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【超短編小説】都会のカマキリ

「チッ、チッ、チッー!、俺としたことが、ミスっちまったぜ。取り返しがつかねえ。。段ボールにひっついちまったのが運の尽きか?。。。」
高層ビル群の一角。四方八方はコンクリートでガラスの扉がいったりきたり。わんさか人間どもが入ったり出たり。かわし切れずに尻を半分踏まれちまった。
「ヤバいぜ。下腹部一部破裂ってところか。。動けねえ。情けねえ。」
「俺は俺の草原で、ダントツの『キング』だった。『トノサマ』も『キチキチ』も『コオロギ』も俺様には一目置いてたんだぜ。ワイフもよ。それがどうだこのざまは。。」
俺は干からびて半日以上けいれん状態。

ウィーン。

ガラスの扉があいてまた大勢の人間が押し寄せてきた。
「く、くそっ、こんなところでくたばってたまるか。」
俺は全身の力を振り絞って自慢の大鎌を振り上げようとしたが、わずかにゆっくりと動かせただけだった。
「こんなことなら、早いうちにワイフに食われちまえばよかった。」

少しだけ涙が出てきた。
「な、なんのこれしき、、、」
俺はもう一度鎌を振り上げてみた。
今度はスムーズに、得意の体勢に構えることができた。

「あれっ、こんなところにカマキリかあ。」
「すこし踏まれてる。もう、だめかあ。」
拾い上げてみると鎌が動いている。
「まだ向かってくる気か、コイツ、やるなあ、、死ぬなよ。
ビルの裏に草むらが少しあったな。夜露を吸えば元気になるかも。」

「今日も一日営業回りでアクセク走ったが、全くだめだった。イヨイヨ、俺もこいつみたいに運の尽きってとこか、、」

コツン、コツン、コツン。
そう思いながら半分近く潰れたカマキリを手の平に乗せ、非常階段を下りて行った。

ザクッ。久しぶりの土の感触。人気のない、ビルの裏の草むらにそいつを
そっと、はなしてやった。
「このカマキリ、まるで俺じゃあないか!?!?」
「いや、まてよ、俺がこのカマキリなのか!?」

見るものが見られるものに、見られるものが、見るものに、、、、
一瞬、主観と客観の壁が崩れて、世界が混沌とした。
月光に向けて、俺は二本の大鎌を振り上げた。
踏まれようが、潰されようが、決して折れない二本の大鎌が、
俺にもある。

朝露を待って、俺たちは必ず復活するだろう。

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