術館とか博物館ってお金かかるし」と敬遠されがちだけれども、1500円2000円かかるのは特別展の話で、大抵の館の常設展は1000円以下で入れる。

つまり、常設展はお得なのだ!しかもコンスタントに人が来れば博物館も儲かる!

でもやっぱり人は来ない。どうすればいいんだろう?博物館や美術館に何の関わり合いもないわたしだけれど、ボーッと考えてみた。実験レポートに追われながら、銅鐸の製法をノートにまとめながら。


そんなある日、Twitterで見かけたのが、日比谷花壇さんの「ハナノヒ」というサービスだ。

「ハナノヒ」は、毎月決まったお金を払いさえすれば、店舗に行ったときにプランに応じたお花が受け取れる、というシステムだ。たとえば、1番安い「イイハナ」プランでは、店舗に行けば毎日1本お花が手に入る。毎日お花を1本持って帰路に着く生活って最高じゃない?わたしの下宿の近所に店舗があれば、きっと利用していただろう。

定額で定期的に花が手に入るというサービスは他社でも展開されていたが、そちらは宅配便で届くサービスだった。この「ハナノヒ」の注目すべきところは、利用者が店舗に行かなければサービスを受けられないという点だろう。店舗に行ってその場でお花を受け取るのにはお金がかからないので、ついでに何か買おうかな、という気になったり、誰かの誕生日祝いの花束が必要になれば「いつもの花屋」にお願いしようか、という気にもなるだろう。

利用者と店舗の距離感を狭める、素敵なサービスだ。でもこれって、博物館や美術館にも応用できるんじゃない?

例えば、月々1000円払えば提携している博物館や美術館の常設展に入り放題にするとか。入館証代わりにアプリを使って、そのアプリで常設展の展示替え情報を伝えるとか。

そのサービスを利用して常設展に行ったついでに、ミュージアムショップで買い物をするかもしれない。併設のカフェでティータイムと洒落込むのもいいだろう。せっかく来たから特別展も見ていこうと思うかもしれない。展示を見ることが重要ではあるが、展示以外の楽しみも今の博物館にはたくさんある。花を1本持っておうちに帰る生活と同じように、ふらっと博物館に行ける生活も素敵じゃない?


前述の通り、わたしは博物館の関係者でも、美術館の関係者でもないし、そうなる予定もない。ついでに言えば、経済のこともよく理解してないし、アプリの開発もできない。わたしにできることと言えば、マイクロピペットのチップの補充ぐらいなものだ。

だけど博物館も美術館も好きであるということに変わりはない。だから、博物館や美術館の発展に役立ちそうな知識や技術を持った人が、ちょっとでも興味を持ってくれればいいなと思います。丸投げで申し訳ないけれど、どこかの誰かさん、どうかよろしく。


#博物館 #美術館



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