涙もろい私が初めて人前で泣いた話

 私は恐ろしいほどに涙もろい。かれこれ何年も、ふとした拍子に涙を流してしまう。
 なかでも特に多いのが、ひとりで車を運転しているとき。ブラック企業で働いていたときは、社用車の中で毎日ひとり泣いていたほどに涙もろい。そしてその多くが、「辛い」という気持ちから始まる涙である。

 昨年春に会社を辞めて(クビになって)、秋に独立してから1年が経った。高校生のときからの夢だった「社長になる」を形式上は叶え、コロナに感染したとき以外ほぼ休まずに働き続けた。今年の6月は睡眠時間を削りすぎて生理が1か月半来なくなったりもした。それでも、私の日々は夢に近づいている歴史の途中だと信じて止まなかったし、どんなに体がしんどくてもやってこれた。

 そんなとき、商品が全く入ってこなくなった。

私の仕事は天候や自然に大きく左右される。それまで右肩上がりだった売り上げが、全く伸びなくなった。それどころかガタ落ち。企業は立ち上げた時から出血が始まっているとはよく言ったものだ。本当に、本当に、怖い思いをした(し続けている)。

 「これも長い企業の歴史だ」とずっと思っているし、自分のポテンシャルであればきっと回復させてよりジャンプアップできるという自信もある。だけど、先の見えない不安は、確実に人の心を蝕んでいく。陰キャでありながら自営業者として、お客さんや取引先だけでなく、友だちや家族の前でも基本ごきげん快活ブランディングをしている(X旧Twitterでは弱音垂れ流しまくりだけど)。好きな人の前では、病んでいる自分をどうしても見せたくない。メンタルが脆い、危うい奴だと思われたくない。いつだってギバーのスタンスでいたい。私はどれだけ自分にゆとりがなくたって、困っている人の役に立ちたいし、自分にできるなら幸せにするお手伝いをしたい。眠くたって、友だちに「今しんどくて」って言われたら、深夜のファミレスで話を聞いてしまうし、苦手な電話だってしてしまう。

 でも、それが全部できなくなってしまった。溢れそうなほどに辛い思いが積もり積もっていたところに、人から言われた些細なひとことが突き刺さってしまった。きっと、相手からしたら深い意味なんてなかったんだろうけど、それを切り返せるほどの余裕がなかった。普段だったら、笑ってネタにできることも、しっかりと傷ついてしまったのだ。どうしよう。もうさすがに限界だ、と力が抜けていくのを明確に感じた。

 私は普段から人に「疲れた」や「しんどい」を言えない。周りの人はお客さんや取引先、同級生であってもうっすらと仕事のかほりを感じてしまい、やっぱり期待を裏切れないという気持ちで弱音を吐けない。疲れたときはジムに行って運動する、それでもしんどいときはひとりでシクシクと泣く。そんな感じなので、一時期Tinderで初対面の人に「性格的に弱音を吐けないけど、疲れてしまったのでお疲れ様と言ってください」という「オツモク」をやっていた。初対面で、自分のことを全く知らない人には弱音を吐くことができたし、「お疲れ様」という言葉は普段から誰もが使い慣れているため、相手の負担にもならず、どんな人でもカラッと言ってくれた。初めましての人にお疲れ様と言ってもらうことで、私は心のバランスを取っていたのである。

 ただ、ここまでの限界が来てしまうと、それではどうすることもできないのは分かっていた。どうしようもなくしんどい、誰か助けてほしい。でも誰に?深刻にとらえず、ただ側にいてくれればいい、何なら笑ってくれ。
 そう思って連絡したのは、かつてのセフレだった。え?チョイスがまじでキショいなって?自覚ですか?ありますよ、大ありですよ。でも、仕事関係ない人、もっと言えば別に私のことを応援してくれてるとかではない人じゃないとダメだったんだ。そうじゃないと弱音吐けないから。会ってたときも、今好きな芸人の話とか、友だちのバカ話とかしかしたことがない、クラスに1人はいたであろうお調子者。きっとインターネットの力がなければ一生交わることのなかったような人(だって私は不登校だったからね!)。

 久しぶりだね〜どうしたの?と聞かれたので、事の顛末を話しながら、途中で「えーん!」と声を出して泣いてしまった。31ちゃい、まじで恥ずかしい。でも涙はとまらない。鼻水だって流れ続ける。こんなに涙腺ガバガバなのに、信頼できる人のカウンセリングの時だって泣いたことないのに。もちろん笑われたし、ひとしきり号泣したら超スッキリして、くだらない話をして、ジュースを飲んで。最後は笑って解散できた。翌日は右目だけパンパンでしたけど!

 結局Tinderで知り合った人ではあるけれど、やっと、限界のときに、人に助けを求められるようになった。だけど、もっとポップに人に頼れるようになりたい。ここまでイカレ精神状態になってからではなく、もう少し自分のことを思ってくれる人に、普段から自分の弱みをちょっとだけ見せられるようになりたい。自律神経の調整とは分かっていても、1人で泣くのはやっぱりしんどい。こうやって文章にすることで心を整理して、少しでも笑い話に変えていきたい。だから、こんなキショ経験を赤裸々に綴りました。結局ネットに投稿している私は、つくづくインターネットから出られない。
 
 きっと好きな人にだっていつかこの記事を読まれるんだろうな。恥ずかしいね。でもこのキモ体験談が、誰かの心を少しでも軽くできたら、フラれたって、まあいっか。みんな、絶対幸せになってくれよな。人知れず泣くんじゃないぞ。

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