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つま怪談 第三夜

つまです。
これは最近私の身に起きたある出来事の話です…。

 
 

思い出すのもゾッとするような出来事でした…。

 

 
 
その日…外は豪雨で、ジメジメとした空気がなんだか気味の悪い日でした。
 

私と夫はテレビでお気に入りの番組をみていました。
「ざんねんな生き物事典」という、様々な動物の生体を紹介する番組です。 
 
 

かわいいイラストで歌と共に紹介される動物たちの朗らかさとは反して、窓の外はザァザァと恐ろしいくらいの雨音が響いていました。

 
 
 
『金魚は、キチンと育てないとフナになってしまう』
 
 
 
テレビのナレーションの声がそう言いました。
どうやら、金魚は元々フナの中から奇跡的に綺麗な発色を持って生まれたものを掛け合わせて、少しずつ生まれた生物だそうです。なので、水槽の中が汚かったり、雑な飼育をすると金魚はどんどんフナのような風貌に変わっていくというのです。
 
 
「えー、そうなんだ。なんか怖いね。」
 
 
私は夫にそう話しかけましたが、それと同時に何か奇妙な気持ちになりました。夫の横顔を見た瞬間、嫌な予感が背筋を通り抜けていったのです。
 
すると夫がゆっくりと、こう言いました。
 
 
「でもさ、ヤス子も昔、言ってたよな。」

「?」
 
 
夫のやけに低い声が、雨音と重なりました。
私は一体何のことだかわからずに、固まりました。
昔?金魚がフナになることを?いや、私は今まで金魚がフナになるなんて知らなかったし、夫にそんな話はしたことがないはず。
わけもわからず何も答えられない私に、夫はまた口を開きました。
 
 
 

「昔飼ってた金魚がどんどん大きくなって、フナになったって。」
  
  
 
 
私は、金魚を飼ったことがないーーー。
 
 
 
「え……?それ…私言ってた…?」
 
「言ってた言ってた。」
 
「私金魚飼ってたって言ってた?」
 
「うん。」
 
「私は金魚飼ったことないよ…?」
 
「飼ってたって。」
 
 
 


夫の目がまっすぐ私を見ながら言います。
夫は嘘をつく人ではないし、冗談を言っている風でもありません。
だんだんと私は恐ろしくなってきました。
夫の目は私を見ているものの、どこか生気がないような、焦点があっていないような、夫ではないような、そんな気がしてきてしまいました。
彼は本当に、いつもの彼だろうか?もしかしたら…
 
しんとした沈黙の中で雨音だけが響きます。
だんだんと背筋が寒くなってきました。
すると突然「あっ」という夫が声を上げたのです。
その声に驚き身体を硬直させる私に、夫はこう言いました。
 
 
 
「それ、俺や。」
 
 
 
 
 
 
つま怪談 第三夜
「自分の記憶を他人の記憶と入れ替える妖怪」

失業中の夫婦をサポートしていただけたら・・幸いです・・食費にします・・そんなこと関係なく、ただ楽しんでもらえたら本望です・・